プロローグ 「taxiing ~憧憬~ 」
無人機とサバイバルゲームの融合を図った試金石。
今回初めて書くため、おそらく遅々として進まないかもしれませんが赦してください。とりあえずサバゲーとかできない冬の間に完結させるつもりです。
プロローグ
そこは広い平原だった。
どこまでも空は高く青々としており、地面は生命の力強さを示すが如く緑が覆っていた。
厳密にはここは平原ではなく、とある地方都市の郊外にある田園地帯だ。
日本有数の大河が形成した広い平野は、この時何度目かの初夏の訪れを迎えていた。
突き抜ける様に清んだ青空に、二つの黒いが動いた。
鳶にしては激しく、鷹にはできない程の機敏な動きでそれらは互いを追いかけあっていた。
大倉尚樹はまだ小さな両目をこれでもかと大きく見開いて、その二つの点を追った。
二つの黒い点のうち、一つが空中で宙返りを描いたと思ったら急激に高度を下げてきた。
後ろから追いかけていたもう一つも、軌道を捩るように変えて追った。
二つはどんどん高度を下げていく。そして先行する黒い点が地面から僅か数メートルのところで頭を上げて水平を取り戻した。後ろもそれに追従する。だが、わずかに先行する物よりタイミングが遅かったのか先行した物よりも低い所で水平に持ち直した。
そのときになって、初めて尚樹は飛行するそれらの形を理解できた。
それらは、紛れもなく戦闘機の形をしている。
だが、今目の前で飛行している戦闘機は本物ではない。本物よりもはるかに小さな機体であり、本物では実現不可能な機動性を有していた。
それらは、戦闘機の形を模した無人機であった。
今、目の前ではその無人機が二機で大空のキャンパスに空中戦闘機動を書き殴っているのである。
後方から追跡する機体は、三角の大きな翼を有する一般的な形状であるのに対し、先行する機体はまるで翼を逆に取りつけたかの様な、異形ともいえる形状だ。
互いの機体は形は異なれど、一つの共通点があった。両方とも、真っ黒な塗装を施されているのだ。
二機はまるで巣で待つ雛たちの為に必死で虫を追う燕のように、田圃の数メートル上空を輪を描くように飛行していた。
無人機が尚樹達がいる場所の近くを飛ぶたびに、搭載されているエンジンの音なのだろうか、沸騰したやかんのような音が風に乗ってやって来る。
突如、先行していた機体が速度を上げ、急上昇した。
追跡していた機体も旋回を止めて高度を上げてそれに続こうとする。
逃げる小鳥とそれを追う猛禽類、追いかける方が速度が速く、勝敗は明白であると誰もが誰もが疑わなかった。
その時、先行機が空中でまるで時を止めたかのように止まった。
そして、次の瞬間に機首を180°変えて追う側に向けて加速した。
一秒も長く感じるような瞬間の出来事、二機は交錯した。
少しの間を置いてから、田圃中にブザー音が鳴り響いた。
そして、興奮を隠しきれないのかやや上ずった声で「ただ今のゲームは、赤チームの勝利です!」とアナウンスが入った。
悔し紛れなのか、乱暴に加速して離れていく大きな翼の機体に対し、勝者となったもう一方の機体は下から眺める人々に対してまるでお辞儀をするかのように、柔らかな機動で上空を舞っていた。
大倉尚樹はこの時初めて無人機によるサバイバルゲーム、通称スワローテイルと出会ったのであった。
次回から本編やります。
内容はとりあえず「初心者あるある」を中心に。