四章
さすがに二カ月で幹部二人がチームを抜けたことに違和感を覚えたのか、長田たちは警戒をしているようだった。
北井たちの抜けた穴を急いで埋めたことが部外者から見てもチームのまとまりの無さを感じさせた。
俺もネットなどで調べてはいたが、ほとんどの情報は藤堂との定期連絡によるものだ。
この機会を逃さないように次の作戦に移る。
三番目のターゲットは副長の竹里。
北井と同じく基本的には落ち着いた性格だが、明るくチーム内の人望も厚い。
竹里は大家族で決して裕福とは言えない家庭の生まれだ。
八人兄弟の長男で幼い兄弟の面倒見も良く、新聞配達など複数のバイトをして家計も手伝っていた。
チームにいるのは他のメンバーとは違い、長田に対する義理と友情を通しているらしい。
多忙な時間の中にあるわずかな時間を自分ではなく友の為に使っているわけだ。
そんなこの男が藤堂へ最初にキレた。
藤堂が言うには長田を注意した物言いが癇に障ったらしく、いつも店員に対してキレるメンバーを止めていた温厚さは見る影もなかったらしい。
そんな竹里を止めたのは長田で、他の二人はあまりの気迫に何もしなかったと目撃していたアルバイトに藤堂は聞いていた。
藤堂も日頃のうっぷんもあり、差別混じりの言葉を投げつけてしまったという。
竹里自身のことを知ると制裁をする気持ちが萎えてしまいそうだったが、どんな理由があろうと暴力は許されない。
それにコンビニに対して迷惑をかけていたことも事実なのだ。
揺らぎそうになった決心を改めて固めて計画を練る。
計画は自分でも最低だと思うものだった。
大切な人を傷つけられてこそ精神的に竹里を追い詰めることが出来ると考えた末、標的は家族に定めたのだ。
昔観たドラマのシーンを思い出す。
『犯罪者の家族はマスコミを火種に差別を受ける。差別は許されることではない。だけれども、これは必要悪だ。犯罪者は自分だけでなく、家族も巻き込むことになる。それを思い知らせる為にも必要だ。だから差別する人間を非難することも出来ない』
これを観たときは衝撃的だった。
いつもの主人公の道徳的な言葉とは違い、かなり偏った意見だったからだ。
当時は意味が理解できなかったが、今は理解できていると思う。
世の中綺麗ごとばかりでは通らないのだ。
別に好きでも、気持ち良くもない。
やることに正当性が欲しいだけかもしれない。
自分の中にある良心と戦いつつ、竹里への攻撃を開始する。
今回は正真正銘のピンポンダッシュ。
竹里がアルバイトや集会でいない時間帯を狙って仕掛けた。
最初の内こそ笑っていた家族も、意味もわからずされる行為に笑顔が消えていった。
自分がいないときを狙われる苛立ちと疲弊していく家族を見る辛さで精神的に追い込まれていく竹里。
前の二人とは違い、文書を送っても簡単には折れなかった。
長田との友情と家族との間でかなり迷ったようだが、最後にはチームを脱退した。