二章
すっかり生活をピンポンダッシュに費やすようになり、せっかくの夏休みも友人と遊ぶどころではなかった。
俺はいつものようにサイトを閲覧し依頼を吟味する。
その中の一つに手を止めた。
『自分はコンビニで雇われ店長をしている藤堂元太です。事の始まりはお店に暴走族がいつもたむろして迷惑だったので勇気を出し注意をしたことでした。案の定と言える展開になり、集団リンチに遭いました。幸い警官の方が通りかかり奴らは逃げだしたので、怪我は軽いもので済みました。ですが、翌日から倍の人数でたむろし始めたのです。これのせいでお客様は全く来なくなりました。日に日に経営は傾き、ついには閉店してしまいました。その責任を取り本社から解雇通知を受け、今は無職となっています。このような理不尽なことには屈服したくはありません。ただ、リンチに遭ったときの恐怖もあり自分での報復が難しいと感じ、今回は皆様にお願いしたく依頼を致しました。何卒、私の無念を晴らしてはくれませんでしょうか』
別にヤンキーを否定するわけではない。
正義感が強い性格でもない。
それでも弱い側の人間の気持ちはわかる。
俺はこの依頼は自分こそふさわしいと思った。
最近マンネリ化の現状に飽きはじめていた感情は沸々と熱を帯び始め、俺の指を勢いよくクリックさせる。
今回、俺は依頼者である藤堂にメールで直接コンタクトを取った。
サイトの会員同士であれば互いの登録情報を本人が許可している範囲で閲覧が可能な状態になっている。
コンタクトを取った理由は単純に過去の案件と違い情報が少な過ぎたからだ。
送信してから一時間ぐらいで返信が帰ってきた。
『まずは依頼を受けて頂き、ありがとうございます。実は暴走族の情報は掴んでいます。無闇に情報を載せて奴らにばれるのが恐かったのです。ですので、依頼者の方だけに詳細をお教えしようと考えていました』
藤堂の前置きに改めて緊張を覚えつつも、危険な依頼に興奮を抑えられないでいる自分に気付く。
『主にたむろしていたのは四人。暴走族の総長でもある長田、副長の竹里、特攻隊長の竜村、参謀の北井です。集会終わりなどは子分らしき人間が数人いたりしますが、ほぼこの四人が営業妨害となっていました。暴行を受けたのも同じメンバーです。身元はいざというときの為に探偵事務所に調査させていたものなので確かと言えます。詳細は別にお送り致します』
藤堂は言葉通り、次のメールに事細かに調べた個人の情報、行動内容を載せて送ってきた。
別に俺は正義の味方ではない。
依頼をこなしてきたのもストレス解消みたいなものだった。
ただ、この依頼に関しは違う。
俺の場合はいじめだが、暴力に泣かされる弱者の気持ちがわかる。
だから、これは今まで果たせなかった俺の復讐でもあるのだ。
自分の中にある想いを原動力にして、翌日から計画を始めた。