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一章

 ピンポーン。

 

 ピンポーン。

 

 ピンポーン……。

 

 何度やっても鼓動が速くなるのはどうにもならない。

 

 俺は中の住人が出てくる前に足早にその場を去った。

 

 ドアのチャイムに呼び出され中年男性が部屋から顔を出す。


「くそ。本当に誰だ。いいかげんにしれくれ」


 姿の見えない相手に対して男はぶつぶつと毒づく。


「くくく。だいぶイラッときているな。作戦は上場だ」


 俺の名前は里田謙吾。


 地元の学校に通う普通の高校生だ。

 

 ピンポンダッシュという小学生のような子供がやることをどうしてやっているかは約一か月前に話を遡る。


 今年の春に性に合わない受験勉強をそつなくこなし晴れて高校生になったはいいが、ちょっとした無気力状態になっていた。


「ああ~高校生活ってこんなつまらないものなのか?」


 俺は食堂のベンチに座りながら空を見つめ叫ぶ。


「何を馬鹿なことを言っているの」


 誰かが冷静にツッコミを入れてきた。


 俺は声の方を向く。


「何だ、香じゃないか」


 こいつは幼馴染の香。


 俺と違い入試トップの優等生で何気にモテるが、彼氏をつくらず事あるごとに俺を馬鹿にしてくる。


「こんな美人になんだはないんじゃないの」


「俺には腐れ縁で色気も胸もない女子しか見えませんが」


「この最低野郎。あたしに言い寄らないのは謙吾ぐらいよ」


 仁王立ちで香は凄んでくる。


「よかったじゃないか。安全地帯の男がいて」


 と言うのは強がりだ。


 香が俺に気があるのもわかっている。


 両想いでも素直になれないのは幼馴染の面倒な所なのだ。


「じゃあな。俺は忙しいんだよ」


「どこへでも行けバーカ」


 背中越しでも香が舌をだしてアッカンベーをしているのがわかった。


 俺は、照れくさくて赤くなった顔を見えないように、一切振り返らず教室へと戻った。


 帰宅部である俺の日課は、スマホでのネットサーフィンで、この日も自宅で適当なワードを検索していた。


「何だ、これ?」


 ちょっと気になる書き込みを見つけタップする。


『同志を募集しています。興味がある方はこちらに』


 うさんくささ満載だったが、俺は先に進んだ。


 画面には《ピンポンダッシュの会》と銘打ってある。


「ピンポンダッシュの会?」


 小さい頃にやっていた悪戯のワードに興味を引かれる。


『この会は世の中にはびこる悪をピンポンダッシュという幼稚であるけれども画期的な作戦で成敗していきます』


 なぜだか、俺は指を止められずにいた。


『ここのサイトでは依頼募集と成果報告を掲載しています。皆さんに守って頂きたいのはピンポンダッシュという成敗方法だけ。参加したい方は入会登録してログインをしてください』


 カーソルを下にずらすと登録フォームへと移行出来るようになっていた。


「すげえくだらねえけどヤバいな」


 気持ちに拍車が掛り入会登録を済ませる。


 ログインした先には個人情報が無秩序に晒されていた。


 報告一覧に知っている名前があった。


『○○高校教頭、坂木清二。罪名、同高校女子生徒への猥褻行為』


「マジかよ。うちの教頭がターゲットって」


 依頼者は猥褻された女子生徒からだった。


 事の発端はその女子生徒が父のリストラで苦しくなった家計を救う為にアルバイトしていた現場を教頭に発見されたことから始まった。


 今は許可している学校も多いが、うちの高校は地元で有名な進学校ということもあり校則で禁止されている。


 普通だったら停学などの処分を下すところを教頭は脅しに使い、卑劣な猥褻行為を繰り返すようになっていく。


 親にも警察にも言えず苦しんだ女子生徒は、藁にもすがる思いでネットを検索しこのサイトへと辿りついたというわけらしい。


「あの野郎。陰険な奴だとは思っていたけど、ここまで最低だとは」


 依頼文の下には報告文が請負人である男の名前と書いてあった。


『一か月の間、深夜に毎夜ピンポンダッシュを繰り返しました。坂木はみるみるストレスがたまっていき疲弊していきました。ついには仕事を辞め、来週に実家へと引っ越しをするようです』


 その報告文の通り、教頭は一身上の都合という不都合なものを隠す定型文のような理由で退職をしたばかりだった。


 まさかこんなことが裏に隠れていたとは誰も思いもしないだろう。


 俺の好奇心と興奮は増していき、指はさらに先を読む為にマウスを動かす。


『○○団地、五号棟八号室の笹倉徹。この男が決められた時刻以外にゴミを出し、分別もしないのでカラスや野良犬が集り悪臭が漂っています。体が弱い子供の為に何度も注意をしましたが、一切の反省が見受けられません。どなたか、この男に制裁をお願いします』


 恐くなるほど偶然が続く。この団地というのが俺の住んでいる場所だった。


 依頼文には請負申し込みのアイコンがあり、そこをクリックすることで申し込みする仕組みになっていた。


「最初の仕事としては手頃なところかな」


 俺は参考にする為に過去の依頼を調べてみる。


 報告を読んでみていくつか気付くことがあった。


 まず、単純にピンポンダッシュを行ってもイタズラで終わってしまうので、対象が精神的に苦痛に感じるようにすること。

 

 さらに正体がばれてしまわないよう、細心の注意も必要だ。

 

 人の不幸は蜜の味というが、不謹慎にもサイトのおかげで興奮は増していく。


 そのせいもあり、俺は退屈な日々が刺激的を通り越して危険なものとなることを予想出来ないでいた。


 俺は自宅で経過をサイトに報告していた。


 事前調査を行い、笹倉がゴミを出す時間の約十分前に的を絞ってピンポンダッシュを繰り返す。


 日に日に笹倉のストレスは募り、ついにはゴミを出さなくなった。


 だが、これで終わってはゴミ屋敷になってしまうので最後の作戦を実行する。


 満喫で作った通告文を笹倉のポストに投函をした。


『笹倉殿。あなたが行っている規定時間外のゴミ出しに苦痛を感じた者に代わり、ここに最終通告いたします。貴殿が反省をし、規定時間にゴミだしをされるならば、ピンポンダッシュでの抗議活動を終了致します』


 心から反省したのかは定かではないが、笹倉はちゃんとルールを守りゴミ出しをするようになった。


 報告文に書いた以上という結びで俺の初依頼は終わりを告げる。


 俺は、一つ目の依頼を無事に終えたことですっかり調子に乗っていた。


 次にどの依頼をするか品定めをする為、サイトをチェックする。


 今度はもう少し緊張感を味わいたいという危険な欲求が出てきていた。


「みんな思うことは同じだな」


 サイトには普段自分が感じている世の中に対しての不平不満ばかりが書き連ねられている。


「よし、次はこれにするか」


 こうやって俺の日常は非日常のものとなり、退屈な高校生活は危険度を加速していった。


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