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ネリネ ~また会う日を楽しみに~

作者: 華七乃

 私が住んでいるのは山奥にある小さな村です。


 小さいといってもちゃんと商人さんが来てくれるし、色々な職に就いていた人もたくさんいるのであまり不自由なく過ごせるとても恵まれた村です。


 そんな村で私はお母さんと二人で畑仕事や山菜採り等をして生活しています。

 お父さんは、私がお母さんのお腹にいるときに事故で死んでしまったらしいので私は見たことはありません。でも、お母さんがいるので寂しくないです!


 村を囲っている森には危険な獣がいっぱいいるだけでなく、獣よりももっと危険な"じんろう"さん?というのがいるらしくもしも出会ってしまうと食べられてしまうらしいのです。

 なので決して森の奥深くには入っちゃダメなんだそうです。



「レナー、そろそろ遊びにいく時間じゃないかしら?」

「わわ、本当だ!」


 今日は大人だけで少しだけ森の奥(と言っても普段よりも少しだけらしいです)に行って薬草とか果物とかを採ってくる日で、獣とかも普通よりもたくさん出るらしく子供は危ないということで今日はお手伝いがお休みの日です。なので近所の子達と一緒に遊ぶ約束をしてたんだった!


「じゃあお母さん行ってくるね!」

「ふふ、気を付けていってらっしゃい」

「うん!お母さんも気を付けてね!」

「はい、はい」



 待ち合わせ場所が見えてくるとそこにはもうほとんどの子が集まっていました。


 「ごめん、遅くなっちゃって」

 「ううん、大丈夫だよ!」

 「じゃあ皆集まったことだしさっそく遊ぼうよ!」

 「うん!」

 「じゃああの木の下で遊ぼう!」


 皆で移動しようとしたとき私はふと胸の辺りがなんかもやっとし、お母さんたちが入っていったであろう森のところが気になりました。


 「レナちゃーん、早くー」

 「あ、うん!」


 後ろ髪を引かれながらも私は皆のところへ走っていきました。






 カンカンカンカン!


 お日様が空の真上を通り越してそろそろ小腹が空いてきたなという頃に突然村にある鐘が鳴りました。

 この鐘は、朝の6時とお昼の12時、午後6時と夜の9時の時間を知らせる為のものだけど、他に獣が近くにいるときや何かあったときにも鳴らされます。

 今回はまだ空が明るいので午後6時に鳴る鐘ではないということは、何かあったということです!


 「何があったんだろうね?」


 友達が私に話しかけてきましたがそれどころではありませんでした。

 私の胸のもやっとした感じがどんどん大きくなってきて、鼓動も早くなってきました。


 とても嫌な感じがします。


 鐘の音を聞いた村の大人たちが皆、朝お母さんたちが森に入っていった方角へ走っていくのを見た瞬間、私はいてもたってもいられなくなり大人たちと同じ方向に向かって走り出しました。



 距離はそんなにないはずなのにとても長く感じました。

 森に入るための専用の入り口のところに人垣ができていました。


 大人たちの足元をくぐって人垣の中心にいくと、そこには朝森に入っていった人達がいました。

 そして、何人かの人が苦しそうな表情をして寝かされているのが見えました。


 「お、お母さん!!」


 その寝ている人の中には私のお母さんもいました。


 「お母さん!お母さん!」


 私は泣きながらお母さんのところにいくと、声で気づいたのかお母さんが体を起こしていました。


 「お母さん!どうしたの!何があったの!」

 「レナ……不安にさせちゃってごめんね。ちょっと怪我しちゃっただけだから大丈夫よ」

 「お、おかあさん……」

 「大丈夫だから、もう泣かないで?」

 「う、うん」

 「レナ、お母さんちょっぴり疲れちゃったから少しだけ休むね?本当に大丈夫だから」


 お母さんは私の頭を撫でてから眠ってしまいました。


 お母さんに安心して休んでもらうために頑張って顔に出さないようにしたけれど、お母さんの足が紫色になっていて全然大丈夫ではないはずなのに、私を安心させるために苦しいのに無理して笑っているのに気がついていました。


