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8.

 あたしが最初に考えていたのとは、かなり違ったものになったけれど、でもそれで良かったと思う。あたしが考えたセリフのままでいいという人はそのまま、あたしのセリフを使ったけど、それでもかなり直したし、実際にそれを言う時には何かしらが変わって行った。その人自身の言葉になるのだ。

 みんなで作り始めたら、どんどん違う考えも出てきて、周りの人たちの動きをどうするか、背景をどうするか、つぎつぎに意見が出てきてふくらんでいった。

 風船を膨らませるというのは、アツミさんの考えだったし、音楽担当は皆の希望に合うように音楽を探し、考え、それがダメだと言われればまた探し、考えた。全員が参加して、セリフを言いたくなくても、ただ舞台に立って、ライトを点ける。それでりっぱなその人の役になるのだ。

 あたしは、かなり満足して、宇宙を舞台にするのは、すごくいい考えだったな、と自分でちょぴり自慢したい気分になっていた。

 やっと自分たちの演劇が終わったことで、あたしはすごくホッとしていた。最後だと思うといろいろな思いが押し寄せてきていて、頭にその思いがいっぱいになっていて、言葉にするには難しい感じだった。


三日目。最後の劇が終わった後、校長先生のお話があり、十二年生とのお別れのあいさつが終わった。会場からどどっと人が帰って行って、会場にはどんどん人がいなくなる。片付けの生徒がお掃除を始めて、あたしもそれを手伝った。

トモミもイスなどを片付けていて、ときどき目が合うと、笑いあった。アツミさんも片付けていたけれど、アツミさんはまた以前の固い表情になっていて、誰とも目を合わせないでもくもくと片付けていた。

アツミさんは、帰りがけにあたしの所にやってくると、

「成功だったね! ありがとう。あたし、なんだか頭が痛いから、もう帰るね」

と例のとろけるような笑顔で言った。頭が痛いのに…。あたしはそのアツミさんの後姿をしばし見つめてしまった。

アツミさんは出口近くにいたトモミにも声をかけて、トモミも何か言って、そして会場を出て行った。

あたしはなんだか一人で帰りたくない気分だった。そのあたしの気分が通じたかのように、トモミがまたいつものように走り寄ってきた。でも、何か少しおかしい。トモミはなんだか少しさびしそうに笑うと

「ね、今日、どこかに寄って帰ろう!」

 と言った。

「うん。あたしもそんな気分だったの。寄って帰ろう!」

 あたしも心の底からそう思っていた。

「ねえ、少し静かな場所がいいな。ヒトミに話しておきたいことがあるから」

 トモミがやけに真面目に言う。

「話って…。いつも話して帰っているじゃない。毎日のように!」

「そうだけど…。座って、ヒトミの目を見て、まっすぐ話したい」

「げ! なに、それ。重たい話ってこと?」

「そういうわけじゃないけど。アツミさんのこと、話したい」

 あたしはちょっとムッとした。昨日だって一緒に帰ったのだから、昨日言っておいてくれたのなら良かったのに。

「パーラーに行きたいな」

「うんいいよ」

 あたしも、まだ引っ越しすること、ママと一緒に暮らすことをトモミに話していなかったじゃないか。それを話すちょうどいい機会かもしれないと思った。

 あたしは、トモミをスクーターの後ろに乗せて、少し遠くのミキムラのフルーツパーラーに行くことにした。本当は二人乗りは得意じゃないけど、しょうがない。念のためにいつも予備のヘルメットをサドルの下にしまってある。

 ミキムラのフルーツパーラーには、ママと一緒に行ったことがある。でもお友達と一緒に行くのは初めてのことだった。

 お店の前に小さい花壇があって、その花壇の見える席があたしのお気に入りだ。

 そのお気に入りの席が空いていたので、二人で喜んだ。

「ミキムラ、あたしも大好きだよ! いつもママと来るの!」

 とトモミが言った。

 メニューを見て、すごく二人で悩む。絵本みたいに、色鉛筆描きのパフェがたくさんならんでいる。そのページを見ているだけで楽しい。

「あたしは、やっぱりイチゴだな」

 とトモミが先に決めた。

「うーん。悩むけど…、あたしもイチゴかな」

 ふたりで同じイチゴパフェをたのんで、むかい合うと、なんだかすごく変な感じがした。トモミと仲良くなってからこの二年、いつも教室の隣の席か、スクーターを押しながら並んで帰る時におしゃべりしていたけれど、こんな風にかしこまって向かい合って座ったことがなかったのだ。

