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7.

家に帰ってからは、ミョウジ、タタヒロ、アツシの紹介のしかた、ペンライトの使い方を考えた。考えはスルスルすべり出るように出てきた。あたしは、なんだか天才になったような気がした。

 まず、タタヒロが自分のペンライトを点けて、キラ~キラ~と音を出す。

「あれは、キラキラ星の音だわ」

 水の惑星アクアシス…、つまりトモミが言う。

 キンコンカンと、トライアングルをアツシがたたく。

「アングル星が答えている…」

 全部、説明はトモミだ。

 そうしたらすごくおかしくて、お腹の底から笑いがこみあげてきて、ひとしきり笑った。

「いいの? こんないいかげんで? え? え?」

 あたしは声に出して自分自身に言ってみる。

「いいの、いいの」

 自分の質問に声を出して答えてみる。バカみたい! おかしくなって、また一人でゲラゲラ笑ってしまう。そうやっている間に、またトモミのセリフを思いつく。それをそのまま声を出して言ってみる。

「ほら見て! 音楽の星たちが今、くるくると回り出した」

 それでミョウジ、タタヒロ、アツシは三人でくるくるその場で回り出す。

 セリフを言わないのだもの、ほかの星たちより動きが激しくてもいいだろう。

 自分でもくるくると回ってみる。

「ひゃー、目が回る」

 あたしは、しりもちをついて、おかしくておかしくて、またひとしきり笑った。

「どうした? ヒトミ。楽しそうだね」

 部屋の外からおじいちゃんが声をかけてくる。

「うん。すごく楽しいことがあったの」

 あたしはたまらずに、おじいちゃんにさっそく今作ったシナリオのくだりを説明した。


 学校祭当日まで、本当に本当に毎日が楽しかった。

 アツミさんがどんどんまとめてくれて、劇はどんどんまとまっていった。

 ママから電話があった時、あたしはウキウキしていて、

「ね、ママ、見に来てくれるでしょ? 最後の晴れ舞台だもの。来てくれるよね」

 珍しく、あたしはママに言ってみた。

 小さいころからずっと、あたしはいつもママに遠慮していて、何か欲しいとか、してくれとかなんて、言ったことがない。初めてあたしはあたしがして欲しいと思うことをママに伝えたのだ。

「うーん」

 ママは困ったような声を出した。

「ごめん。ヒトミ…。すごく行きたいの。でも行けないの。わかって」

 心のどこかでは、わかっていたのだ。ママが来てくれないってことは。

「うん。わかってる」

  そう言いながらも、とても複雑な気持ちになった。

「シナリオは読んだのよ。すばらしかった! ママ、すごく自慢に思っている。ぜったいにうまくいくに決まっている。学校祭の様子は学校から映像が配信されるから、それで見ることができるわ。もちろん、別媒体でちゃんと保存するよ! それを見るのがすごく楽しみよ」

 いい答えだよね。ママ。ママはいつもそうやってあたしのこと応援してくれているのだ。でも、何か吹っ切れないような気持ちがモヤモヤとあった。

 通話を終えてから、また頭の中にぐるぐるの考えが渦巻いた。

 結局、あたしはママに従うしかない。ママがお仕事しやすいように、ママが住んでいるマンションにあたしが引っ越しするのだ。ママがあたしのために引っ越ししてくれることはない。

 しょうがない。ママは「ヒトミの人生」って言っていたけれど、まだあたしの人生は始まっていないのだ。ママにくっついているあたしの人生なのだ。だって、あたしは一人では生きていけないんだもの。しょうがないよ。

 ママと一緒に暮らすことがすごく楽しみだったのに、桜東通学校のみんなと一緒にいることの方が数倍楽しいんじゃないかと思えてきて、なんだかすごく悲しくなった。


 学校祭の第一日目。

 ものすごい風が強かったけれど、ものすごい良い天気だった。

 学校祭は三日あって、一日に四本ずつの演劇が上演される。一日目は一年から四年まで低学年の発表がある。そうやって学年順に四本ずつグループ分けされているけど、その日の上演順はくじ引きで決められる。

一つの劇は一時間以内の長さということになっている。だいたい皆みっちり時間を使う。ときどきオーバーする学年もいる。短いというクラスは今まで見たことがない。劇と劇との間には二十分の休憩が入る。一つの劇をちゃんと見終わってから、次の学年が用意することができるように取ってある時間だ。その日上演がある学年の人は、もう朝から衣装を着ていることが多いけれど、それでも休憩時間に用意できなくてオーバーする学年がいる。だから絶対に時間オーバーになる。

朝、九時から始まって、午前に二クラスの上映がある。終わる時間に合わせて、十二時前でもランチタイムになって、それが一時間。午後も二クラス。早い時は四時ころに終わり、遅いと七時近くになることもあった。

 皆、座ったままだし、つまらないと眠くなってしまうし、腰は痛くなるし、かなり重労働で、その中で自分たちも出るのだから皆、疲れ切ってしまう。

でも、おもしろいものがだんぜん多い。おもしろいとぜんぜん疲れていることに気がつかないし(でも帰ったらがっくりくるけど)、次が楽しみになる。それに一日目は低学年だから、かわいい、楽しいものが多くて、あたしはいつも引き込まれる。今年は一日目の一回目が一年生だった。