 大人の男の人にお母さんを家のベットに運んでもらってから、私は何が起きたのか一緒に森に入っていった人に聞きに行きました。


 おじさんたちには教えてもらえなかったけど、私が真剣なのに気づいてくれたお兄さんが教えてくれました。


 お兄さんから聞いた話では、森から村に帰るときにお母さんを含めた5人の人が草むらに隠れていた蛇に噛まれてしまったらしく、さらにその蛇は毒を持っていたそうでお母さんたちは毒のせいで足が紫色になってしまっているらしい。


 私が勇気を出してお母さんは死んでしまわないかと聞くと、お兄さんは薬師のおばあちゃんが薬を作ってくれるから大丈夫だよと言った時でした。


 「薬の材料が足りないだと!?」


 私もお兄さんも声がした方を向くと、薬師のおばあちゃんが住んでいる家に男の人がいました。

 毒にやられてしまった人の身内なのでしょう。

 

 けれど、私が気になったのはその人ではなくその人の言った"薬の材料が足りない"という言葉でした。


 私は薬師のおばあちゃんの家に走り込みました。


 「おばあちゃん!薬の材料が足りないって本当なの!?お母さんはどうなっちゃうの!?」

 「レナちゃん……ごめんね、毒消しの薬に使う薬草が1つだけたりないんじゃよ……」

 「その薬草ってどこに生えてるの!レナが採ってくるよ!!」

 「それはダメじゃ!必要な薬草は今日森にいったところよりももっと奥深くに生えているのじゃ、危険すぎるうえにもう夕方じゃ、すぐに暗くなってしまう。明日村の男どもに行かせるからレナちゃんはお母さんの側にいてほしいのじゃ」


 おばあちゃんにそう言われ家に戻った私は、お母さんの額に濡れたタオルをおきベットの隣にしゃがみこみました。


 「お母さん……」


 お母さんは私の呼び掛けに反応せず、ただ苦しそうに呼吸をするだけです。

 私は今お母さんの足がどうなっているのか気になり、布団をそっとめくりました。


 「っ!!」


 思わず声をあげそうになりましたが、お母さんを起こさないように懸命に堪えました。


 「これって、本当に大丈夫なの……?」


 思わず呟いてしまうほどに、お母さんの足の紫色になっているところが村に運ばれてきたときよりも大きく広がっていたのです。

 そして、今も広がり続けているようでした。


 「これって、明日採ってくるので本当に間に合うの?森の奥深くにあるのに明日行って帰って来られるの?……お母さんこのままだと死んじゃうの?そんなの嫌だよ……」


 お母さんは今もなお苦しそうに呼吸を繰り返しています。



「明日まで持つ保証は何処にも無いよね……」


 私は暫くの間お母さんを見て……自分で薬草を採りに行く事にしました。



 「……お母さん、私お母さんに死んでほしくない。早く元気になってほしい、これ以上苦しんでる姿を見てるのも辛いし嫌だよ。だから、だからね、レナは約束破っちゃうけど薬草採ってくるね。だからお母さん、レナが帰ってくるまでちゃんと待っててね?死んじゃわないでね、すぐに帰ってくるからね!」


 お母さんにそう言い残して私は家を飛び出ました。



 外は既に暗くなり始めていて、どこの家も明かりを灯し終わり、夕食の準備をしていたり明日の準備をしている為なのか外には人があまりいませんでした。

 そのため、誰にも見つからず無事に森の入り口まで来ることができました。


 私は1度村の方に振り返り「ごめんなさい」と一言呟いて薄暗い森のなかに入りました。





 夜の森はとても不気味でした。

 

 何度も入ったことのある村から近い浅いところもまるで初めて入ったような感覚がしてきます。


 ギャーギャー


 「ひっ!」


 何処かで鳴いた鳥の声に思わず小さい悲鳴が出てしまいます。


 恐怖で目にうっすらと涙が浮かんできました。


 「……こんなんじゃダメだ」


 パチンッ!


