#25 推論:情報集約
あかりの病室に向かっている久美たち。
あかりの病室の前まで来ると、壁にもたれかけている愛美がいた。
「待ちましたか?愛美さん。」
紗夜が声をかけると、
「2、3分くらいかな…。あかりちゃん、寝てたから。」
「じゃあ、そろそろ起こしましょうか…。」
久美はそう言うと、慣れたように部屋に入っていく。
しばらくすると、
「久美さん!もう…。」
と、驚きに恥ずかしさが混じった声をあげて、あかりは起きる。
「でも、いつも必ず起きるなら使うわ☆」
と開き直ったように言い放つ久美。
それを外で聞いていた愛美は、
「どんな起こしかたしてるんだろう…。」
と、興味半分、呆れ半分で呟く。
「もう良いわよ。」
と久美が言うと、三人があかりの部屋に入る。
「あかりのお父さんと法子さんで、全員揃いますね…。」
紗夜が呟くと、久美は時計を確認して
「あと五分くらいで来ると思うわ。」
と返した。
陽はふと思い出したように、愛美に問いかける。
「そういえば…今日の調子はどうだった?」
もちろん、情報収集のミッションのことである。
「うーん、まあまあかな。今回のことと、関係してるかは、わかんないけど。」
愛美はそう返すと、紗夜が会話に混じる。
「法子さんの悪い知らせと、良い知らせの2つも気になりますね…。」
「まだわからないことだらけだし…先に進めば、何かわかるんじゃないか?」
「確かにそうね。法子たちが来てから、話を聞いてみて…お互いの感じた点を合わせれば、何か導き出せるかもね…。」
しばらくすると、法子と光輝が部屋に入る。
法子は全員揃っているのを確かめると、
「では、始めましょうか…。」
と合図する。
陽たち三人、光輝、久美とそれぞれに頷き、最後にあかりが意を決したように頷くと、法子は話を始めた。
「まず…オルディアスなんだけど、あかりちゃんが『創造』…創り出せる力を持っている…。」
法子はあかりに視線を向けると、あかりは黙って頷く。
「敵対しているかはわからないけれど…『創造』までの力はなくても、世界に干渉できる者があかりちゃん以外にいる。
実際にヴァルティアリスは何者かによって、干渉されていたの。」
一瞬どよめきが起こり、紗夜は口を開く。
「ヴァルティアリスは確か、絶対悲哀障壁…でしたよね。
誰もが持っている…限度を超えた悲しみを、受け入れられるまで防ぐ壁…。と、私は解釈したのですが…。」
紗夜の解釈に同意し、法子は話を進める。
「そう、本来のヴァルティアリスは危害を加えない。でもあの時は、外部によって強制的に歪められていたの。クァレク・ラモーブという存在によって…。」
「クァレク・ラモーブ…。スペルは?」
何か感じた久美がそういうと、メモとペンを法子に渡す。
法子は受け取ると、
Quarek ramobe
と書いて、みんなに見えるように久美に渡し、話を続ける。
「これでクァレク・ラモーブ、と読むみたいね。
故意に能力の一部だけを増幅させて、歪ませる装置のようなの…。」
「あかりちゃんたちは、歪んだヴァルティアリスに巻き込まれた…ということか。」
陽がそういうと、
「歪み…えっ!?もしかしたら…。」
急に驚きの声を上げる愛美。
「何か気づいたんですか?愛美さん。」
「多分ね…。マスター、その紙貸して。」
と、紗夜に答えたあとに久美から書いた紙を受けとる。
メモ帳とペンを取り出し、スペルを写したあと、さらに書き込んでいく。
しばらくすると、
「やっぱりね。何でやってるかはわかんないけど…。」
と一人で話を進める愛美。
「ちょっと、マナ。ちゃんとみんなに説明しなきゃわからないでしょ?」
と諭す久美。バツの悪そうな顔をして謝りながら、愛美が話し始める。
「ごめん。えっと、わたしが気づいたのは…。」
と、クァレク・ラモーブのスペルが書かれた紙に矢印と、アルファベットを書いていく。書き込んだ紙をみんなに見えるように差し出す愛美。
そこには、
Quarek ramobeから
矢印が書かれ、
下には
Baroque maker
と書かれていた。
「バロックメーカー…。歪み作成器…。」
紗夜が言葉に出して、直訳する。
