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#05 譲渡:転送時計

しばらくすると、カラカラ…と薬品などのカートが音をたてて、こちらに向かってくる。検温の時間なんだろう。


「あかりちゃん。検温の時間だけど…。だいじょうぶかな?」

「うん。だいじょうぶだよ。」

「ありがとう。入るね。」


ガラガラガラ…

扉を開けて、カートとともに親しい看護士さんが入ってくる。


検温の準備をしながら、周りをみて、

「マナたちは、もう来たみたいね。」

「うん。もう帰ったけど…。」

この看護士さんは、久美さん。

この病院の中でも、一番親しい。その上、陽ちゃんたちの…というより、愛美ちゃんの先輩。

なんで愛美ちゃんの先輩かというと、占いやゲームのコトを愛美ちゃんに教えた人だから…。

愛美ちゃんも久美さんのコトを、“マスター”って呼んでるの。


「はい。あかりちゃん。」

久美さんから体温計を受け取り、脇に挟む。

体温を計り始めたのを確認すると、久美さんは話を始める。いつもと同じ。久美さんは、いつも違う話をしてくれる。

「わたし、最近変わったことがあって…」

「変わったって…どんなコト?」

「えっと…これなんだけど…」

目の前に出されたのは、黒い巾着袋。

よく見ると、すごくきめ細かい。たぶん、絹とかじゃないかな…。

「この袋?」

わたしが聞くと、久美さんは笑いながら首を横に振って、答える。

「違うの。問題のモノはこの中身なの。」


そういうと、中身を取り出す。


出てきたのは、カードの束。トランプよりもちょっと大きい。


久美さんは目を閉じてカードを切ると、一枚を前においた。


「あかりちゃん。表にしてみて…。」

「うん…。」

表に裏返してみると、両手それぞれに大きな花瓶みたいな器を持った女性が、水をこぼさないように移し替えている姿が描かれている。

久美さんは首をかしげながら、

「やっぱり…」

と呟く。

「やっぱりって、どういうコト?」

久美さんは、少しの沈黙のあと、わたしを見て

「あかりちゃんに、直接見てもらったほうが早いわ。」

と、前に置いたカードを束の中に入れて、

先ほどと同じように目を閉じて、カードを切る。

また前に置くと、

「さあ、あかりちゃん。」

と、わたしに裏返すように伝える。

わたしは、うなづくとカードを裏返す。

「あ…同じカード!」

久美さんは、やっぱり首をかしげてる…。

もしかして、こういうコトなの!?


それを察したように、久美さんの口から答えが出された。

「そう…。何度やってもこのカードが出て来るの…。」

「マジックみたいだね…。」

「そうなんだけど…。このカード、占いするのに使うから…同じカードしかでないと、使えないの。」

「そうなんだ…。」

「あ、あかりちゃんは知らないよね。このカードはタロットって言って…」


タロットって…どこかで聞いたような…。

あっ、そうだ!

「もしかして…魔術師や、太陽とか月のカードがある?」

「そうそう。あかりちゃん、知ってたんだね。もしかして…マナから?」

「うん。最近聞いたの…。」

「そっかぁ。でも、どうしてテンパラスしか出ないんだろう…。」

「てんぱらす?」

「テンパラスっていうのよ、このカード。日本訳では"節制"って言われてるの。」


もしかして…。久美さんも…。

「久美さん。お願いがあるんだけど…。」

「お願いって、なにかな…?」

「わたしの手を両手で握って、目をつぶっていて欲しいの…。」

「いいわよ。何かのおまじないかな…。」

と、手を差し出してくれた。

わたしは、久美さんの両手の間に手を差し出すと、久美さんが優しく包むようにわたしの手を握って、目を閉じる。

「これでいいかな?」

「うん。」

と、返事をして、わたしも目を閉じてカードを思い浮かべて集中する。

頭のなかで、だんだんとカードが見えてくる。

大きな川…ほとりに白い服を来た女性がいる。彼女のそれぞれの手には、大きな花瓶のような器を持って、水をこぼさないように移し替えている。

(川だ……あ、さっき見たのと同じ…。)


(あれ…吸い込まれてる…)

吸い込まれてるような感覚はあるけど、なぜか怖くなかった。


だんだんと、水を移しているほうの器に向かっている。

器の中に入った先に見えたのは…緑豊かな世界。

(ここは…オルディアス!?)

