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第13話 「好き! 好き!! 大好き!!!」

 波乗とリンがいなくなると室内は静かになる。

 僕は追いかけるタイミングを失っていた。

 立ち尽くしている僕に後ろから声が掛かる。

「行った方がええんちゃう?」

「えっ?」

 振り向くと声をかけたのは工藤だとわかった。

「澄音はともかく……リンちゃんはここへ来るの初めてやし、迷わへんの?澄音の家の敷地って結構広いし」

「そ、そうだな……じゃあ……リンを探してくる」

 工藤の言葉に背中を押され僕は部屋を出た。



 僕は名目上、リンを探しに外へ出た。

 売り言葉に買い言葉とはいえ、言ってしまった事を後悔している。

 とはいえ、あの二人がどこへ行ったのかよくわからない。

 辺りを見回していると、雑木林の中で明らかに誰かが草木を踏み倒した跡を見つけた。

 けもの道みたいだな。

 にしても、わかりやすい目印だな……まさかリンの奴が? んなわけないか。

 だけど……まずはここから探すとするか。

 僕は重い足取りを引きずるように歩き出した。

 そして跡をたどっていくと、どんどん先に続いていた。


 波乗が頑張っている事は皆知ってる。

 だからこそアイツにも結果を出して欲しいと思った。

 でも、会いたくもなかったリンまで呼んだのにこのざまだ。

 僕は手伝わなかった方が良かったのだろうか? 余計な事をしたのだろうか?

 一人で考えたって答えなんかでない。

 もう一度波乗に会ってキチンと話をしよう。


 草を辿っていくと人影が見えた。その数二つ。

 きっと波乗とリンなのだろう。

 二人ともツインテールなので良く分かる。

 髪の結び目が肩に近く下についるのが波乗で、上のほうについているのがリンだ。

 僕は早足で近づこうとした……が止める。

 それは二人が会話をしていたからだった……


*********************************************************************


 私はいつの間にか走りだしていました。

 感情的になって、皆を困らせて、あんなこと言ってしまって、部屋を飛び出して……

 情けないです……

 敷地内は大きな森に囲まれています。私は森の中へ入りました。

 一人になりたい……この一心です。

 しばらくして息切れがしたので私は走るのを緩めました。

 ここまでくればもう誰も追ってこないはずです。

 そろそろ立ち止まろうとした時、私の背後に何かが迫って来る気配がしました。

「いっちばーーーーーーーーーんっっっ!!」

「ええっ!?」

 琴和さんでした。

 彼女は私を通り過ぎると少し先の木にぶつかるようにして止まります。

「この木がゴールだからねっ!! だからリンちゃんがいちばーん!!」

「えっと……」

「でも、リンちゃん……疲れたのぉ……」

 彼女はその場に倒れこんでしまいました。


「大丈夫ですか? 琴和さん」

 何故だか私は倒れている琴和さんを介抱しています。

「うーん……ここどこ?」

「あっ、良かった。気が付いて……」

 琴和さんは立ち上がりました。

 そして何かを考えているようです。

「リンちゃん、走って……リンちゃん……リンちゃん……」

「私について来ましたよ」

「そうそう!! リンちゃん、一番になったんだ!! あー、面白かった。さっ、帰ろ」

 しゃがんでいる私に琴和さんは手を差し出します。

 でも、私は俯きました。

「はーちゃん、帰んないの?」

「……私は帰れません」

「何で?」

 俯いている私を覗き込むように琴和さんが話しかけます。

 彼女は屈託の無い笑顔で『何で?』と私に尋ねました。

 そんな素直さが少し羨ましいです。

「すいません。帰りたくないんです……琴和さんだけ帰ってください」

「うーん、リンちゃん意味がわかんない……でも、いいや。先に帰るね!!」

 琴和さんはあっさり踵を返して歩いて行きました。

 足音がどんどん遠ざかっていきます。

「はぁ……」

「……」

 しかし、またすぐに足音が近づいてきました。

「?」

「ここ、何処だかわかんないのぉぉぉ!!」




 結局、琴和さんは私の隣に座っています。

 さっきまで帰れないと半べそをかいていたのに今はもう御機嫌で、鼻歌混じりに木の枝で地面に絵なんか描いています。

 地面に描いた絵なのに凄く上手いのが分かりました。

「琴和さんは良いですね。絵を描く才能があって……」

「リンちゃんねー、才能ってよく分かんないのぉ」

「……そうですか」

「ふんふん〜♪」

「はぁ……」

「ねぇ、はーちゃんは何でハガキを書くの?」

「――え?」

「リンちゃんねー、好きだから絵を描くのぉー」

 私は何でハガキを書いてるんだろ?

