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第1章・仲間


深森 智華 (ふかもり ともか)

15歳・中学3年

幼少時から音楽を聴くのは好きだが、絶望的なほど音痴。3つ年下の弟がいる。

 朝、遅刻しそうになってパンをくわえたまま登校する。なんて古典的な朝の様相を晒すことは一切なく、深森 智華(ふかもり ともか)は余裕で学校に間に合うタイミングで家を出た。


 しかし、それにも関わらず、智華が学校につくのはいつも遅刻ギリギリの時間だった。その理由は、智華の向かった先にある。


「今日こそは一発で出てきて欲しいわね」


 そう言って訪れたのは、幼馴染・志波 正法(しば まさのり)のアパートである。インターホンを押し、ドア越しに呼び掛ける。


「まさー、おはよー」


 返事がない。続けて何度もインターホンを押す。


「早く出てこーい。起きてるー?」


 やや間をおいて、あいまいな声が返ってくる。


「う〜ん……寝てる……」


「って起きてるじゃん! フザケてないで早くしなさい」


 ガチャガチャと鍵をいじる音がして、ドアが開く。


「ふぁ……おはよ」


 Tシャツ、ボサボサの髪、とろんとした表情。全身から「寝起き」のオーラを醸し出すこの少年が正法である。


「おはよ。じゃない! 早く支度しろ!ど うせ昨日も遅くまでギターやってたんでしょ」


「へいへい……ご名答」


 奥の部屋に引っ込んでいった正法が出てくるまで、智華は廊下の壁にもたれて待っていた。


「ったく……バンドでギターやってるときは結構マトモな顔つきなのに……」


 智華と正法は保育園のころから兄妹のように仲が良かった。二人とも活発な性格で、昼寝の時間を抜け出して外で遊んだりしていたものだ。趣味が音楽であるという共通点もあった。


 二人が中学生になった時、正法はアパートで一人暮らしをはじめた。理由は……深く説明はしないでおこう。ただ、本人はむしろ自由な空間ができたことに喜んでいる。


 そして、毎朝正法を起こしに来るのが智華の役割になった。


「お待たせ」


 学生服に身を包んだ正法が出てくる。


「今日は……うん、いつもよりかはマシな時間ね」


「さすがにメシ食う暇はないけどな」


 古典的な朝の様相を晒す正法を連れて、智華はアパートを出た。


 



「おはよう、お二人さん」


「おはよ、エンタ」


「おはよう」


 学校の近くで声を掛けてきたのは、正法のバンド仲間内海 円(うつみ まどか)である。漢字の通り丸々とした体格で、あだ名はエンタ。


「まさ、お前よく毎日パンだけで昼までもつなぁ」


「好きでパンだけにしてるわけじゃねーよ」


「好きなだけ寝てるからパンだけになるんでしょ」


 智華のツッコミに、正法は少しだけ顔をゆがめる。


「う……。そこを突かれると痛い……」


「あははは。一本とられたな、まさ」


 円が笑うと、ただでさえ丸い顔がますます丸く見える。まるで大福もちのようだ。(褒め言葉のつもりだ)


 定刻の十分前に三人は校門をくぐる。


「そんじゃ、放課後ね」


「おう」


 一人だけクラスが違う智華は自分の教室に入る。教室にはすでにほとんどの生徒が来ており、あちこちから会話の声が聞こえてくる。


 そんな中、窓際にポツンと離れて座っている女子がいた。目つき、輪郭、雰囲気、すべてが「鋭い」と表現されるその女子に、智華は近づいて声をかける。


「レイ姐、おはよう」


「おはよう。今日は少し早いんじゃない? ……とうとう彼を見捨てて来たか」


「違いますー。ちゃんと連れてきました」


 とても中学生には見えない。高校生、いや、女子大生といっても通りそうなこの女子が木崎 怜子(きざき れいこ)である。


 言うまでもなく智華と同じ年なのだが、智華は尊敬と親しみの念を持って「レイ姐」と呼んでいる。


「いいかげん、その敬語やめてよ。ねぇさんって呼ばれるのは悪い気しないけど」


「だって、レイ姐スゴイ大人のムード出てるんだもん」


「……老けてるって言いたいの?」


 顔を窓の外に向けたまま、視線だけを智華に向ける。


「ち、違いますぅ! その、なんというか、色気というか……」


「フフ。前向きに受け取っておくわ」


 怜子も以前は正法のバンド仲間だったが、数か月前に突然やめている。その理由は誰にも話さないが、今でもメンバーとの交遊関係は続けている。


「レイ姐が抜けてから、まさの奴自分がヴォーカルも兼任するって言いだして大変なんですよ。あいつギターは上手いけど歌はからっきしで……」


「知ってる。……ねぇ、智華。あんたがヴォーカルやれば?」


「わ、私はムリですよー。音楽は好きですけど、小学生の音楽の授業で自分の音痴っぷりを思い知らされましたから。」


 手をブンブン振って否定する。正法に対しては強気な智華も、怜子の前では小さな子供のようだ。


 チャイムが鳴って担任の教師が教室に入る。周りの生徒が会話を中断して自分の席に移動し始めた。


「それじゃレイ姐、またね」


 そう言って智華も席に戻って行った。


「可愛いね……アンタは……」


 小さくつぶやかれた声は、ガタガタと鳴るイスの音にかき消された。

今回はいつもより少しキャラクターが多くなりそうです。

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