【読み切り】ぺろぺろ姫 ペペロンチーノ物語 ◆三国志MMO◆お試し◆短編◆挿絵あり◆
文末に挿絵があります。
ぺろぺろ姫(ゲームver)
挿絵:トネリコ
このお話は短編として書きましたが、続きの連載版があります。
★ぺろぺろ姫
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ほとんど薄衣一枚という、あられもない姿態の多数の美少女たちが、これまた多数のおっさんたちをぺろぺろし、追ったり追われたりしている。
「いらっしゃいませぺろりんこ!」
「ぺろりんこ!」
「何名様ですか~? ぺろぺろ!」
「そ~れ、ぺろぺろ!」
「まてまてー!ぺろぺろ!」
「またねー! ありりんこぺろりんこ~!」
「おつりんこぺろりんこー!」
聞こえてくるのは、艶やかな美少女たちの嬌声。
字面だけ見ると、なんという、うらやまけしからん状況なのだろう。
……いっておくが、ここは変態系イメクラ店内の様子ではない。
これはリアルではなく、ゲームだ。
俺のチャット欄に残るギルド員の発言ログである。
ここは俺の巣窟、MMO「三国戦武」内のギルド・ルームの専用模擬戦場。
俺の名はぺろぺろ姫。
リアルでは男だが、ゲームの中では姫と呼ばれている。
ネカマだと?
まあ聞いてくれ。
俺はいたって健康で文化的な若人だ。そしてやるからには、たとえゲームであろうと頂点を目指したかった。
ぶっちゃけ、下ネタ話OKなガチ強ギルドを作りたいと思った。
このゲームはよくある三国志風MMOで、魏・呉・蜀の三つの国がある。
俺は、魏は「正史」厨が多く、蜀は「演義」厨が多いと踏んだ。三国志ファンにおける正史厨と演義厨とは、永遠に分かり合えない存在。未来永劫、互いに誹りあい詰りあい争いあうこと必定。
俺は魏蜀を避け、呉でキャラクターを作った。
言っておくが、リア男であることを隠してリア女に近づこうとかそういう企てなどない。
キャラが女なのは、どうせ操作するなら、髭のおっさんよりは、俺好みの可愛い女の子がいいというだけだ。
セミロングの黒い髪、憂いを帯びた露草色の瞳。腰は細く胸は突き出ている。背は低く、話すときは見上げるような姿勢になる。可憐で儚げな容貌だが、心優しく慈悲深く、いざというとき芯は強い。
というのが俺設定。
職は補助魔法バフと遠距離攻撃が使える射手にした。
このゲームでは、ギルドは「部曲」と呼ばれている。
部曲名は「ペペロンチーノ」にした。
なんとなく、だ。
非エロな語句だが、語感がエロいだろ?
キャラ名の上に部曲名が表示される。部曲名の上に、任意で全角10文字まで表示できるので、「非ガチお断り」とした。
非ガチお断り
ペペロンチーノ
ぺろぺろ姫
と、俺のキャラの頭上に表示される。
するとなぜか、俺の部曲にはリア女が集まった。
「あ、あの……部曲に、入れてください//」
ん? 別にガチで頂点目指してくれるなら女でもいいけどさ……。
「うれしいっ! 雲の間から光が差し、真の君主を仰ぎ見るような思いです!」
んん? どうした、そんなに感激して。
「同志よ……同好の士よ! 共に道を歩もうぞ……!」
んんん? 俺はエロい話したいんだけど……なんだか女の子ばっかりだな、大丈夫なのか……。
俺は不安を感じつつも、ひとまずレベル上げに専念した――。
その結果がこれだよ!