 気持ちを切り替えるために自分の頬を思いっきり叩きます。


 「怖い、帰りたい……でもお母さんが死んじゃうのはもっと怖い、だから頑張らなくちゃ!」


 周りを注意しながら私は森の奥を目指して足を進めました。





 「もう、森の奥まで来れたのかな……」


 森を見渡してみてももう知っている景色は無く、どこも同じような景色ばかりです。


 「薬草はどこにあるのかな?」


 薬草を探すためにそれらしきものを探そうとしましたが


 「あ、あれ?あ……どうしよう何の薬草が無いのか聞いてこなかった……ど、どうしよう……と、とにかく一回村の近くまで戻った方がいいかな……」


 そう思い、来た道を戻ろうとしました。

 

 「あ、あれ?どこから出てきたんだっけ……?」


 自分が何処から出てきたのかわからなくなってしまった私は今まで頑張って抑えてきた不安や恐怖が出てきてしまいました。



 ガサガサッ


 「っ!!」


 パニックになっていた私は突然斜め前の草むらが動いたのに過剰にビックリしてしまい思わず後ろにさがり過ぎてしまいました。



 「えっ?……キャーーーー!」


 後ろはちょうど崖のようになっている場所だったらしく、私は落ちてしまいました。






 幸いにも、崖は小さかったようで大きな怪我はしないで済んだようです。


 「戻らないと……っ!」


 立ち上がろうと足を立てると足を捻っていたようで鋭い痛みが走りました。

 見てみると足首が青紫色になっていました。


 「ひっく、ふえ……」


 普通にいるだけで不安になる暗い森に、歩けなくなるという恐怖、目的を達成できないそれのせいでお母さんが死んじゃうかもしれないという絶望感……


 「うわぁぁぁーん!」


 今まで考えないようにしていたことまで、歩けなくなったという状況のせいで考えてしまい、恐怖に耐えられなくなりついに私は声をあげて泣いてしまいました。

 獣が声を聞いてこちらに来るかもしれないと思ったけれど、涙は止められませんでした。



 「……煩いな、何故こんなところに幼子が一人でいるんだ?」


 突然、自分以外の声がして驚きのあまり涙が少しだけ止まりました。


 何処から声が聞こえたのか周りを見渡すと、右の方から黒い髪に銀のメッシュが入った男の人が近づいてきます。


 「うっ、うわぁぁぁーん!」

 「うわ!?突然泣きだすな、煩くてかなわん。ほら泣き止め」


 自分以外に人がいたという安心からか、また涙が出てきてしまった私に狼狽え、煩わしそうにしながらも男の人は頭を優しく撫でてくれました。


しばらくの間男の人は頭を撫でてくれていたが私が落ち着いてきたのがわかると撫でるのをやめてしまいました。……気持ちよかったのに。


 「何故こんな森の奥に一人でいる?親や大人は一緒ではないのか?」


 親という単語を聞いてまた涙が出かけたが、ここは頑張って耐え事情を話しました。


 「ふむ、毒蛇の毒に効く薬草か……確かにここから少し歩いたところに生えているぞ」

 「ほ、本当!」

 「あぁ」

 「よかったぁ~、これでお母さんを助けられる……あの、」

 「はあ、案内をしてほしいのだろう?俺もまた泣かれて煩くされるのは嫌だからな、案内してやるからついてこい」


 そう言って男の人は歩き出しました。

 私もついて行こうとして立ち上がりましたが


 「っつ!……足捻ってたの忘れてた」

 

 「おい、どうした?」


 私がついてきてないのに気付いた男の人が戻ってきてくれました。


 「足を捻っていたのか、ちょっと見せてみろ……だいぶ腫れているな、こういうのは始めのうちに言ってくれ」

 「……ごめんなさい」

 「はぁ、めんどくさいがしょうがない、ほらさっさと乗れ」


 男の人は私の方に背を向けました。


 「すみません、迷惑ばっかりかけちゃって」

 「べつにいい。俺としても早く煩いのが出て行ってくれた方がありがたいからな」

 「……」

 「動くぞ、しっかり摑まっていろ」



 