あたしはこの学校でもう七回も劇をやったんだな、と思うと心が熱くなってきた。そしてこれが最後の通学校祭になるんだ。そう思うと目がうるうるとしてくるのだった。

あたしたちは八年生だから二日目だ。一日目が終わると、だんだんドキドキしてきて、夜もよく眠れなかった。

今年はアツミさんがくじ引きをして四番目の上演になった。自分の番が終わらないと、ほかの学年のお芝居を見ていてもなんだか気がそぞろで、しっくり頭に入ってこない。自分たちのことばかりが気になって、気持ちがどうも落ち着かなかった。

 休み時間の二十分はみなバタバタしている。みんな自分の衣装はもう着ているけれど、楽しみを隠すみたいに、上にコートを着たり大きいスカーフかぶっている。それでもやっぱり休憩時間に用意できない学年もいて、だんだん時間が押されてしまっていた。

 三時少し前にやっとあたしたちの番が回って来た。

あたしたちの衣装はすごく簡単。みんなが顔だけ出して、他は黒の洋服。Tシャツでもなんでもいい。黒い布を巻いている人もいる。首にも黒いスカーフを巻いている。顔だけが目立つよう工夫した。

 予定通りに真っ暗な舞台。ペンライトでは小さすぎるということになって、けっこう大きめの懐中電灯を一人一つずつ持っている。

 ミョウジのシンセサイザーによる『アクエリアス』の演奏に合わせて、あたしたちは一列に舞台に上がった。そして、光が上下に動くように揺らしながら、みんなで舞台をぐるりと一周した。

 タタヒロとアツシは結局、二人ともトライアングルを鳴らすことになった。

それぞれがそれぞれの持ち場に立ったり、座ったりすると、一度音楽が消えて静かになる。そして舞台の上手に立ったタタヒロが自分のヘルメットに付いたライトを点けて、トライアングルを鳴らす。

「聞こえる」

 アツミさんが自分のライトを点けて言う。

「星のまたたき」

 トモミが自分のライトを点けて言う。

 タタヒロが自分のライトを消し、舞台の下手にいるアツシがライトを点けて、トライアングルを鳴らす。

 また同じように、アツミさんとトモミのセリフが繰り返される。そうやって、劇は始まった。

 もっとドキドキするかと思っていたけれど、いざ始まってみるとあたしはちっともドキドキしていなくて、みんなの一つずつのセリフが心の底にまで届いてくるように感じていた。

 あたしが最初に考えたシナリオとは、セリフはかなり変わっていた。

 たとえば、オハラ レナは自分の好きなもの、やりたいことをセリフにして、星の名前や、どのように舞台を作るのかも自分で考えた。

「ここは花の星、フローラー。ここにはたくさんの花がさいているの」

 とレナが言う。

 何人かは舞台の背景になって、たくさんの花をかかえてレナの後ろにならぶ。

「季節ごとに、いろいろな色の花が咲くわ。花が咲いていないときはないの。いつでも咲いているの」

 うしろの花たちは、音楽に合わせて、揺れている。

「花はみなさんの所に届けます」

 花を抱えていたみんなは、前に出て、それを舞台から客席に投げる。

「花を絶やさないように、土を耕して、水がなくならないように、いつでも目を見張って、花が枯れないように、花が一番美しい形で咲けるようにしているのです」

 実際、レナは花の種類をよく知っているし、お家でも季節ごとに花を育てるのが好きなのだ。

 タカハタ トムのように、自分のこれまでのことをセリフに入れたいという人もいた。

「この星、セルネットは生まれたとき、とてもとても小さかった」

 と、トムがささやくように言う。

「そのままにしておいたら、消えてしまう、ゴミのようなものだった」

 周りのみんながトムを抱えて、上にあげる。

「たくさんの手がこの星を助けた。たくさんの栄養が必要だった」

 トムはみんなにかつぎあげられて、ぐるぐると回る。

「そして、今、やっと一つの星として明かりをともすことができるようになった。この星は少しでも今より明るくなるように、ぐるぐる回っている」

 みんなの手を離れてトムは一人でぐるぐる回る。

 あたしは、自分の実際のことを自分のセリフで言うなんてことは、できない。あたしの生活のことなんか、何一つ人に伝えたいなんて思ったことはなかった。だから、まったく空想だけのセリフだった。

「みなさん、見えますか」

 と、あたしはライトを振る。

「今、この星は生まれました。できたてのホヤホヤです。名前もありません」

 あたしはあたしの身に着けている黒い布の中から、白い布を出して、広げる。

「ここは新しい宇宙の中継ステーションになります。いろいろな星がここを拠点にして、連絡を取り合うのです。放送局のようなものですね。たくさんの音楽も発信されています!」

 音楽係のタタヒロとアツシが、ちょっとずつ、いろいろな音楽をつぎはぎした音を流す。

「音はここで生まれ、たくさんの星にとどくのです」

 そして、アツミさん

「今日は、星の博覧会にようこそいらっしゃいました」

 アツミさんが黒い布を取ると、鮮やかな水色の衣装が出てくる。

「私は、空、そのものです。空だけでは何もないのと同じ。そこに星がまたたいていて、やっと空と呼べるものになります」

 アツミさんが手を広げると衣装はパーッと一緒に広がって、ふわふわと揺れる。

 まわりのみんなは風船を膨らまし始める。

「空には、たくさんの星のエネルギーが詰まっています。ほら」

 膨らませた風船を手放すと、風船が、それぞれに勝手な方向に飛んでく、風船を手放した星たちはまた次の風船を膨らませる。

「それぞれの星にそれぞれの思いがあります。夜空を目を凝らして見てください。星は瞬いています。それは星からあふれた思いです」


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