俺の頭の中には「どうしてこうなった」「カオス」「なんだこれ」「馬鹿とその一派」「おまわりさんこっちです」「おさわりまんこっちです」「ぺろぺろは正義」といったタグが張り付いている。
部曲員の頭上コメは「非ペロお断り」。
え、うん、いや、違うんだけどまあいいや。
俺は、凌辱され初花を散らされた月下美人の如く、誰にも知られずひっそりと袖を泪で濡らした。
字面だけみるとキモいが。
魏のプレイヤーは蒼天航路という漫画を読んだガチ勢が多かった。勝てば官軍、力こそすべて。
蜀のプレイヤーは小説やゲームからきた正義厨が多い。作戦とか戦略とか言ってるけど、口だけの奴が多い。判官贔屓は正義と違うだろ。
うんそうだね、向いてるであろう魏でキャラと部曲作ればよかったんだよね。
しかしすべては遅かった。
ひとつの垢アカウントに3キャラまで作成できるが、最初作成したキャラの国でしか作れないのだ。呉のキャラを作ったら、残りの2人も呉の所属となる。
そしてキャラ削除には誤削除防止の観点からか、10日もかかる。待っておれん。
呉は――おっぱいアニメから来たオタと、無双ゲームからきた……腐女子が多かった。
オタと腐は混ぜるな危険!
孫策周瑜とかはマシ。凌甘とか甘呂とかわけわからん。
リアルでMMOやったことある奴ならわかるだろうけど、どこのゲームにもネタギルドがある。ネタギルドもピンキリなのだが、俺の部曲はネタ認定されている上に、腐女子どもに実権を簒奪されてしまっていた。
「おつつでした^ー^」
「おっつーノ」
「乙です」
「姫おつ、ぺろぺろー」
俺の山塞での、他の部曲のメンバーたちと模擬戦。
相手は魏の、おそらく中身リアルおっさんが多いガチギルド。
戦争であれば敵として戦うが、狩り場や模擬戦では普通に仲良くつるむことがある。
うちはガチ戦争系部曲を標榜しているので、他部曲に模擬戦を申し込みしてみた。
ちなみに冒頭の表記であるが、
ぺろぺろ(挨拶)
ぺろぺろ(物理)
ぺろぺろ(火計)
ぺろぺろ(デバフ)
ぺろぺろ(陥穽の計)
等であることを付記しておく。
模擬戦の結果は……負けた。
模擬戦のルールは、敵の部曲長を倒すか本拠地点を壊すか。
うちの部曲員たちは、高レベル廃プレイヤーが多いのだが、いかんせん俺が弱い。キャラのカリスマの値によってギルドに入れられるメンバー数が増えるのでCHA振りマックス。CONやSTRがどうしても低い。
愛すべき娘たちに愛嬌と度胸と腕っ節があっても、姫が弱いのですぐ殺されてしまう。
「みんなすまない。俺が弱いばっかりに……」
「楽しかったですよ、姫。またお願いしますね」
女子力高め、ふんわりゆるかわおっとりタレ目姉系の巨乳道士は、俺の部曲の癒し系だ。道士は回復や付与の術を使えるので、文字通り癒してくれる。
なにげに俺を立ててくれてるし、俺の失敗はフォローしてくれるし、低レベル者には率先してサポートしている。
「そだ、作戦をたてよう!」
スク水白羽扇軍死(軍師ではない)の貧ぬーが挙手の動作エモをした。
軍師という職は魔法系の火力担当だ。軍師なのに真っ先に突っ込んで自爆テロを好むから軍死と呼ばれている。
「うむ、賛成……」
漆黒ゴスロリツインテール兇手が長ネギよろしく苦内(なんで三国志なのに苦内なのか謎)をリズミカルに振り続けている。
兇手は暗殺者。素早くて手数が多く、クリティカルが出やすい。細身なんだが尻と胸にはちゃんと肉がついている。ゴスロリ可愛いけど、太股もみたいよぺろぺろ。
「にゃー! にゃんにゃん……にゃー!」
猫耳隻眼包帯短髪ボーイッシュ拳士は、兇手の苦内に肉球拳を繰り出してにゃんにゃんしてる。
拳士は打撃系前衛職。装甲は薄いが体力は多く、準備キャストや再準備リキャストが短い特殊攻撃が多い。
「射手という職のせいで死にやすいのでは……」
ぼそり、と仙女が言ってはいけない発言をした。
豊かで妖艶な肢体を包むのは、露出たっぷりで舞姫のような衣裳。
支援魔法特化職で、舞ったり歌ったりして味方の戦力を強化する。
「俺はミニスカートのひらりズム至上主義者なの! 絶対領域を見ていたいの! 他の職だとないんだよ却下ああああ!」
思わず嗜好を吐露してしまい、慌てて補足する。
「パンツの中身はどうでもいい、しかし絶対領域だけは譲れないんだ……」
「うんうん、猟犬わんことか慣らし《テイム》できるし射手でいいよ。守るよ。軍死だし」