 「……」

 「……」

 「……」

 「……あ、あの」

 「……なんだ?あまり大きな声で話さないでくれ、小声でも聞こえる」


 無言でいる状態に耐えられなかった私は気になっていたことを質問してみます。


 「あなた……あ、名前をまだ教えていなかったよね。私はレナっていうの、あなたは?」

 「……アドルフだ。アディーでいい」

 「アディーはなんでこんな森にいるの?」

 「俺はこの森の中で暮らしている。外は煩いうえに人間は俺のことを怖がり、そして殺そうとしてくるからな」

 「ええ!?なんで?」

 「煩い!騒ぐな、落とすぞ」

 「ご、ごめんなさい……でもなんで?何か悪いことでもしたの?」

 「いや、何もしていない。外の人間たちが勝手に勘違いをしているだけだな、まぁどうでもいいが」

 「どうでもよくないよ……誤解を解こうとはしないの?こんなところに一人でいて寂しくない?」

 「別に解かなくても問題は無い。それに寂しくはない、ここは静かで居心地がいい」

 「そうなんだ……」


 まだ聞きたいことはあったものの、聞ける雰囲気ではなくなってしまったので大人しくすることにしました。


 




 「ほら、起きろついたぞ」


 いつの間にか眠っていたようでアディーに起こされて前を見てみると


 「ううん…………え、わあ!」


 そこは、木が生えてなく開けた場所になっていて月の光が差し込んでいます。

 そしてたくさんのうすい青色の花が月の光を受け発光しているかのように淡く光っていました。


 「お前が探していたのはおそらくこれだろう。この花はムーンライトと言って空気がきれいで月の光が当たる場所でしか咲かない。一般的に毒消しに用いられているからな」

 「へえー、物知りなんだね。これってどのくらい採ればいいのかな?採りすぎるのは森に対してよくないってお母さんいつも言ってるから……」

 「そうだな……何人ぐらい毒にかかってるやつがいるんだ?」

 「えっとたしか……3、4人ぐらいだったかな?」

 「それならば一本で足りるだろう。だが、また来られても困るからな……あと二本ぐらいよけいに持っていっておけ」

 「わかった」


 また来られても困る……ということは、アディーとはもうこれっきりということなのかな……嫌だな、せっかく会えたのに


 ムーンライトを採りながら心のなかでそう思いました。



 「採り終ったか?ならもういくぞ。お前の村なら場所はわかる」

 「うん…………ねぇアディー、」

 「っ!!静かにしろ!」


 私がまたアディーに会いに来ても良いかそう訪ねようとしたときでした。

 

 アディーが注意した途端、急に嫌な感じの風が吹き月が雲で隠れてしまいました。



 ブルルッ、グルォォォオオ!!


 森の奥から現れたのは大人の身長ほどの大きな猪です。



 「ちっ、こんなときに限って大物が出てくるとか運悪すぎだろ」


 アディーがそう吐き捨てているが、私は今まで見たこともない巨大な猪を前に恐怖ですくんでいます。


 「おい!お前逃げられ……るわけないか、足怪我してるんだったな……今更見捨てるのも後味悪い、戦うのしかないか……めんどくさい」


 アディーは私の方を見てから何か呟いているようだったが、私を守るように猪の前に立ちます。

 戦うつもりのようです。


 「アディー!無理だよ、武器もないのに倒せるわけ無いよ!逃げようよ!」

 「逃げたいのはやまやまだがもう無理だ、奴に見つかってる今お前を背負ってる間に突進されるだけだ」

 「アディーだけで逃げれば、」

 「生憎と今更お前見捨てるのも後味悪いからな、それに久しぶりに人間と話せて俺も少しは楽しかったらしい……まぁ、それもここまでだろうが」

 「え、なんで、私はもっとたくさんアディーといろんな事お話したいし、これからもアディーに会いたいよ!」


 狙いが定まったのか、猪の太い脚が地面を掻き始めています。


 「…………俺のもう一つの姿を見た後もそのままだったら考えてやる」


 アディーがそう言ったとき、猪が突進しようとこちらに向かってきました!


