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プロローグ3

「だけど、5年か。短かった気もするけどずいぶん変わってるな」

昔、遊び場にしていた廃工場は真新しい研究施設が建っていたし、あんなに黙々と毎日煙を吐き続けていた煙突は陰も見えない。

「僕が都市を出たのは小学校卒業と同時だったからなぁ。たぶん今同級生に会ってもきづけない子の方が多いだろう。特に仲はよかったのはケーゴとカズだけどなんだかんだで中2の時くらいで連絡は途切れてしまった。そして誰よりも忘れてはいけないのは彼女だ。カグラモミジ。彼女は家が(うち)と隣で引っ越すまではずっと一緒だった。いわゆる幼なじみってやつだ。彼女だけは唯一今でもたまに連絡を取り合っている。

「それでも、女の子は変わるからなぁ。ちゃんと気づけるかなぁ。気づけなかったら絶対怒るだろうしなぁ…まぁ会えばさすがに分かるでしょ」

そんなことを考えながら歩いていたら家の前に着いた。小学校の頃よりだいぶ近かった気がするのは、それだけ成長したってことだろう。



この家に帰ってくるのも5年ぶりか…深呼吸をしてからドアノブに手をかけた。

そしてドアを開いたその刹那

ひどい悪臭と煙が家からあふれ出てきた。

「何だ?このにおいは、いったい…」

僕はたまらず開きかけたドアから手を離した。それでもまだ悪臭と煙は漂っている。

「こんなの普通じゃない、こんな時に親父は何を…」

頭がひどく痛かった。思考もままならない。まるで悪臭と煙が頭の中で暴れ回っているようだ。この異常事態に体のあちこちが警告していた。これ以上近づいてはならないと。

「それでも行かないわけにはいかないだろっ」

勢いよく玄関の扉を開け放つと、袖で口元を多い、土足のまま家に駆け込んだ。煙は地下から出ているようで階段の近い廊下の奥の方が濃かった。その階段の手前右側のリビングの扉も開け放つ。その瞬間リビングからいっそうひどいにおいの奔流が押し寄せてきた。思わず顔を目を口を覆う。おそるおそる顔から手を離すとひどい光景が飛び込んできた。


もし地獄があるならばきっとこんな場所なのだろう。

家具や壁紙、あらゆるものに黒く乾いた血が染みつき、人間だったものたちが部屋のあちこちに転がっていた。遺体は腐り始めていたがまだほとんど原形をとどめているようだった。

ドアに一番近い小柄な遺体に近づく。遺体はうつぶせのような格好で倒れていた。

お腹から血痕が広がっている。そっと仰向けにする。

「ミカ姉!」

その遺体は僕がよく知る人物のものだった。

ミカ姉は父の研究グループの一員だった。僕がここに住んでた頃はご飯当番で僕が何か頑張った日には夕飯に僕の好きなものを出してくれた。そんな優しいミカ姉がなんで…

ミカ姉の表情は何かにおびえているようで目を見開いていた。

ミカ姉の目を閉じると、その近くのうずくまった体勢の長身の遺体に近づく。

「リキ兄!」

いつも外で遊んでくれたのはリケ兄だった。僕が「まだ遊びたい」だだをこねると文句を言いながらも最後までつきあってくれた。そんな優しい青年の面影はどこにもない。

「いったいなんで…」

ドアから一番離れたところに抱き合うようにして二体の遺体があった。

「サクラ姉!トモ兄!」

トモ兄がサクラ姉を庇うように抱え込んで息絶えていた。トモ兄はずっとサクラ姉が好きだったもんな、子供の俺にもからかわれてたっけサクラ姉もなんだかんだ言ってトモ兄のことは嫌いじゃなかったのに。きっとこれから幸せなことが二人にはたくさんあったはずなのに。

「なんで、なんでなんだよ、……こんなひどいこと、あっていいはずないのに…親父、親父は無事なのか?」

地下への階段を駆け下りる。煙は下に降りるにつれて濃くなっていく。

「親父の研究室は親父にしか開けられない最新のセキュリティシステムで鍵もかかるし、頑丈な金属製の扉もある。きっと大丈夫だ。」

最後の階段を降り切る。

「親父っ」

その瞬間淡い希望は崩れ去った。

親父の研究室の金属製の扉は開いていて、ただ淡々と煙を吐き出していた。

「…親、父、?…嘘だろ。生きてるよな、後から笑って出てくるんだろっ?、返事をしてくれよっ」

煙で何も見えない中、開きっぱなしのドアをくぐり、部屋に入る。

「げほっ、げほ、お゛、や、じ、?」

ただ何も見えない中進んでいくと何かにつまずいた。

拾い上げてみると、表面はすすで真っ黒になったいたが、すすを払うと、それはとても軽くかさかさで白かった。

頭がようやく追いつき事態を理解したとき僕は絶望した。それは骨であった。その行動が意識的だったか無意識的だったか分からない。ただただそれが父のものではない証拠を求めてあたりの骨を夢中でかき集めた。

「チリン」

僕の手に何かが当たった。きっとこれは見ない方がいいものだ、そんな予感が押し寄せてくる。しかし僕はまるでそれが最後の希望であるかのように必死に手を伸ばした。

「ぅ、ぁ」

声にならない嗚咽がのどからあふれ出してくる。

それはとても見覚えのあるものだった。

ほしいとねだると最後には結局くれる父が唯一くれなかったものだった。

その銀のリングに透明なクリスタルの飾られた指輪は。


それを持ちうる人なんて一人しかいないのだから

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