「自分で軍死ゆーな」
「やっぱ姫も萌えオタだよね。おまわりさんこっちです」
「譲れない嗜好ってありますよね……私も甘寧がいなけりゃ呉にいませんから」
「道士たん、その話は姫が落ちてからで……でゅふふ」
どうやら女子たちの萌え話は、俺がいないときに行われているらしい。
「いらっしゃいませといえば、この前、ドライブスルーのバイトで、『いらっしゃいませこんにちは! マイクに向かってこんにちは!』っていうアレをやらかしちゃったよ!」
軍死は基本おおざっぱで、MOB敵のタゲ取りも適当にブチかましてリンクしまくるとかよくやる残念な女子だ。リアルでも残念な子であるらしい。
「客がマイクに向かって『こ、こんにちは?』というアレか; 疲れてんのかもな。あんまゲームで夜更かししないで寝ろよ?」
「てか姫、勝てる策考えてよ」
うわっ……この軍死、策丸投げ……?
仕方がない。
しばし考え、俺は「策」を提示した。
「……ということで、もう一回模擬戦お願いします。サーセン」
日を改めて、再模擬戦を行うことになった。
部曲員たちは準備を整える。
そして……模擬戦が始まった。
「ぺろぺろー!」
「ぺろぺろー!!」
広大なマップの中央は、どちらの陣でもないが、所々に柵が築かれていたり沼地があったり高低差があったりする。
今回は西に自陣、東に敵陣がある。それぞれに城門があり、最奥には本陣の要石がある。要石を相手に破壊されると負ける。
大将たる部曲長が討ち死にしても敗北となる。
死んだ者は30秒待機のペナルティ後、要石への死に戻りとなる。
要石は硬く、囲んで10人くらいで殴っても3分くらいかかる。となれば、通常、敵の部曲長をボコったほうが早い。相手が広いマップを逃げ回るばかりで勝負がつけにくい場合、要石をボコって終了させるのだ。
相手は前回の模擬線と同じ、魏の廃人ガチ戦争部曲。
こちらの部曲員も対等に渡り合える強者ばかりだが、俺の姫はひ弱な射手なので、捕捉タゲされたら瞬殺されてしまう。
ペろペろ姫が開幕ダッシュで南西方向へ逃げる。
自陣を監視する軍死をひとり残し、残りの部曲員は中央へ進み、布陣する。
バフを掛けて迎え撃とうとするが、しばらく誰も見敵せず、「あれ?」という空気が流れた。
が、軍死のチャットが流れた。
「敵が本陣強襲、北回りだよっ! 本陣に姫がいないのを視認されてるけど、城門を叩き続けてるっ! ほとんど全軍、敵部曲長もいる! hhhhhhはやくたすけてー!」
うわー、あいつら城門をこじ開けて要石粉砕するつもりだ。
さすがガチ部曲。
最大兵力を以て集中砲火、兵法の理にもかなっている。
相手が全軍で本陣を攻めているなら、今からこちらが敵本陣を強襲しても、向こうの方が早く要石を破壊してしまう。
「むう……」
中央に布陣している味方の軍を自陣に戻すが、城門は要石ほど硬くないので、瞬く間に壊れてしまうだろう。
城門が破れてしまうと自陣内で攻守乱戦になってしまい、統制がとれず、死に戻った味方がバフする間もなく即死するなど、守備してる側が圧倒的に不利になる。
ペろペろ姫を本陣近くに戻し、射手の特技である<狩人の擬態>《インビジブル》を使わせる。この特技を使うと、射手の姿は相手方には見えず、味方には半透明で見える。兇手にも似た効果の特技があるが、持続時間が短い。
射手と兇手のこのスキルは敵に見つからず、斥候として重宝するが、移動以外の動作をすれば術は解ける。また、暴く術もある。
案の定、すぐ暴かれる。
「ペロペロ~! 鬼さんこちらー!」
相手には破れかぶれな行動に見えただろう。
部曲長が単身で<狩人の擬態>などしたところで、暴かれて逃げたとしても、いずれ追いつかれて囲まれてフルぼっこだ。
城門を攻撃している敵の一部がペろペろ姫に気づき、捕捉せんと迫る。
しかし今は時間を稼がなければ城門が危うい。そして敵の目をペろペろ姫に向けさせれば……。
「風よ吹け、嵐よ巻き起これ! そおおおおおいっ!」
敵の攻撃範囲外ギリギリの場所にいた軍死が、一瞬だけ攻撃範囲内に入り、範囲計略<大旋風>《トルネード》を行使した。
バラバラ、と敵の編成の一部が同一画面内にランダム配置転換される。
いつもは使えない軍死だが、今回はタイミングばっちりだった。
ペろペろ姫に追すがろうとした敵の一部が吹き飛ばされた!