 アディーも私も猪に弾き飛ばされるっ!そう想像し固く目を閉じてしまいました。



 ドォォオン!


 大きな音が辺りに響き渡ります。



 けれど、体に衝撃は襲ってきませんでした。

 恐る恐る目を開いて見てみます。


 すると目の前には猪よりも大きな黒い狼がいました。





 猪はどうやらこの狼によって逆に弾き飛ばされたようです。

 それにより、猪は狼には勝てないと本能で察したのか森の奥に戻っていきます。



 

 私は暫くの間、狼の美しさに見とれていました。


 狼の黒い毛が月の光によって淡く光っています。よく見てみると左耳の先っぽの辺りと前の首の辺りに少しだけ銀色の毛が生えています。


 グルルゥ……


 完全に猪が去ったのを確認し終わったのか狼がこちらを向いたのがきっかけで、何処かに飛んでいた思考が戻ってきました。


 「あ、アディーなの?」


 私の問いかけに狼は少しの間俯いてから顔をあげ、私の目を見ながら答えました。


 「あぁそうだ。」

 「あ、アディーが人を食べてしまうと村で言っていた"じんろう"さんなの?」

 「……人を食べたことは無いが、俺は"人狼"だ」


 村の大人が言っていた"じんろう"がアディーだった……私は驚きのあまり何も言えないでいました。


 「やはり、人と関わるべきではなかったな。人は誰もが俺を恐れる……お前も俺が恐ろしいのだろう?」

 「そ、そんなこと……」

 「……無理をしなくていい。声も身体も震えているのはわかってる」

 「こ、これは」

 「お前はもうすでに少しは歩けるはずだ。ここは癒しの力が溜まっているからな。村はあの道を真っ直ぐ行ったところにある、暫くは獣も出てこないだろう。もうお前と会うこともない」


 私の言葉を遮ってアディーは言いました。


 「じゃあな……レナ」

 「え……あ……」


 アディーが私を置いて行ってしまう。

 誤解したまま、もう会えなくなってしまう。


 …………そんなのは嫌だ、嫌だよ。


 そう思ったら


 「ふえっ、うわぁぁぁーん、うえぇぇーん」


 私が急に泣き出してしまったのにビックリしたのかアディーは歩みを止めてこちらを振り返りました。

 それを機に駆け寄り思いっきり狼姿のアディーに抱きついて泣きまくりました。


 「おい何やってんだよ、離れろ」

 「うう、ひっく、あでぃーのばか~、ちゃんとはなしきいてよ~、ぐずっ」


 アディーは私をどうにか離れさせようとするが思いっきり抱きついていると、何をやっても離れないと諦めたのか器用に尻尾で頭を撫でてくれます。


 「なんだよ、お前は……俺のこと怖いんだろ?村の大人から人狼は人を食べるって聞いてたんだろ?」

 「うっぐ、あでぃーは私のこと食べなかったもん、それにたくさん助けてくれたもん、ちっとも怖くないもん!ひっぐ」

 「はぁ、もしかしたら騙して油断させてから食べる可能性もあるんだぞ」

 「アディーはそんなことしないもん!」

 「何故そう断言できる」

 「しないったらしないの!アディーとお別れは嫌だよ!まだお話たくさんしたい!これっきりなんて嫌だ!」

 「お前は本当に俺が怖くないんだな……可笑しなやつだ,お前のような人間は初めてだ。約束通りこれからもたくさん話をしてやろう」

 「本当?嘘じゃない?」

 「本当だ、約束は必ず守る。だから今日はもう村に帰らないとな、母親が危ないんだろう?」

 「あ!ど、どうしよう!すごい時間経っちゃってるよね!?お母さんもう死んじゃってたらどうしよう!!ふぇっ……」


 猪のことやアディーのことでいっぱいいっぱいですっかり時間が経ってしまっていた……お母さんのことを思い出し手遅れだったら……考えただけでまた涙が出てきてしまいました。


