#04 帰還:自己往来
この章からは、
少女:あかり
の視点を中心に
進行していきます。
ガラガラガラ…
わたしは、扉の方をみると…嬉しくなった。
いつもの3人組。
(陽ちゃんたちだ!)
二日に一度は来てくれる、一番仲のいい友だちで…相談役でもあるんだ。
陽ちゃんたちは高校生で、年は離れてるけど…わたしのこと、友だちだって思ってくれてる。
「あかりさん。今日はどう?」
いつも最初に具合を聞いて来るのは紗夜-さや-ちゃん。
「だいじょうぶだよ。熱もないし…。」いつも優しくて、よく気が付く紗夜ちゃん。
「そっか。でも、あまり無理するなよ…。」
実の妹みたいに、気さくに接してくれるのは、陽-よう-ちゃん。
「じゃあ、話してもいいかな…?」
色んな噂や情報を仕入れては、教えてくれるのは愛美-まなみ-ちゃん。
三人とも、中学の同級生になってからの友達で、高校も三人一緒なんだ。
「うん。今日はどんな話かな?」
わたしは、そう言うと、愛美ちゃんは話を始めた。
「今日は噂とかじゃないんだけど…昨日、ちょっとした夢を見たの…。」
「……。」
「もしかして…。」
「え…。じゃあ陽たん、紗夜たんも…?」
「夢ってどんな夢を見たの?」
「おどろかないで聞いてね…。」
そう紗夜ちゃんが話しはじめた。
「夢の内容は…病院にきてみると、病室にあかりさんがいなくて…探してみると、急に光に包まれて…すごく自然の多い場所で、あかりさんに出会うんだけど…。」
「あかりたんから、カードをもらうんだけど…。」
「カードには何もみえなかったんだ。」
「そう…。わたしはその時に、目が覚めたの。」
三人とも同じ夢…。
夢の中のわたし、絵の見えないカード…。
(…!?…カード!)
わたしは思いだしたように、思い浮かべていく。
(一緒じゃわかんないけど…ひとりづつなら、わかるかも…。)
「えっと…もしかしたら、わかるかも…。そのカード…。」
「あかりさん?」
「本当なの?あかりたん。」
「…。あかりを信じてみるよ、あたしは。」
(陽ちゃん…。)
陽ちゃんの一言に、わたしは決意する。
「陽ちゃん。手を…。」
わたしは両手を握るようにすると…陽ちゃんの目をみる。
陽ちゃんはわたしの手を包むように、握る。
(陽ちゃん…。行くよ!)
わたしは、心の中で陽ちゃんのカードを探すように目を瞑って集中する。
(あ…明るい…。
空…?
そうか…太陽だ!)
目を開けると陽ちゃんが″どうだった?″という目で訴えている。
「陽ちゃん。太陽だったよ。」
わたしがそう告げると、
「太陽か…。そうなんだろうな。」
陽ちゃんは、何か分かっていたみたいに呟く。
「次はわたしだね。」
そう言って、愛美ちゃんは手を差し出す。
わたしは、愛美ちゃんの右手を両手で握ると、残った左手で握りかえしてくれた。
(愛美ちゃん、いくよ。)
わたしは再び目を瞑り、集中する。
(真っ暗……夜空…なんか光ってる……星だ!)
目を開けて、愛美ちゃんに告げる。
「愛美ちゃんは、星だよ。」
「星かぁ…。うん、ありがとう。紗夜たん、次だよ。」
愛美ちゃんに言われて、紗夜ちゃんはコクリとうなづく。
わたしは紗夜ちゃんに手を差し出す。紗夜ちゃんは優しく両手でわたしの手を握る。
(紗夜ちゃん…。行くよ。)
わたしの気持ちが届いたみたいに、紗夜ちゃんはコクリとうなづき、目を閉じる。
わたしも目を閉じて、集中する。
(暗いけど、さっきより明るいかな……まあるく、優しい光…月だ!)