ペろペろ姫は、すかさず<森駆け>で南へ遁走。
城門を叩こうとする敵、姫を追おうとする敵、城門へ戻ってくる味方に気づき迎え撃とうとする敵、吹き飛ばされた敵。
バラバラすぎる敵編成の横っ腹に、鋒矢の陣で味方が突っ込む。
敵の回復職を、次々に味方が刈り取っていった。
しかし、敵の部曲長は盾職で硬い。あと一歩のところで沈めるには至らず、敵の編成の安全圏へ逃れてしまう。
この逆撃で、敵味方が城門外で乱戦となった。だが回復職が健在で、編成が崩れていない分、こちら側が優勢だ。
敵はもはや、城門と要石の破壊を諦めた。
となると、単身飛び出ているペろペろ姫を狙いにくる。
「ペ、ぺろっ?!」
ペろペろ姫を取り囲もうとする足止め系の技や術により、ペろペろ姫の動きが止まる。遠距離、術、近接、あらゆる攻撃がペろペろ姫に迫る!
「ペ、ペろーーーー!!」
それが敵の失策だった。
なぜペろペろ姫が味方がいる中央側へではなく、南へ逃げたのか。
「囮だから、さ……ありがとう猫にゃん拳士、そして『ペろペろ姫』」
俺はリアルで眼鏡をくいっと動かし、モニタの前で呟いた。
一旦は味方に囲まれ安全圏へ逃れた敵部曲長だったが、掴みやすそうな目前の勝機《ペろペろ姫》を追って、敵軍全体が南北に伸びきってしまった。
味方の術や技が、敵部曲長のHPを削っていく。
しかしそれ以上に早く、ペろペろ姫のHPが……ゼロになった。
模擬戦終了。
とはならなかった。
「??」
となって、一瞬、放心する敵全軍。
どうして……と問う間もなく、敵部曲長のHPが尽き、今度は本当に模擬戦が終了した。
確かにペろペろ姫のHPは、敵部局長のHPより先にゼロになった。
そのときに模擬戦終了とならなかった理由はーー。
「この『ペろペろ姫』の『ペ』は、カタカナ……つまり偽者」
『ペろペろ姫』の中の人、猫にゃん拳士が死に戻った。
そこへ、実はずっと隠れていた本物のぺろぺろ姫、つまり俺が姿を現す。
「ぺろぺろー! ペろペろ姫さま~、乙です! 誉めてつかわす!」
「ぺろぺろ! ぺろぺろ姫も乙。」
……ガチ部曲がガチ切れしたことは言うまでもない。
まあ魏は「勝てば官軍」という気質の連中ばかりだし、部曲長はガチ狩友だったので、それほどひどい粘着はされなかったが。
余談。
とある日のハンバーガーショップのドライブスルーでの出来事だ。
「いらっしゃいませぺろりんこ! マイクに向かってぺろりんこ!」
俺はマイクに向かって、おもわずぺろりんこしかけたが、おそるおそる問いかける。
「ちょ、おま……軍死?」
マイクのむこうで、ふじこふじこする女の子の声が聞こえた。
ぺろぺろ姫(ゲーム現実ver)
挿絵:トネリコ
このお話は短編として書きましたが、続きの連載版があります。
★ぺろぺろ姫
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