表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

最終章


 十二月に入り、すっかり寒い季節となっていた。

 

 藤堂の依頼から特に興奮するものはなかったが、《ピンポンダッシュの会》の活動は続けている。

 

 いつものように一人でベンチに座っていたら、香が近寄ってきた。


「謙吾。あんたさ」


 普段の勝気な感じとは違い、顔は青白く覇気がない。


「どうした?具合でも悪いのか?」


 あまり見ない香を素直に心配する。


「いや、じゃなくて。その……」


「なんだよ。今日のお前おかしいぞ」


「だから」


 一瞬語気が強くなったが、結局何も言いださない香にしびれを切らす。


「用がないなら行くぞ」


 香のことが気になったものの、空気に耐えられず立ち去った。

 

何の警戒をすることなく通学路を歩いていたときにそれは起きた。


「おい。お前が里田だな」


 すぐに思い出せなかったが、目の前に仁王立ちしている顔には見覚えがある。


「そうですけど、何か用ですか?」


 素知らぬ振りをして問い返す。


「ついて来い」


 その気迫に黙ってついて行く。


 男に連れられて街はずれの工場跡に着いた。


 ゆっくりと足を止め、男は振り返る。


「俺のこと知っているよな」


 ここまで来てとぼけるのは往生際が悪いと思い、俺は腹を括った。


「ああ」


 目の前にいる男は長田である。


 そう、俺が解散まで追い込んだ暴走族の総長だ。


「いい根性しているな。あんな卑怯な手を使う奴だから、てっきりオタク野郎だと思っていたぜ」


「どうしてわかった?」


「俺が調べた」


 声の主は北井だった。


 続いて物陰から竹里、竜村らも現れる。


「こいつか」


 ポキポキと握り締めた拳の音を鳴らしながら竜村がガンをつけてくる。


「おい、お前は手を出すなよ」


 一言で竹里が黙らせた。


 この先に起こるだろう身の上が頭の中に簡単に予想出来る。


「安心しろ。リンチなんてダサい真似はしねえよ」

思いもよらぬ長田の言葉に戸惑う。


「お前は騙されていたんだよ」


 横から入ってきたのは竹里である。


「どういうことだよ」


 精一杯の虚勢を張って言葉を出す。


「藤堂がサイトで言っていたことはデタラメだらけだ。確かに俺はカッとなってあいつを殴った。だが、一発だけだ。すぐにこいつらに止められたからな」


 竹里が吐き捨てるように言い放つ。


 その真偽がわからない言葉で自分のしたことがとてつもなく虚しく感じられた。


「お前も被害者かもしれない。だけどな、俺たちはそんなお利口さんじゃないんだよ」


 長田はそう言いながら上着を脱いだ。


「来い。後にも先にも一度きりのタイマンだ」



 

 全く相手にならなかった。

 

 俺はボコボコにされ天井を仰ぎ見る形になっている。


「じゃあな」


 約束通り長田はタイマンを終えると他の三人を連れて去って行った。


 痛む体を少しでも休ませるために目をつむって静かに呼吸を整える。


「謙吾。大丈夫?」


 言葉と共に首が持ち上げられ柔らかく温かいものに置かれた。


 ゆっくりと目を開けると香が泣き顔でこちらを見つめている。


「どうしてお前が?」


「謙吾が置き忘れた携帯にサイトがちょうど出ていたの。それで心配になって」


 そう言った香の顔にポロポロと涙が流れる。


「何泣いてんだ、バカ」


 俺はすっと手で涙を拭う。


「……バカ」


 俺は再び目をつむって少しの間眠りについた。




 長田たちの言うことは本当だった。


 竹里は確かに一発しか殴っておらず、怪我もたいしたことはなかったらしい。


 営業妨害の話も大袈裟にしていて、コンビニは潰れておらず、クビになった本当の理由は藤堂自身の問題だった。


 それを長田たちのせいだと思い込み、偶然見つけたサイトを利用したらしい。


 このことと香に説得されサイトをやめようかと思ったが、すぐに復帰してしまった。


 横には学校一の可愛い幼馴染の彼女がいて、高校生としては幸せ者なのだろう。


 けれど、どうしてもピンポンとなる音が聞きたい欲求を抑えることが出来なかった。


 サイトを発見してちょうど一年。


 決して全てが正しいわけじゃない。


 ただ、今の俺がやれることはこれだと思うから。


 今日も俺の指はその音を鳴らす。


 ピンポーン。


 ピンポーン。


 ピンポーン……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