目を開けると、紗夜ちゃんはわたしに軽く微笑む。
「紗夜ちゃんは、月だね。」
「ええ。そうでしたね。」
「紗夜。もしかして見えたのか…?」
「ええ…。そういえば、あかりさん自身のカードは見えないの…?」
「わたしは魔術師だったの…。」
「魔術師ですか?…月、星、太陽…。」
「それって、タロットカードじゃないかなぁ?」
「タロットって占いのだろ?」
「そうそう。そうだと…他に18枚…。」
「あの…あかりさんは、同じ夢でしたか?」さすがに、紗夜ちゃん。すごく気が付く。
みんなに、光の球とか、あの世界の説明をする。
だいたいのことを話終えた時…声が聞こえた。
「さあ、導かれし者たちよ…オルディアスへ…」
あの時と同じ…突然の光。
光が弱くなって、目が慣れたころには自然の多い景色に変わっていた。
(また、ここにきたんだ。)
この世界にいるときは、動き回ったりしても具合悪くならないみたい。普段は痛みやだるさで重く感じる身体が、羽根が生えたみたいに軽く感じる。
「ここは…どこ?」
陽ちゃんはまだ信じられない様子みたい。
わたしも、最初は信じられなかったけど。
「ここは、オルディアスって言うの。それに…」
わたしは、目を閉じて願う。
「え…どうして急に…!?」
愛美ちゃんも、驚いてうわずった声になってる。確かに、目の前にいきなりテーブルと人数分のいすが、急にでてきたらビックリするよね…。
「あかりさんは言ったのはこういうことなんですね…。」
「どういうことだ…。紗夜。」
「あかりさんは世界を創る力がある…ということは、空間や物を変えたり、作ったりできる…。」「じゃあ、あかりたんは、この世界の創造主ってことなの…。」
「えっと…イデアって人から…世界をつくって…って言われたの…。」
「イデアって…。病院の声がそうなのか…?」
「うん…。」
「イデア…創造、想像を司るもの…。」
「確か…イデオロギーなどもこのイデアから来てるそうですね…。」
「そういえば、『親しい人たちと…』って、話があったよな…?」
「多分、あかりさんをフォローするという事ではないでしょうか…。」
「どうやって?わたしたちには、そういう力は持ってないと思うけど…。」
「たとえば、人ひとりが知っている事はあまり多くないと思います。でも、何人か集まれば話すだけで、かなりの事の知ることができます。」
「そっかぁ。わたしたちは、いつも通りあかりたんと一緒に遊んだり、相談に乗ったりすればいいんだよね☆」
「まあ、今のところあたしたちはそれしかできないからね。」
わたしはいてくれるだけで、すごく気が楽なんだけど…。
それを察したかのように、紗夜ちゃんが続ける。
「この中ではあかりさんが一番若いから、わたしたちのほうが知ってることが多いですし…それにいつも一緒にいるわたしたちがいれば、あかりさんも心強いと思いますよ。」
「うん。そうだよね…☆」
「そういえば、元の世界に帰るには…どうするんだ?」
この前は、イデアさんに呼ばれて…戻ったんだっけ…。
「わかんない…。」
「えっと…一つ提案なんですが…。」
紗夜ちゃんのことだから、何か考えがあるんだろう。
「なにかなぁ…?」
「まず、あかりさんが意図的にこの世界と元の世界を行き来するために…元の世界に持ち運ぶことができるように、身に付けられる物があるといいのではないでしょうか?」
「そうだよな…。呼ばれないと行き来できないって、かなり制限かかるし…。」
そっか…。思い付かなかった…。
さすがに紗夜ちゃん。
「時空……時間…時計なんてどぉかな?
ここが、元の世界のパラレルワールドなら、時空間を飛び越えるにはいいアイテムだと思うんだけど…。」
愛美ちゃんの考えかたは、この世界では結構役にたつかもしれない。
アニメや、そのもとになってる理論や法則にはすごく詳しいから。
「作ってみるね…。」わたしは、目を閉じてその時計を想うことに集中する。
(でも、『その時計どうしたの?』って言われたら…。そっか、知ってる人にしか見えなくなればいいんだ!)
わたしは想い続ける。(やっぱり可愛いのがいいよね♪それと、元の世界の時間がわかるといいかな…。)
完全に時計をイメージできた時、右手に何かがはまったのを感じた。
目を開けると、腕にピンク色のハート型した時計がはまっている。
「できたみたいだな…。」
「まだ、そうとは限らないですよ。実際に行き来できるかどうかはやってみないと…。」
「うん…。取りあえず戻ってみよう。みんな、輪になって手をつないで。」
わたしは、少し離れて両腕を広げるように手を差し出す。
右手には紗夜ちゃん、左手には愛美ちゃんが手を取る。
最後に、紗夜ちゃんと愛美ちゃんの手を陽ちゃんが取って、わたしに合図を送る。
「さあ、あかり…。」
陽ちゃんの優しく、けれど強い意思のこもった声を聞いたわたしは、強くうなづく。
「みんな、目を閉じて…わたしの病室を思い浮かべて…。」
(白い天井……ベッド…広い部屋…)
わたしにとって一番長くいる場所。
だから、簡単に思い浮かべることができる。
だんだんと今まで感じていなかった、痛みと身体のだるさが戻ってくる。
(少しずつ、元の世界に戻ってきてるんだ…)
痛みとだるさがおちついてきたとき、消毒の匂いが元の世界に戻ってきたことを知らせる。
「みんな、目を開けてだいじょうぶだよ。」
わたしも目を開けて、見慣れた視界に戻ってきたことを実感する。
「成功したみたいだな…。あかり。」
夢や幻でないことを証明ように、右腕にはあの時計がはまっている。
「でも、かなり目立つけど…だいじょうぶなの。」
わたしはコクリとうなづくと、小声で
「あの世界を知ってる人だけに見えるの…この時計…。」
「それなら、確かに安全ですね。」
「これから、どうするの?」
「あの世界のことは、また明日だな。」
「あと、あかりさんの周りの人たちにも…話してみないとですね…。」
「あ…そっかぁ、カードをもってる人を探さなきゃだよね…。」
「特に病院の人で、もっている人がいれば…向こうに行ってる間、カムフラージュしやすいですね。」
(みんながいなくなるのはわかるけど、わたしが長い時間いないのはおかしいよね…。)
「そろそろ帰るよ。」
陽ちゃんが話を打ち切り、みんなに帰るように促す。
「また明日な、あかり。」
「あかりさん、お大事に。」
「色々調べておくね。」
みんなが帰った後の静まり返った部屋。
だいぶ慣れたけど、この時の寂しさはやっぱりつらい。
(でも、明日からはいろいろありそう…。)
でも今度は陽ちゃんたちも一緒にいるから、あまり不安は感じなかった。