「ねえねえ、話って何?」

「すごいこと」

 トモミが目を輝かせる。

「あのね。アツミさんが、先週、うちに遊びに来たの」

 あたしは、たぶん、目をパチクリした。

「ね。ごめん。ヒトミ。なんでヒトミのことお家に誘わなかったのかって、ヒトミ、そう思うよね。まず、そのことから話さなくちゃあならない。だから、ちゃんと座ってお話したかったの」

 あたしは、たぶん、まばたきもできなかった。いったい、なんと返事したらいいのか、見当もつかなかったのだ。

「ね、あたしのママのこと話したことあるよね」

「う、うん…、なんのことだっけ?」

「ママってね、すごく身体が弱いってこと」

「そういえば…、そうだったかな?」

「ママはね、とにかくあたしのことをすごく心配してくれるの。あたしのこと、宝物って言ってくれる。そしてね、あまり心配しすぎると、寝込んじゃうの。それはね、時としてすごくわざとらしいな、と感じることもある。あたしが、だんだん大人になってきて、そういうことがね、見えるようになってきたの」

「うん」

「ママはね、桜東通学校に通うことには、反対だったんだよ」

 そこで、二つのパフェが運ばれてきて、ウェイトレスさんがいなくなるまで、話はちょっとお休みになった。

 二人の間にパフェが並ぶと、顔が少し隠れるし、パフェに少し気持ちが動くから、話が聞きやすくなったように感じた。

「もともとママはあたしのこと、外に出したくなかったの。どうしてお家でサテライト校を受けないのかって、毎日のように泣いて、泣いて、トモミはママよりも学校のお友達と仲良くなって、それで幸せなの? なんて言うんだよ。まいっちゃうよ。それに、どうせ通学校に通うのなら、もっとお金持ちの人が集まっている良い学校、セキュリティーがしっかりしている通学校にしなさい、って言ったの」

 あたしは、だんだん返事をするのが面倒くさくなって、イチゴを突っつきながら、目で相槌を打って、聞いていた。

「あたしは、ママとはうまくやって行きたいって思ってる。ママを怒らせたくないし、泣かせたくもない。ママとお買い物に行くのは楽しいし、お話するのも楽しい。ママがいつも気持ち良く、あたしのことかわいがってくれる時が好き。

 でもさ、どうしても桜東通学校に行きたかったの。だって、あたしが知っている昔の学校の様子に一番似ているし…、ママやママのお友達のおばさま方のことも好きだけれど、ママやおばさまたちが、好きなものは、あたしが本当に好きなものとは違う。あたしは本を読んだり勉強したりすることが好きで、桜東通学校ではそれがすごくシンプルな形でできそうな気がしていたの。それに皆で演劇をするのもおもしろそうだった。

 キヤ シンヤってうちの通学校の出身だよね? 俳優ではダントツうまいって思わない? そういうところではけっこう評価されてるもん。うちの学校。

でもママにはそんなこと言ったってわからないだろうし、あたしが説明してわかってもらう気もなかった。だから、ママの言うとおりの通学校に通おうかなとも思っていたの。」

「… …」

「でもね、でもね、パパが言ってくれたの『学校くらい、トモミの好きな所に通わせてあげよう』って。『自分の行きたくない学校にいやいや通うなんて、させたくない』って。それってすごかった。いつもパパはママを大事にしていて、ほとんど何も言わないから、それがすごくカッコよくて、重たくて、ママもはは~って、何も言わなくなった。あたしはうれしかったよ」

「…、…」

 いったいトモミはこんなに遠くの方から話をして、何が言いたいっていうんだろう。あたしにはまだ見当もつかなかった。

「でもね。あたしが桜東通学校に通うことが決まってからは、ママは寝込むことが多くなった。お家に帰ってもね、具合が悪いって言って寝ているの。お食事とかはちゃんと家政婦さんが来て作ってくれていたし、あたしは、ママに顔を見せて、ママのお話を聞いて、お家にいる時はママが喜ぶようにしていたの。

一年経った頃くらいから、ママも慣れてきて、あたしの通学校のお話を聞きたがったり、あたしのお友達に会いたいと言うようになってきたの。そのころから、ママは学校のお友達を連れていらっしゃって言ってくれるようになったの。あたしもお友達にお家に来てほしいとずっと思っていた。いつも。一番、ヒトミに来て欲しいと思っていた。いつも」

 声に出さなかったけれど、「あ!」と心の中で思った。いつもトモミが言いたそうで言わない言葉。「ねえ、ヒトミこんどさ…」。で、あたしが聞き返すと「なんでもない」って言う。あの言葉に続くのは「お家に遊びに来て」っていうことだったのだ!

「でも、あたしにはわかっているの。ママはヒトミのことが気に入らない」

 びっくりした。こんなこと、真正面から言われるなんて。


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