第15話 「第19回ハガキ職人グランプリ中間発表」
今日は特別の日です。待ちに待ったハガキ職人GPの中間発表の日。
皆もいつもより早く集まる事に決定です。
私が部屋で待っていると最初に多記君が来ました。
「あれ? オレが一番乗りか」
「うん」
多記君は私より少し離れて座りました。
座ってしばらく、腕組みをして下を向いたかと思えば、今度は座り直したりして、何だか落ち着きが無いです。
「多記君、緊張してますか?」
「し、してねぇよ……そういう波乗はどうなんだ?」
「私は……感謝してます」
「はぁ?」
「前はこんなんじゃなかったから」
「……波乗?」
「いつも発表の前には諦めていました。でも今回はワクワクしてます。これも皆のお陰……特に多記君には感謝してます」
「止めろよ照れくさい」
多記君は顔を赤くしてそっぽを向いてしました。
でも、本当に感謝してます。神様、仏様、多記様って感じ。
でも、仏様は死んだ人のことなので仲間に入れません。
「ちーーーーーーーすっ!!」
気合の入った大声とともに川上さんがドアを開けます。
川上さんの服装に私と多記君は呆然としてしまいました。
「川上、何でタキシードを着て来るんだよ」
「バカ野郎!! 今日は大切な日なんだぞ正装してくるに決まってるだろ」
「別にテレビに映るわけじゃないし、中間発表だろ?」
「そ、それはそうだが……駄目なのか?」
「いや、意味無いだろ」
「そうか……」
「えーーーーーーっ、意味あらへんの!?」
川上さんの後ろにはスパンコールとビーズを散りばめた紫のパーティードレスを着た佳代ちゃんが立っていました。
二人を見た多記君はため息をつくと一言言います。
「……とりあえずお前ら座れ」
今、室内には普段着を着た私と多記君。タキシードを着た川上君。さらにはパーティードレスを着た佳代ちゃんが座っています。
確かにいつもとは違う雰囲気。
「あーっ!! こんなんやったら来る前に多記か澄音に電話して確かめればよかったわ!!」
「お前らその格好で町を歩いてきたのか?」
「そうや」
「そうだけど」
「プッ」
「笑うなっ!!」
でも、二人の気持ちは分かります。それだけ大切な日なんです。
しばらくして、大きな足音が外からしました。琴和さんが来たみたいです。
「おまたせ〜!! リンちゃん登場!!」
「!!」
私達の目の前には純白のウエディングドレスを着た琴和さんが立っています。
これで三対二になってしまいました。
「何でお前らそんな服を持ってるんだよ……」
普段着組の私達の方がおかしいみたいです。
多記君は呆れていました。
この光景を見た私の気持ちを多記君へ正直に伝える事にしました。
「多記君……」
「なんだよ」
「私もドレス着ていい?」
「……勝手にしろ」
私も急いでカクテルドレスに着替えます。
ということで「ラジオデイズ」が始まる頃には多記君以外皆、正装になりました。
こういう状況になると私の部屋に居るのが勿体無くなります。
そう思っていたのはどうやら私だけではなかったみたいで……佳代ちゃんが皆に提案しました。
「なぁ、折角の中間発表やし、玄関にあるラジオブースから聴かへん?」
「佳代、珍しく良い事言った」
川上さんも賛成しました。琴和さんはもう立ち上がっています。
多記君はもう何も言いません。
『さぁ、みんなおの待ちかね、第19回ハガキ職人グランプリの中間発表だ! 心して聞けよ!』
私達はラジオブースの前で発表を聴いています。
さっき華富さんが顔を引きつらせながら私達を見ていきました。
やっぱりラジオブース前にドレスの集団が居たら変でしょうか?
