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第12話 「元カノ」

 夜になり、僕等は波乗家に集まった。

 しかし、今日はいつもとは違う空気が漂っている。

 タイミングを伺っているのだ。

 川上は突如立ち上がり咳払いをする。

 僕と工藤はハガキを書いている手を休め、川上を見上げた。

 少しして、皆なの異変に気付いた波乗も顔を上げる。

 全員の視線が集まったところで川上は話を始めた。

「いきなりだけど今日、宝条リンに新しい人を入れようと思う」

「川上、お前が勝手に決める事とちゃうやろ」

 すかさず、工藤が口を挟む……っていうか、彼女には昼休みに新しい人が加入する事を伝えてある。

 要するに演技だ。

「まぁ、待て。オレの話を聞け。これは多記も既に知っていることだ」

「しょうが無いなぁ、認めるわ」

 工藤、早く了承し過ぎだ。

 波乗は僕の顔をじっと見ている。

「オレはこの宝条リンに重要な欠陥を発見した」

「わー、川上、ホンマにか? なにや、なにや」

 工藤、もう喋るな……

「それはヴィジュアルだ」

「は?」

「オレ達文字ばっかり書いてるだろ? それじゃあ目立たないし、同じ様なネタがあった場合、最後にモノを言うのは付加価値だと思うんだ」


「付加価値……」

 波乗が呟く。よし、話に入り込んできた。

 そこで僕は川上と交代する。

 川上は携帯で連絡を取る役目になり、早速電話して家に来るように告げた。

 僕はやや大げさな感じで話を繋げた。

「アイキャッチをハガキにつけようと思う。お笑いネタ系のラジオ番組では有効ではないが、アイドル・声優系統のラジオ番組では有効だといわれている。ネタとは関係ないが選者の目に留まるようなイラストを入れる方法のこと。ネタを読んだあと『かわいいイラスト付きでぇ〜す』といわれるようなハガキだ」