 サーファーキングになりたいから?

 本当にそうでしょうか?

「あぁ……」

 今わかりました。違います。

 私は……私は……家族を取り戻したい……

 皆でご飯を食べたいんです……

 これは、しばらく考えて無かった事です。

 ただハガキを読まれたいと思う一心で何かを忘れていました。


「私は……お父さんに会いたいんです。『ご飯を食べましょ?』って言いたいんです」

「はーちゃん、お父さん好きなんだねっ!!」

「はい!! お父さんもお母さんもお兄ちゃんもおじいちゃんもおばあちゃんも皆、皆、大好きです!!」

「リンちゃんも!! ダディもマミィも姉上様もグランパもグランマもだーい好き!!

 そうです。私には才能なんて無くても良いんです。

 私に大切なのは……皆が好きという気持ちだと思います。

 もしかして、琴和さんはこの事を分からせるためにワザと私についてきたのでしょうか?

「琴和さんもしかして……私のこと」

「リンちゃんオナカすいたぁ〜。リンちゃん帰りたい〜。リンちゃん、リン界点寸前〜」「えっ……?」

 ……気のせいだったみたいです。私は立ち上がりました。

「琴和さん、帰りましょうか?」

「うん!!」

 でも、琴和さんは立ち上がりません。

「どうしたんですか?」

「はーちゃん、おんぶ〜」



 琴和さんをおんぶして少し歩くと目の前に多記君が現れました。

 さっきの事もあり、いざ多記君を目の前にすると何も話すことが出来ません。

「あっ……」

「うっ……」

 先に話しかけたのは多記君でした。

「色々考えたけど……やっぱり波乗にはハガキを書く才能なんて無い」

「……そうですね」

「でも、お前は……家族を取り戻したいって気持ちを持ち続けている」

「はい?」

「お前の気持ちが皆を引き逢わせたんじゃないのか? 少なくとも僕はそうだぜ」

「多記君……」

「人を引き寄せるのも立派な才能だと思うんだが……どうだろうか?」

「……ありがとう」

 涙ぐむ私を見て多記君はどうして良いか分からずオロオロしています。

 私も溢れるものが止められ無くてどうしようもないです。

「ハガキのネタの事はオレ達に任せろ。そういうセコセコした事は得意なんだ」

「……うん」

 頷くことしか出来ませんでした。



 私が泣き止んだ頃。多記君が話しかけます。

「重いだろ? よし、僕が背負ってやるよ。リン、こっち来い」

「お断わリン!!」

「お前が断るなっ!!」

「リンちゃん重くないもん、はーちゃんの背中が良いもん」

「……お前なぁ」

「いいですよ」

「波乗……」

「今はこの重みが心地良いんです」

「……良く分からんが……まっ、いいか」

 私達は歩き始めました。もう立ち止まりません。

 雑木林を出ると家の前で佳代ちゃんと川上君が手を振っています。

 今、私の気持ちはハッキリしました。

 皆……皆……大好き!!


*********************************************************************


「川上、これワザとか?」

「何がだよ」

「澄音と多記がああなるって計算してリンちゃんを呼んだんか?」

「別に計算なんかしてないぜ。絵が書ける奴を入れたほうが良いって言うのは本当に思ったことだし……あれは計算外だ」

「アンタって……卑怯な奴やな」

「……そうか?」

「?」

「お前も知ってるだろうけどオレは澄音ちゃんを狙ってる。だったらなるべく不安要素は排除しておいた方が良いだろ?だいたい恋愛に卑怯も何も無い。モノにしたら勝ち、振られたら負け、それだけだ」

「……最低」

「卑怯、最低で結構。それより……お前こそどうなんだよ」

「何が?」


「誤魔化すな……多記が好きなんだろ?」

「……アンタには関係ないわ」

「だったら何で素直に澄音ちゃんを追いかけろって言えなかったんだよ。よく人の事を卑怯だの最低だの言えるな」

「!!」

「お前だって澄音ちゃんが多記とケンカして少し安心してるはずだ……」

「黙れ!!私は……」

「なぁ、オレ達目指すモノははっきりしてるだろ?だったら、協力しようじゃねえか」

「えっ!?」

「お互いが上手く行くようにサポートするんだ」

「……」

「考えてみな……好きな人の隣に自分以外の誰かがいる光景を」

「……」

「嫌だろ?悲しいだろ?このままだと多記はお前じゃなく……」

「……分かった……お互い、どっちが上手く行っても恨みっこ無しや……」

「あぁ、分かった。交渉成立な」

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