 「大丈夫だ、お前の母親はまだ死んでいないはずだ。蛇の毒に侵されたとしても最低でも半日は持つからな」

 「本当に?」

 「ああ。それでも不安なら俺の背に乗るか?お前が走って村に戻るよりも早く着くぞ?」

 「の、乗ってもいいの?」

 「ああ、いいぞ」

 「じゃあ、お願いします……あのアディー、どうやってのぼればいいの?」

 「……シッポにつかまれ、しっかり摑まれよ?痛くないから大丈夫だ」

 「う、うん、摑まったよ」

 「じゃあ持ち上げるぞ、背中に乗ったら俺の首のところに摑まれ」

 「うわっ!」


 持ち上げられた振動で少しびっくりしたが、言われたとおりに首のところまで移動します。


 「うわあ!アディー、すごいふかふか!気持ちいい!」

 「俺の毛は、この次の時に存分に触らせてやるから……いくぞ」

 「うん!……きゃあ!」


 アディーは私が返事を返したとたん走り出しました。


 「わああ!はやーい!すごーい!」


 周りにある木々がどんどん後ろへと流れていきます。


 グルルゥ


 アディーも気持ちがいいのか喉を鳴らしていました。





 そして、あっという間に見慣れた場所……村にほど近い森の浅いところに着きました。 


 「ん?お前の村が何やら騒がしいな……どうやらお前がいなくなったのに気付いてるらしい。早く村に戻ってやれ、母親もきっと村の誰よりも心配してるはずだ。薬も早く作って飲ませてやらないとな」

 「うん」


 村に急いで向かって何歩か歩いたがアディーがついて来ないのに気付きました。


 「アディー?」

 「俺は村には行けない、人にはあまり関わりたくないからな。村へはお前一人で戻れ」

 「えっ!?……わかった。ねえアディー、アディーにはまた会えるんだよね?会ってお話しできるんだよね?絶対だよね?」

 「ああ、約束しただろう?」

 「本当の本当に?」

 「まだ信じられないのか……しょうがないほんの少しの間ここで待っていろ、すぐに戻る」


 アディーはそう言うと狼の姿になりどこかに行ってしまったが……ビックリするほどすぐに戻ってきました。


 「これをやる、約束の証だ」


 渡されたのは一輪の花でした。

 

 「わあ!とってもきれい!なんていう名前なの?」

 「ネリネという、別名はダイヤモンドリリーだ」

 「ダイヤモンドリリー……」


 その名前の通り、花弁が宝石のように輝いています。

 私が思わず見入っていると


 「おそらくレナはこれから忙しくなるはずだ。だから数日は会えないと思う。そうなるとどうやって会うとするか、他の奴には会いたくないからな……そうだな、レナが忙しくなくなったらこのあたりの木に白い布を結び付けてくれ。その次の日に布を結び付けたところからネリネの花を置いておく、俺のいる場所まで置いてあるからそれを辿ってくれ」

 「うん、わかった。この花を辿ればいいんだね?」

 「ああ……じゃあな、しばしの別れだ」

 「絶対に花を辿った先にいてよね!」


 そう叫んで村の方に走り出したが、少しだけ気になって後ろを振り向きました。

 しかしアディーはもうそこにはいませんでした。

 