「それやったら、私は関係ないなぁ。お笑いネタ系のコーナー担当やし」

 工藤は普通に答えた。

 彼女には新しい人が入ってその人はイラストを描くとしか伝えてなかったからだ。

「そうだな、もちろん川上も下ネタ担当だし関係ない。恐らく、フツおたに関係あることだろ」

「っ!!」

 『フツおた』と聞いて反応する波乗。僕の顔をじっと見てる。


「ちげーよ!! そこじゃないって!! 道なりに来れば良いって言ってるだろ!! ……あぁ、もう、しょうかねぇなぁ。今から迎えに行くからそこ動くなよ!!」

 川上は携帯に向かって大声でわめいている。

 何やら難航しているようだ。

 そりゃそうだろうな。

「駄目だ。多記、オレ迎えに行ってくる」

「やっぱりか……頼んだ」

 川上は携帯で話をしながら部屋を出て行く。

「何や、何があったん?」

「いつものことだ気にするな。……って言っても最近は会ってないから何とも言えないけど……」

「多記、アンタとその子どういう関係なんや?」

「ええっと、それは……」

 僕が答えに困っていると、今まで黙っていた波乗が喋りだした。

「……多記君、もしかして私のせいで新しい人を入れなきゃならないの?」

 『私のせい』という言葉使いからも波乗は肯定的には受け止めていないらしい。

 波乗の言葉に工藤は慌てて僕をフォーローする。

「澄音、アンタのハガキな……ネタは悪くない無いと思うんやんか。ただ、選者の目に止まらんだけっちゅーかな」

「私のハガキはお父さんの目には止まらないの……」

 工藤はさらに慌てて声を上ずらせて喋り続ける。

「ち、違うって、ほ、ほら、フツおた書くの上手いクックルドゥーとかいう奴がよくイラスト付ですとか『ラジオデイズ』で紹介されてるの聴くやん。だから……」

「もういいよ。皆と違って才能の無い私は絵を書かないと読まれないようなハガキしか書けないんです……」

「ああ……」

 波乗は俯いてそれ以上何も話さない。

 工藤も掛ける言葉が無くなって俯いてしまう。かなり重症だ。

 こうなったら下手な慰めは必要ない。

 僕は言う事にした。

「おい、波乗。良く聞け――」


 僕が続きを話そうとしたとき、ドアの向こうから大きな足音が聞こえてきた。

 室内にいる三人の視線が自然にドアに集まる。

 この部屋のドアは引いて開けるのだが、何とも押して入ろうとした後、少し静になり、ドアが勢い良く開いた。

「あっ、タッくん! もーっ!!ドコだかわかんなかったぁぁぁぁ!!」

「わわわっ、コッチへ来るな、リンっ!!」

「はぁ? リン?」

「えっ?」

 入ってきたのはツインテールの女の子。

 もの凄い勢いで僕に走りよってくると抱きつくようにぶつかった。

「リンちゃんねー、リンちゃんねー、歩いてここまで来たのぉ、リンちゃんねぇー、道なりに来いって言われねー、リンちゃん迷子だったのぉ〜」

「矢継ぎ早に言うな、とりあえず落ち着け」

「矢継ぎ早って何? リンちゃん、わかんない」

「……分かったから、とりあえず離れろ」

 僕は後ろからの刺すような二人の視線を感じてリンに言う。

 リンはそれでも離さない。

「嫌!! そんなのお断リン!! だって、リンちゃん怖かったんだもん!!」

「べ、別にええよ。そ、そのままで……何か二人共仲がええみたいやし」

 工藤がメチャメチャ歯を食いしばりながら話すのが後ろから聞こえた。

 僕がどうして良いか分からないで居ると、ようやく川上が部屋に入ってきた。

 僕はリンが抱きついたまま川上の方へ移動する。

「何だ? この状況は……まぁ、いいか」

「よくない!! 川上、何とかしてくれ」

「そうだな……えーっと、お二人さんに紹介するよ。多記の”元彼女”の琴和リンです」

「なんやてっ!!」

「!!」

 川上の言葉を聞いた工藤は大声を上げ、俯いてる波乗は肩が反応した。

「おい、川上!!」

「いいじゃねえか、いずれはバレる事だし。最初に言っておけば」

「リンちゃんだよ!!」

「相変わらずだな……」


 いきなりの新加入! 勢いづく宝条リン! のはずが……

 昨日に負けず……いや、昨日以上に重苦しい雰囲気が室内を包む。

 とりわけ工藤からは圧倒されそうな攻撃的視線を感じる。

「別に気にする事じゃねぇよなぁ、なんせ前の”彼女”だしな、今は”彼女”じゃないし」

「川上、ことさら彼女を強調するのは止めろ」

「え? 何? ”彼女”を強調するな? わかったよ、”彼女”って言わなかった良いんだろ? ”彼女”って」

ボキッ

「あれ?おかしいなぁ。今日はシャーペンの芯がよく折れるなぁ……って思ったらシャーペンごと折れとったわ……」

「おい……」

「わーっ!! すごい!! すごい!! リンちゃんに見せて!!」

 リンは大声を上げ、工藤に抱きついた。

「なんや、なんや。纏わりついてくるなっ!!」

「お断わリン!! カッちんに抱きつく〜」

「誰がカッちんや!! 多記、アンタの元カノやろ。何とかしてや」

「無駄だ。リンは気に入った人なら誰にでも抱きつく」

「わー、なんかカッちん良い匂いがする〜」

「こ、コラ……やめ……重い……」

 何となく仲良くなりつつある二人だった。

 リンのお陰か室内が騒がしくなる。


 工藤はこれでいいとして(?)僕は波乗の様子を伺う。

 さっきから黙々とハガキを書いている。リンの騒ぎにも一向に動じない。

 なんとか、リンと仲良くしてもらわなくてはアイツを呼んだ意味が無い。

 僕は波乗の隣に言った。波乗は僕が来ると少し離れた所へ移動する。

 さらに近づくと移動した。

 仕方が無いので離れたまま話しかける。

「とりあえず、アイツ、あんな奴だけど絵は上手いから。アイキャッチには十分だと思う……だから今日から早速、ハガキに絵を――」

「いらない」

「そう言うなよ。これでも皆、お前を心配してわざわざ――」

 と言いかけて慌てて口を閉じる。

 しかし、時既に遅し。波乗にはしっかり聞こえていた。


「多記君に私の気持ちなんか分からない!!」

「っ……」

 騒がしかった室内が一気に静まる。

「私はどうせ、才能のある皆に心配されるような足手まといだよ……」

「波乗、聞いてくれ、僕は――」

「うるさいっ!! 皆に才能の無い人の気持ちなんて分かるわけが無いよっ!!」

「なっ!!」

 後になっていつも気付くのだが僕は意外に短気なのかもしれない。

 波乗の一言で僕も頭に血が上ってしまったから。

「あぁ、分からないね」

「……」

「さっきから才能、才能ってウザいんだよっ!! 才能を言い訳にして泣き言を言う奴の気持ちなんか分かりたくもねぇなっ!!」

「!!」

 波乗は瞳は潤んでいた。

 歯を食いしばり僕を睨んでいる。拳は握られ震えていた。

「……」

「……」

 彼女は何も言わず室内を出て行った。僕は追いかけない。

「何? かけっこ? よーし、負けないぞー!!」

 走り去った波乗をみてリンは面白がって追いかけて行った。

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