プロローグ4
その後のことはよく覚えていない。
警察やら何やらが到着したときには、遺体をすべてリビングに並べられて全員の顔に布がかかっていた。
僕が警察を呼んで、遺体を運んだんだろうのだろうけど霧がかかったようにぼんやりとしか思い出せなかった。
その後はいろんな人にあってその人たちが言うとおりに動いた。
車に乗って、発見したときの状況をしゃべって、他にもいろいろやったような気がする。
そして全部終わって外に出た頃には空は赤く染まっていた。
僕の足は自然とこの公園に向かっていた。
キコキコと錆びついた音を立て続けるこのブランコに腰かけてからどのくらいの時間がたったのだろう。
沈みかけの三日月はまるでそんな僕を嘲笑っているかのように細々とした光をたびたび雲の合間からちらつかせていた。
何でこんなことになってしまったんだろう。
誕生日会だから楽しみにしてろってって言ってたのに、みんな、みんな死んでしまった。
実の兄弟のように遊び、笑い合い、時にはけんかしてこともあった、だけど悩んでるときには、ただ話を聞いてくれたり、落ち込んだときには優しく微笑みかけてくれる、そんな家族はもうどこにもいない。賑やかで幸せな食事の時間だってもう二度と訪れてはくれない。だってみんな死んじゃったんだから。
なのに何で僕は生きてるんだろう
底のない暗い穴を落下しているような気分だ
心が冷え切って凍り付いていく
なんで僕だけが…
僕だけが…
僕だけが生きなきゃ行けない理由なんて…
みんながいないこんな世界なんかで僕が生きる意味なんて…
な「パァン」
心地いいくらいの澄んだ音が公園に響き渡った。
視界が揺れる
視界がぼやける
痛い
僕が
頬が
「ライくんのばかぁ~」
耳をつんざくような大声が聞こえる
脳が揺れる
「なにもみじより先に死のうとしてるの?まだもみじは幸せにしてもらってないのに、ライくんはもみじが幸せに死ぬところを看取ってからじゃないと死んじゃだめなんだから、生きなきゃ行けない理由がない?もみじがいるじゃない!もみじを幸せにするために生きなきゃ。今までもそうやって生きてきたでしょ?違う?違わないよね?違うとは言わせないけど。みんながいないこんな世界?もみじがいるじゃない!みんなって誰のこと?もみじがいればそれでいいじゃない?それが世界じゃない?そう、つまりもみじが世界なんだよ。もみじのために生きなきゃ行けないライくんにとってわたしつまりこの世界は生きる意味で溢れてるの、いや、この世界こそがライくんの生きる意味なんだよ。分かった?分からないわけないよね?返事は?……返事は?…「は、はい…」声が小さいよっ!!「はいっ!!」よろしい。もう死のうなんて思わないね?「はい!」」
目の前で黒髪がたなびく
えっ?
いいにおいがする。
懐かしくて、少し甘くて、優しくて、心底落ち着く。そんなにおい。
そしてとても暖かい。
「ライくん、もみじがいるから、今みたいに辛かったら絶対もみじがそばで慰めてあげるから。抱きしめたあげるから。いなくなちゃった人達の分も、いやそれ以上にもみじが愛してるから、だから、もう、死ぬなんて、悲しいこと言わないで、ライくんが死んじゃったらわだじも死んじゃうんだがら、だがら、一緒に生ぎて?」
「はぁーぁ、まったくもみじちゃんには敵わないなぁ、なんで、もみじちゃんのほうが先に泣いでるんだよ、せっかく、がまん、できてだのに、ぼくもっ、まだまだだ、な、」
「ひっく、ライ、ぐん、もう泣いでも、っく、いいんだよっ」
「ごめん、もみじ、ぢゃん、今だけだから、も゛う、二度と、こんな、みっども、ない、どころ、見せないから、も゛う、にどと、ぎみ、を泣かせだりしない、からっ、」
「ぞんな、かおでっ、ぞんなっ、ことっ、っく、いっだって、がっこよく、ない゛んだからぁ」
その後はしばらくふたりで子供のように泣いた。すべてをはき出すように、
そしてのども涙もかれたころ、僕のことを嘲笑っていた月は沈み、真っ黒な夜空の天辺では二つ星がぴったり寄り添うようにして瞬いていた。