 「大丈夫!この花があるもん!」


 つぶやいて今度は振り返らずに村へと戻りました。





 村に着くと大人たちが心配したんだよと声をかけてくれたり、こんな夜中にどこに行ってたんだ!と怒られたりしました。

 そんなこんなでやっと薬師のおばあちゃんのところに辿り着きムーンライトを渡しました。

 おばあちゃんは驚いた顔をしていたが、すぐに薬を作ってくれました。


 薬が出来ると毒にかかってしまった人たちのところに届けられ、全員飲んでくれたようです。

 私もお母さんに薬を持っていったが、家にはいってお母さんのところにいったとたんものすごく怒られました。


 「こんな遅くまでどこに行ってたの!!薬草なんて明日大人が採ってくるって言ってたでしょう!!」

 「ゥぅ、ご、ごめんなさい!で、でも、お、お母さんが、グズッ、もし死んじゃったらとお、思ったら、ヒック」

 「馬鹿な子!お母さんだって、もしもレナが死んじゃってたらってたくさん心配したんだからっ!!もう二度とこんなことはしないように!!……でも、お薬ありがとうね」

 「うん、グスッ」


 お母さんはただでさえ毒で疲れてる上、私を叱って疲れ果ててしまったのか薬を飲んですぐに寝てしまいました。

 

 ……お母さんが助かって本当に良かった。





 アディーが言った通り、それから数日は本当に忙しかったです。


 お母さんはもう死んでしまうことはないけれど毒のせいで体力が戻っておらず、二、三日は動けないようです。

 だから私がご飯を作ったり洗濯をしたり掃除をしなければいけませんでした。

 ……家事って本当に大変なんだね!朝ごはんを作るだけで疲れちゃったよ!


 朝ごはんの片付けが終わってお母さんが寝ている部屋を掃除していると、昨日寝る前に窓のところに飾っておいた花に気が付いたようです。


 「あら?このお花はどうしたの?これってネリネよね」

 「お母さん、ネリネ知ってるの?」

 「ええ。ネリネ、別名はダイヤモンドリリーと言って花言葉は、幸せな思いでそれから……”また会う日を楽しみに”」

 「え……あ、あ、ふふふ」


 アディーはこの花言葉を知っていたんだ、知っていたからこの花を約束の証として私にくれたんだ。

 

 ……アディーも私に会うのを楽しみにしてくれているんだ。うれしい!


 そう思ったら自然と笑顔がこぼれてしまいました。


 「あら、何か嬉しいことでもあったの?」

 「うん!とっても!!」





 アディーと別れてから一週間が経ちました。


 お母さんはもうすっかり元気になって今日は私と一緒に畑仕事をしました。

 家に戻ってから私はお母さんに一言告げてから、木に白い布を結びに行きました。

 明日やっとアディーに会える。


 家に戻ってお母さんに明日遊びに行ってもいいかと聞いてみました。


 「そうねえ、レナは一週間頑張ってくれていたからね。いいわよ、ただし暗くなる前に必ず家に帰ってくること。わかった?」

 「うん!」


 嬉しくて、すぐに寝つけなかったけどアディーにしたい質問を考えているうちに寝てしまいました。





 「じゃあ行ってきます!!」

 「はい、いってらしゃい」


 お母さんに挨拶をしてから、急いで白い布を結んだ木の場所へと向かいます。



 「はあ、はあ。着いた!えっとネリネは…………あ!あった!!」


 木の周りを探してみるとちゃんとネリネが置いてあって森の奥へと続いているようでした。

 朝とはいえ少し薄暗い森では走ってしまうとネリネを見失ってしまいそうで、走りたくなるのを我慢して辿って行きます。



 しばらく歩くと、ネリネが途切れています。けれど、いつのまにか周りが明るくなっていました。

 視線を前へと向けると、そこはムーンライトが咲いていた森の開けている場所です。


 

 そこのちょうど中央にずっと会いたかった背中が見えた瞬間、私は来るまでに考えていた質問の内容など忘れてその背中に向かって走り出していました。




 そして、その背中を向けていた人……アディーに思いっきり抱き着き開口一番に


 「久しぶり!とっても会いたかったよ、お話いっぱいしよう!!」


 満面の笑みでそう言いました。

 ちゃんと見直してないので誤字脱字などありましたら、教えてくださるとありがたいです。

 読んでくださりありがとうございました(*´∇`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] レナとアディーの心温まる童話でした。 [一言] レナもアディーも優しいですね。これを機にアディーの人間不信が治ってくれればと願ってしまいます。 読後感が爽やかな素敵な物語、ありがとうござい…
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