#08 合流:親子再会
扉を開けると、中も相変わらず無機質の白い壁でできている。その中に、白衣を着た男のひと…お父さんがいた。
「お父さん!」
「あ…あかり!?それに、みんなまで…何故ここにいるんだ?」
「説明はあとで。とりあえず、帰りましょう。」
久美さんは冷静に指示するけど…何か見つけたらしいお父さんは、
「ここを調べていたんだ。少しだけ待っていてほしい。」
と何かの装置を操作しながら伝える。(こうなると、何言ってもきかないんだよね…。)
わたしが帰ろうと言う前に、法子さんが割って入る。
「教授、手伝えることはありますか?」
「…君まで、来てたのか…それなら向こうのモニターを見てくれ。私が何故ここを調べているか解るから。」
と、奥の装置を指さしながら法子さんに伝える。
法子さんがその装置へ駆け寄って、モニターの覗いた瞬間、
「こ…これ…。何で、ここに…!?」
すごく驚いたようで…しどろもどろに声を上げる。
その後、お父さんは何事もなかったように法子さんに伝える。
「これは、『ゼロシステム』…正確には、1/0-ワン・スラッシュ・ゼロ-システムなんだが…。」
法子さんは落ち着きを取り戻して、尋ねる。
「1/0…って、数式上のタブーのですか?」
「そう…。どうもこれは、可能性を司る装置らしい。」
「研究所での現象は、ブラックホールの影響で時空に歪みがでて、この装置が現実世界へ干渉した…。」
「まあ、あくまで仮定だが…私も同じ意見だ。君は発生装置をもう一度動かしただろう?」
「はい。教授がここに跳ばされた時と同じ現象が…。」
「君が気づいてくれて良かった。気づいていなければ、もっと誤差が広がっていた…。」
「誤差…?何か異常が…?」
「実はこの装置は、二重起動がタブーらしく、何かのパーセンテージのモニターに0.2%の誤差が出ている…。」
お父さんと法子さんの話を聞いても、難し過ぎて内容がつかめないわたしは、久美さんに説明してもらうために、目配せする。久美さんも気づいてくれたみたいで、
「えっと…この施設は…お父さんと、のっこが研究してるときに、事故が起きて見た装置と一緒なんだって。その装置なんだけど、可能性を作ったり無くしたりするみたい…。」
「可能性…?」
「たとえば、私たちの現実の世界では、魔法を使ったり…自由に空は飛べないでしょ?それは、魔法を使える可能性や、自由に空を飛べる可能性が低いってことなの。」
「じゃあ…空を飛べる可能性があがれば、空を飛んだりできるようになるってことなの…?」
「うーん…。えっと、飛んだりできるようになるんじゃなくて…その世界がそういう世界に入れ替わるの…。」
「入れ替わる…?」
「すごろくをする時に振るサイコロがあるでしょ?」
「1から6までのだよね?」
「そう。あかりちゃんが降ったサイコロの目が、1だったとする。」
「うんうん。それで?」
「でも、2が出ても、6が出てもいいよね。そうすると…出た目が、2だった世界や、6だった世界がある…。」
「うーん…ってことは、可能性っていうのは看板みたいなものなのかな…?よく病院に書いてある矢印が書いてあるの。」
「そうね。そんな感じかな…。あかりちゃんの言葉を使うと、あの装置はその矢印を決めているものらしいの。」
「それだと、この機械は明日とか、未来がわかってるんだね…。」
「そうみたい。でも、お父さんが少しおかしいところをみつけて…それを直そうとしてるみたいなの。」
わたしは、なんとなく未来が変えられる機械なら…過去も変えられるのかな?って思って、久美さんに尋ねる。
「できるかもしれないし…できないかもしれない。「できるかもしれないし、できないかもしれない…。でも…過去が変わると、今にも影響するから…。」
「そうなの?」
「たとえば、あかりちゃんの病気が起こらなければ、私たちはあかりちゃんと出会わなかったのかもしれないでしょ?まあ、のっこを通じて会えたかもしれないけど…。」
「そっかぁ…。過去に原因があるから、今がこういう状況なんだよね…。」
「うん。だから、前を向いて歩かないとね☆」
久美さんは、いつも私が後ろ向きな話をすると、元気を与えてくれるように明るく注意してくれる。
「うん。そうだよね☆」
わたしも、久美さんに励まされるたびに、思いっきり元気に応える。
その時、切羽詰まったようなお父さんの声が聞こえる。
「な…何だっ!?」
法子さんもモニターを見て、驚きながらも、わたしを呼ぶ。
「え…!?…あかりちゃん!ちょっと来てくれる?」
わたしは駆け寄り、法子さんの横にたって、モニターを覗き込む。
「…お…お母さん……!?」
モニターに映っているのは、三年前にわたしと同じ心臓病でなくなったお母さんが映っていた。
側にいるお父さんとわたしが目を合わせると、突然モニターから白くまぶしい光があたりを包む。