愛美がさらに話を繋げる。
「そう、これは英語…。
ということは、この世界の何者かが作った可能性が高いよ。」
「なるほど…。
『やっぱり』は、英語のアナグラムだったこと。
『わからない』は、どんな意図でこれを作ったのか。
ということですね。」
紗夜は推測を話すと、愛美は肯定と賛嘆を込めて口にする。
「さすが、紗夜たん。話が早いね。」
「そのことなんだけど、教授との推論である仮説ができたの。
その仮説が正しければ、意味があるわ。」
法子の話に陽は問う。
「その仮説は、どんなこと?」
「では…教授、説明をお願いします。」
法子は光輝にそう振ると、
「ああ、わかった。」
と承諾し、話し始めた。
「結論からいうとオルディアスと、この現実の世界は互いに影響を受けていると思う。」
「互いに影響…ね…。」
陽は、半信半疑ながら呟く。
「そうかもしれないね…。」
愛美は考えながら同意し、付け加える。
「みんなと別れたあと…何人かに、共通の話題があったの。
意識不明だった人が回復したって話なんだけど…みんな、友人や家族やペットがなくなってるの。」
「私もその話を聞いたわ。別の病棟の話だから、また聞きだけど…。」
久美もそう告げた。
「もしかして、ヴァルティアリスの影響でしょうか…?」
紗夜はそういうと、
「うむ。その可能性が非常に高い…。
この現実世界の精神的要素は、オルディアスには物理的に具現化されているのではないか。
また、オルディアスの物理的要因は現実世界に精神的影響を与えている…。」
「クァレク・ラモーブを仕掛けたヤツは、それを知っていて…。」
陽は、敵意を持ってそう口にする。
「だとしたら、わたしたちの敵だよね。」
愛美も陽の意見に同意する。
「そう。でも、私たちにはカードたちがいるわ。そこでもう一つなんだけど…。」
と法子は告げる。
「それってプラスの方だよね?」
愛美はそう確認すると、法子は頷き、話を続ける。
「カードたちには、それぞれ人格があるのだけど…私とイリスで、やったことがあるの。」
「やったことって?」
愛美は法子に尋ねると、
「同調-シンクロ-というよりは、憑依の方が正しいかもしれないのだけど…私は二度、イリスに身体を預けたの。
一度目は一部、二度目は全身を…。」
「そうなんですか…。メリットは何なのでしょう?」
紗夜はそう尋ねる。
「まず…私たちには身体に、イリスたちには精神的にリスクを伴うのだけど…カードの力を最大限に引き出すには、私たちの媒介としてイリスたちを具現化する必要があるの。」
と、法子は返す。
「リスクって、どんなのかな?」
陽がそういうと、法子は
「まず、私たちはイニシアチブ…主導権がないため、自分では動かせない。
イリスたちは、具現化するための精神力も使わなければいけないために、常に力を消耗してしまう…。」
と伝える。
「そこまでするなら、メリットは他にもあるのかな?」
と愛美は口にすると、
「その通りよ。」
愛美の質問に、答えて話を続ける法子。
「私が具現化したイリスなら、《帰還》という力を使えるの。
親しい人の所に帰る、限定的なテレポート能力よ。」
「確かに、使える能力が増えるのは大きなメリットですね。」
紗夜はそういうと、「上手く使えば、部分的に具現化する場合でもかなり大きなメリットになるわ。ヴァルティアリスの中で、教授に説明したあの時みたいに…。」
「ああ。あれは使いこなせれば、色々応用出来そうだ。」
教授は頷きながら、補足する。
「どんなことをしたんだろう?」
陽が、尋ねると
「左手をイリスに貸したと言っていたんだが、両手でそれぞれ違うことを書いていたんだ…。」
法子は頷くと、
「あれは、イリスと頭の中で話しながら、左手を動かしてもらって…私は右手で相関関係、イリスは個々の特徴を書いていたの。」
と説明する。
紗夜は
「そちらの方が最大のメリットかもしれないですね…。」とつぶやくと、愛美が
「上手く使えば、色々使えそうだね。」
と、笑って言う。
法子は、
「そうね。お互いに信頼関係が深まれば、もっと何かできそうね。
とりあえず、私が話したい事は以上よ。」
と締めくくった。