#23 陰影:不穏事象
現実世界に戻って、すぐに口を開いた法子。
「みんなに伝えたいことがあるのだけど…まだ考えがまとまってないから、三時間後にここに集まって。」
「わかったわ。みんなもいい?」
久美は自身の肯定と、みんなへの同意を求めるように促す。
全員が頷くと、愛美は
「プラスかマイナス、どっちの情報なのかな?」
と法子に問う。
対して法子は
「現時点では、プラスとマイナス、一つずつ。」
と端的に返す。
「ありがとう♪またあとで。」
と素直に感謝を伝え、あかりの病室を後にする。
それを見て陽は、
「また、始まったな…。」
つぶやき、苦笑いする。
光樹とあかり、法子がわからない顔をしているのを感じた紗夜が口を開く。
「愛美は、三時間とか時間を区切ると…いつもそうなんです。」
「マナにとっては、ゲームというか…訓練というか…。」
久美は半ば呆れながら話を続ける。
「一時間以上、三時間以下だと…ミッション始めちゃうんだよね。
自身の情報収集能力を判断するために…。」
それを聞いた法子は確信を持って、冷たい視線を久美に送る。
それを感じた久美は
「まあ…私が仕込んだのもあるけど…。」
と少しだけ弁明する。
「そろそろ、解散しましょうか。またすぐに集まるのだし…。」
久美が改めて解散の宣言をする。
「そうですね。」
紗夜は賛成し、帰り仕度を始める。
「教授は私と研究所にお願いします。」
「分かった。では、行こうか。」
光樹と法子は部屋を出て研究所に向かう。
「わたし…少し寝るね。」
あかりはそう言うと、ベッドに横たわり、足の方に畳んであった布団を自分にかける。
「わかった。みんな揃ったら、起こしてあげる。
あたし達も行こうか。」
と陽はあかりと紗夜に声をかける。
「そうですね。」
紗夜は答えると、陽とともに病室を出る。
研究所に向かいながら、法子は頭の中で事柄を相関図のように組み立てていた。
(現実世界ではないけれど、夢でもない『オルディアス』という世界…。
世界を変えられる、あかりちゃんの存在…。
その世界を歪ませようとする何者かの意図…。
現実世界とオルディアスのつながりは…。)
(まだ…何か欠けてるわね…。でも教授に概論だけでも話せば、何かわかるかも…。)
病室を一番先に出た愛美は、駅前にあるコーヒーショップにいた。
(今日はいいネタきけるかな…?)
サラリーマンや、主婦、学生など様々な人が入る店だからこそ、情報収集する際にはいつも立ち寄って、ノートを開いて聞き耳を立てながら30分くらい過ごす。
「…通りに、新しいケーキ屋があるんだけど……」
「そこのスーパーがこの辺じゃ一番安いから…」
「あのゲーム、どうだった?」
愛美は会話の単語を書き取りながら、自分の知りうる情報を横に書き込んでいく。
「そういえば、彼はどう?さっき意識取り戻したって連絡来たけど…。」
「交通事故で家族亡くなってからだから…疲れていたんだろうけど、昏睡の原因はわからないらしい…。意識取り戻したからいいけど…。」
「まあ…知り合いが死ぬのは良いことじゃないからなぁ…。」
「数少ないから報道されてないけど、その病院に昏睡状態で運ばれた5人のうち、3人が今日意識を取り戻したらしい。」
「偶然じゃないのか…?」
「彼のお母さんから聞いたんだが、3人とも昏睡の原因はわからないらしい。家族やペットを亡くしているのも共通してる…。」
「そうなのか…。でもすぐ戻ってきたんだから、いいんじゃないか?」
「まあ、そうだな…。」
(わたし達が向こうにいた時に起きたみたいね…。今日の収穫はこれくらいかな…。)
次に愛美が向かったのは、ゲームセンター。
愛美は、店の前で作業している店長を見かけると、挨拶する。
「龍さん、こんばんわ☆」
店長は、振り返ると
「マナちゃんか。いらっしゃい。いつものか?」
振り返って返事しながら、プライズゲームに商品を詰め込む。
「うん。他にもネタあったら欲しいけど。」
「ちょっと、待っててくれ。」
「うん。中見てるね。」愛美はそう言うと店の中に入っていく。店内はそこまで広くはないが、プライズゲームとしてキャッチャーが4台とカプセルシューター。
ガンシューティング、レーシングが1台ずつ、対戦用の機体が16台。パチンコ、スロットはそれぞれ5台。音ゲーもあり、プリクラも2台とバラエティーに富んでいる。
愛美は、バッグから一枚の紙とボード、ペンを取り出すと、この店のゲームのリストを書いていく。
書き終わると、赤いファイルからクリアファイルを取り出し、一番上に入れる。
しばらくすると小さな箱を持って、店長が戻ってきた。
「いつもありがとう。マナちゃん。」
箱とファイルを交換する愛美と店長。
ファイルを確認して、愛美に微笑みながら、
「本当に参考になるよ。」
愛美はこの店と駅の反対側にある二軒のゲームセンターのリストを渡しているのだ。
この店がバラエティーに富んでいるのも、少なからず愛美が絡んでいた。
愛美は店長の確認が終わるのを待って、箱を開ける。
そこに入っているのは、プライズゲームのタグと、ガチャポンに入っているシート。
「毎回これだけ種類あると、どっかでネタ切れしないのかな…。」
ぽつりと漏らした感想に
「なかなか途切れないんだよな…。十年近くは、やってるけど…。」
と返す店長。
一通りの確認を終えると、愛美は
「他に面白そうなネタないかな?」
と店長に訪ねてみる。
「あまり人に話すことじゃないが…マナちゃんなら、いいだろう…。」
そう前置きした店長に、訝しげに話を聞く愛美。
「どんな話?」
「俺の姉なんだが…意識不明だったらしい。まあ…三時間くらいだったから、姉本人から事後報告をもらったんだ。」
「そう…。お姉さんは大丈夫なの?」
「特に命に関わる事も後遺症もないから、安心したんだが…。」
「他に何かあるの?」
「姉は三年前に、死産で子供を亡くしてるんだ。電話の最後で…その子に会えた…と言ってたんだ…。ちょっと気になってな…。」
(似たような話…カフェで聞いたけど…。)
「ありがとう。何か分かったら連絡するね。」
「そうか?あまり面白そうな話じゃなくて、ごめんな…。」
「ううん。そんなコト無いよ。聞かせてくれて、ありがとう。じゃあ、そろそろ行くね。」
「ああ、またな。」
(もうちょっと時間あるけど…病院にもどろう。)
研究所についた、光樹と法子。
ホワイトボードをお互いに書き込みながら話しあっていた。
話しの内容は、オルディアスを軸にヴァルティアリスやあかりや自分達を含め、どう作用しているのか。
ホワイトボードには図やら数式が飛び交い、ある意味で二人の世界に入ってしまっている。
二人の意見がある程度まとまった時には、待ち合わせに間に合うギリギリの時間になっていた。
(教授との討議で分かったのは、あかりちゃんが中心なのは間違いない。オルディアスと現実世界が何らかの繋がりがあること…。それと、オルディアスにわたし達の障害になる何かがあること…。)