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プロローグ・魅月町の朝
波が寄せては引き、引いては寄せる。野良犬の姿さえ見かけない静かな海岸線の果てに、今日もまた朝の日がのぼる。淡い橙色の光がうっすらと浜を染めながら陸にあがり、町に生きる人々に目覚めを促していく……。
ん? おお、失礼。早朝の海にすっかり見とれて風流な気持ちになっていた。
ご存知の方もおられるだろうが、一応名乗っておこう。魅月町だ。
名前の通り、私は「人」ではなく「町」である。そしてこの町には多くの人間が住み、多くのドラマが存在する。
これまで私は3つのドラマをみなさんに紹介してきた。ちょっとおさらいしてみよう。
第1話・【針葉の花】
第2話・【夢想の鳥】
第3話・【騎行の風】
これらはいずれも、男性を主人公にした物語である。そこで、今回は女性を主人公にした物語を紹介したいと思う。
……おっと、言い忘れるところだった。前回の話を知らなくても、今回の話を聞くのになんら支障はない。ちなみに、冒頭の私の独白もストーリーには全く関係ない。あしからず。
今回のタイトルは……【表裏の月】
さあ、ご覧あれ!