でも、お父さんはこっちを見ずに淡々と番組を進めています。
「私達頑張ったよね?」
「あぁ……」
何か言葉数が少ない感じをみると、多記君も緊張しているみたいです。
そんな皆の緊張をよそにお父さんの話は続きました。
この中間発表では上位10人を発表します。ドキドキします。
10位、9位、8位、7位、6位発表されますが、宝条リンの名前がありませんでした。
正直、不安です。
「宝条リン……ランク外なのかなぁ……」
「いや、大丈夫だ。6位の読まれた枚数が76ポイントだ。俺たちは少なくともそれよりは上のはず」
不安になった私を多記君はフォローしてくれます。少し勇気がわきました。いよいよベスト5の発表。私達は息を飲みます。
『注目のベスト5の発表だ! まずは第5位! PN、クックルドゥーで84ポイント!!』
「はぁ〜〜〜〜〜っ」
私達は同時に息を吐きました。
放送はクックルドゥーさんの簡単な紹介があった後、続けて第4位の発表されます。
『第4位!! ――PN、100g98円で88ポイント!!』
「多記君! じゃあ私達ベスト3に入ってるんだ!」
「ああ! 信じられないが、そうみたいだな!」
私はこんなにワクワクするのは初めてです。思わず手に汗握りました。
きっと、多記君も同じ気持ちです。
私は皆にハンカチを渡しました。皆はそれを黙って受け取り、手を拭いています。
『とうとうベスト3の発表だ!! 今回は初登場のハガキ職人がいるぞ!!』
初登場はきっと私達です。心臓の音がドキドキからバクバクに変わりました。
横目で多記君を見ると、目を瞑り、口をへの字に曲げて下をむいていました。
私も同じ格好をします。
『第3位は……PN、気まぐれサーファーで94ポイント!!』
「気まぐれサーファーって誰?」
川上君は知らないみたいです。多記君が質問に答えました。
「お前は途中から入ったから分からないかもしれないな。MVPこそ取らないが、どのジャンルにもまんべんなく採用されているハガキ職人だ」
「ふーん、中途半端ってことか。まるでお前みたいだな」
「……うるさい」
『さぁ!! 第二位の発表だ!!』
「!!」
少し目を開け多記君を盗み見すると、への字の口がさらにへの字になっていました。
さらに私も負けじとへの字にします。なんか口の筋肉が痛いです。
泣いても笑っても後、二人。
本当に入っているのでしょうか?第2位の発表です。
『第2位はPN…………ペンシル祭で100ポイント!!』
「なっ!?」
「あーいいなぁ100だって!」
「波乗、感心してる場合か! ……なんか不安になってきた。ホントに入ってるのか?」
そんな心配をしているうちに、第1位の発表です。
ドラムロールが鳴り出しました。
多記君は拝みながら「自分を信じろ」とブツブツ言っています。
他のメンバーも目を瞑っています。
そして、長いドラムロールの後、お父さんの声が聞こえました。
『なんと今回はルーキーが1位を奪取だ! 第1位! PN、宝条リンで113ポイント!!』
「やったーっ!!」
「よしっ!!」
「やりっ!!」
「よかったなぁ!!」
「リンちゃんがいちばーーーーーーん!!」
私は嬉しくて飛び跳ねました。
多記君は何度もガッツポーズをします。
「ありがとう! これも皆のおかげ!!」
「何を言ってる!! お前だって頑張ったじゃないか、これは皆の……宝条リンの勝利だ!!」
私達は良く分からない間に抱き合っていました。
皆が一つになります。これが一体感なのでしょうか?
「悪いけど通してくれる?」
するといつの間にか私達の後ろには玲子さんがいました。
多記君は玲子さんを見ると私達を突き放すように離れました。ひどいです。
「まずはおめでとうといった所かしら? でもこのまま首位を守れるの? まだ、前半戦じゃない。この番組の常連を侮らないで。2位のペンシル祭さんは元プロの番組作家さんだし、3位の気まぐれサーファーさんだって、1位こそなった事は無いけど、いつもペンシル祭さんとトップを争っているの。別名『無冠の帝王』。いつまで1位を維持できるかしら」
「……中間発表とはいえ、こんな新人に負けているようじゃあ、たかが知れてるけどね」
「皆をバカにしないで!! 貴方たちみたいに5人がかりで1位をとろうとする人間とは違うの!!」
何だか二人とも口が悪いです。
でも、確かにあの人達のすごさは私が良く知っています。
無駄に何年もこの放送を聞いていたのではありません。
1位は嬉しいです。これから維持しなくてはなりません。少し不安になりました。
と、同時に多記君と玲子さんの関係も気になります。
でも……今は素直に一番を喜びたい。