表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

第6章・争奪


若原 雪乃 (わかはら ゆきの)

13歳・中学1年

可愛らしい外見とは裏腹に低音も出せる。次郎とはイトコ関係。

 放課後の視聴覚室。現在集まっているのは「メンバー+1、−1」……と、この言い方はややこしいのでやめよう。


 今来ているのは正法、雪乃、円、そして智華の四人だ。怜子は今日は来ないらしい。


「まぁた、コジローは遅刻かよ」


「普通、遅刻してくるのはムサシの方なのにね」


 智華が笑いながら言うと、正法が聞き返す。


「ムサシ? 誰だっけ」


「宮本武蔵と佐々木小次郎。巌流島の」


「ああ、そっちか」


 それを聞いていた円が口を挿む。


「待ちかねたぞ、武蔵! ってヤツだろ。じゃあ、アイツが来たら待ちかねたぞ、コジロー! って言ってやるか」


「いいね、それ!」


「アイツがドア開けたらみんなで一斉に……」


 などと言っていると、早速廊下の奥からこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。


「お、来るぞ。スタンバイ!」


 全員がドアを見つめて到着を待つ。


「来るぞ来るぞ来るぞ……」


 しかし、足音は視聴覚室のすぐ隣の資料室に入って行った。


「フ〜ッなんだ、違う奴か」


 室内に小さな笑い声が響く。……なんでこんな遊びに真剣なんだか。まぁ、何事も真剣にやらないと面白くないからな。ちなみに、この足音の人物を私は知っている。当然、みなさんもだ。正解はこの後すぐ。


 続いて、別の足音がやって来た。バタバタと、急いで走ってくる音だ。


「今度こそ、アイツかな……?」


「そうだろう。遅刻したから走ってきてるんだ」


 再び息を潜め、足音がやってくるのを待つ。徐々に足音が大きくなり、曇りガラスに人の影が映る。そして、そのまま影は視聴覚室の前を通り過ぎて行った。


「なぁ〜んだ、今のもハズレかぁ……」


 正法がやれやれ、と手を振る。


「なにが?」


「なにって、コジローじゃなかっただろ、今の」


「確かに今走っていったのはオレじゃない」


「そう、お前じゃ……ってコジロー!?」


 いつの間にか、次郎が視聴覚室に入ってきていた。


「お前、どこから……」


「あそこから」


 指さした方向をみると、隣の資料室に続くドアが開いていた。


「さっき隣の部屋に入ったのお前だったのかよ」


「ああ。……ほら、遅刻した時に教室の中がシーンとしてると入りづらいだろ? それで、ちょっと様子をうかがってたんだ」


 照れくさそうに笑う次郎の手に、二枚の紙片があった。円がそれに気付いて声をかける。


「おいコジロー。それ、なんだ?」


 この声で、他のメンバーもそれの存在に気付く。


 次郎は手に持ったものを見せびらかすようにして言った。


「いいか? これはなぁ……よく聞けよ」


「聞いてるよ」


 円が茶々を入れる。次郎は無視して話を続ける。


「これは……なんと!あの超人気バンド・【クライム】の一等席ライブチケットだ!」


「マ、マジ!?」


「うっそ、スゲェ!」


 正法と円が同時に叫ぶ。


 【クライム】とは、学生バンドグループに所属するものなら誰もが憧れる実力派のバンドグループの名前だ。近々、魅月町でライブが行われることになっているのだが、チケットはとっくに完売されていた。


「コジロー、お前どうやって手に入れたんだ!?」


「知り合いの人が、当日行けなくなったって言っててよ。もらって来たんだ」


「さすがコジロー!」


 興奮しているのは、男三人だけではなかった。智華と雪乃も、顔が上気している。


「けど……ちょっと問題があってさ」


「なんだ?」


 円が聞き返す。正法、智華、雪乃も押し黙った。


 ……フフフ。私にはもうわかったぞ。簡単だ。次郎の手にあるチケットは二枚しかないということだ。


「これ、一枚につき一人だから……その、二人しか行けないんだよね……」


 一転して、シーンとした空気が広がった。


「えっと、だから……」


「コジロー」


 正法が言葉を被せる。


「このチケットは自分が持って来たんだから、自分は絶対とか言うなよ」


 円もそれに続く。


「この前と今日の遅刻のことは忘れんなよ?」


 その意図を理解した次郎は、素直に首を縦に振る。


「ああ。初めからそんな野暮なことを言うつもりはない」


「わ、私も行きたいですっ!」


「当然、あたしも」


 雪乃と智華も声をあげる。


 室内を、緊迫した空気が流れる。まるで西部劇のガンマンが一騎打ちをするシーンのようだ。


「それじゃあ……」


 正法が声をかける。やるべきことは、全員が本能で理解していた。


「行くぞ!」


 この合図で、一斉に全員の右拳が振り上げられ、打ち出される。


「ジャーンケーン、ポン!」


「あ、ああ〜!?」


「やっっったぁぁぁ!」


 主に二種類の叫び声が、狭い室内に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