ゆっくりと目を開けると、病室ではなく、森の中に開けた小さな草原のような場所。


(やっぱり、ここはオルディアス…。)


なぜ、オルディアスに着いたんだろう…。

一人じゃなく、手をつないで目を閉じた久美さんも一緒に…。


「久美さん。目を開けて…。」


久美さんは、目を開けて周りを見ると、少し黙っていて…急にひらめいたように、わたしに話しかけてきた。

「あかりちゃん。ありがとう…。あかりちゃんのお陰で、さっきのコトの意味が分かったわ。」

え…どういうコト?

わたしが考えていると、久美さんが説明してくれた。

「節制のカードの器は、潜在意識…自分では気付かない心の奥の意識と、顕在意識…自分が気付いている意識を表わしているの。

わたしは、何となくわかるような、わかんないような気持ちで…

とりあえず、うなづく。

「水は意識を表わしていて、潜在意識を顕在意識に、また顕在意識に潜在意識を移している…。つまり、現実の世界と、心象の世界を意識は行き来しているの。」

(現実の世界から、心象の世界に…。

元の世界から、オルディアスに…。

そういう意味なんだ!)

「そっかぁ!それでここに来たんだ…。」

久美さんは、あまり驚いていないわたしに気付いて、聞いてきた。

「もしかして…あかりちゃんはここを知ってるの?」

「うん…ここはオルディアスって言って…。」

わたしは、今までのコトを久美さんに伝えた…。

「つまり、あかりちゃんが創造することができる世界なのね…。このオルディアスは…。」

「うん。そうなの…。」

(さすが、久美さんだ…。)

久美さんは、この状況に驚くどころか、すごく楽しんでる感じがする…。


わたしが、感心して見ていたのに気付いて、


「そろそろ…戻らなきゃ行けないわね…。」

と、呟く。

それを聞いたわたしは、

「そうだね…。

帰ろう、久美さん。」

「どうやって帰るの?」

「えっと…わたしの手を握って、目を閉じて…。あっ、そうだ!」(時計を持たせてあげれば、久美さんも自由に行き来できるかも…。)

「どうかしたの、あかりちゃん?」

「うん。えっと…目を閉じて、この時計をイメージして欲しいの。」

「わかったわ。」

久美さんが、目を閉じる。

わたしも久美さんの腕に触れながら、久美さんの腕にあの時計が着いているところを思い浮かべていく…。久美さんの腕と時計が、だんだんと頭に浮かんで来る。

完全にイメージが鮮明になった時に、目を開ける。

久美さんの手首には、わたしの手首とお揃いの時計がはまっていた。

「もういいよ。久美さん。」

久美さんが目を開けると、わたしに尋ねる。

「可愛いね☆

これは、どんな時計?」

「陽ちゃんたちのアイデアで、この世界と元の世界を行き来するための時計なの。」

「わたしだけでも、行き来できるのかな…?」

「まだ、陽ちゃんたちにも着けてないから…わかんないの…。でも、久美さんなら使えるような気がしたから…。」

「わたしが始めてなのね…。いいわ。やってみましょう!

ダメなら、あかりちゃんに戻ってきてもらえればいいし…。ね?」

こういう時の久美さんは、絶対に自分の気持ちを曲げない。


「じゃあ、帰ろう!目を閉じて…わたしの部屋を思い浮かべて。」

「わかったわ。」

久美さんが目を閉じたのを確認して、わたしも目を閉じる。


病室のイメージが頭の中に鮮明になってから、目を開ける。

目に映るのは、いつもの白い壁やベッド。

ちゃんと戻ってきたみたい。

周りを確認すると、ちゃんと久美さんもいる。

「久美さん。もう大丈夫だよ。」

久美さんは、目を開けると、

「戻ってきたって、どう確認してるの?」

「わたしは、頭の中でイメージが鮮明になった時がそうなんじゃないかなって思うんだけど…。」

「そういえば…あかりちゃんは、この時計いつ着けたの?」

「昨日からずっと着いてたの。知ってる人にしか見えないし、触れない時計だから…。」

「そうなんだ…。不思議ね時計ね…。」

(そういえば久美さん、だいじょうぶなのかな…。)

わたしは不安になって尋ねる。

「久美さん。いつもより長くいるけど、時間はだいじょうぶなの…?」

久美さんは、微笑みながら、

「だいじょうぶよ。あかりちゃんのところに来る時は、長くなってもいいようにしてあるから…。心配してくれて、ありがとう。」

「ううん…。愛美ちゃんなんか…いつも時間忘れて話してて、陽ちゃんに、そろそろ帰ろうって言われて気付くから…。」

「マナは相変わらずね…。今度、気をつけるように言っておくわ。

じゃあ、またね。」

久美さんは、そういうとカートとともに、ナースステーションに帰っていった。

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