#22 離別:終乃言葉
再び白い空間…。
「思い出したのね…。そう、わたしはもう…。」
光輝も、あかりも、頬から涙を伝ったまま拭うこともせずにひかりの言葉をかみしめ、次の言葉を待っている。
「私がいなくても大丈夫…。のっこや久美たん、周りのみんなが助けてくれるわ…。」
光輝もあかりも、黙って頷く。
引き留めることはできない事を二人は知っていたから…。
「そろそろ…行かなきゃ…。」
二人は涙を流しながら…声も出せずに、ひかりを見つめ続ける。
「さあ、二人とも前へ…あなたたちは未来へ!」
視界がぼやけたように白く眩しくなり…二人は目を瞑る。
その頃、法子は別の空間であるものを見ていた。
「これが…ヴァルティアリスの本体…。」
『そのようですね…。』
二人とも思わず呟く。
厚さは約1m強、幅は4mくらいだろうか。
そして高さが10m超えている。
どういう素材かはわからないが、上は右回りにゆっくりと…下は左回りにゆっくりとねじれているが…中心はねじれていない。
中心からは小さな板状のものが放射状に散らばっては5mくらいの範囲で消え、現れては中心に戻ってゆく。
そして、それを囲むようにしてそびえる6本の柱。
(あれ…!?なんか違う気がする…。)
『法子。もう一度本で調べてみますか?』
(ええ…。何かわかるかも…。)
法子はイリスに指示して本を具現させると、
ヴァルティアリスという言葉をイメージして集中する。
ヴァルティアリスのページを開くと、読み始める法子。
(これって…もしかして…。)
『何かが、意図的に負荷をかけるために…細工したようですね…。』
6本の柱は、ヴァルティアリスを守るのではなく、負荷をかけるためのものだった。
(壊せるかしら…。いいえ、被害が大きくなる前に壊さなきゃ!)
『今度は、それを調べるのですね?』
(ええ、サポートお願いね。)
『わかりました。』
法子は一度本を閉じると、目を閉じてさきほどの6本の柱をイメージに集中する。
再び本を開けると、今ここにある6本の柱だけではなく、形状などはわからないが…いくつもあることが確認できる。
「クァレク・ラモーブ…。」
思わず呟いたその名前と、過剰に一部のマイナスになりうる能力を加速させる、ということ…そしてこの柱の弱点は…。
「これって…。」
そこに書いてあったのは、
力のバランスを崩せば、更に負荷が発生する…という文章。
(簡単には行かないみたいね…。)
『同時破壊か、もしくはバランスを見ながら倒すようですね…。』
しばらく考えていると、ふと気づいた法子はイリスに尋ねる。
(イリスには、攻撃能力はあるの?)
『あるにはありますが…あくまで護身用なので、破壊には向いていません。』
(知識と愛…。補助に優れた能力…。)
『私だけの攻撃能力では、あの柱は破壊できそうにありません…。』
(何か方法があるはず…。イリス、具体的にどういう補助ができる?)
『まず、本による知識の補完です。次に、指輪による能力ですが…。
大きく分けると…回復、増幅、結界の3つです。』
(なるほどね…。)
説明を聞いていた法子は、ふと閃いた。
(結界はどんな効果を出せるの?)
『反射、増幅、吸収、無効化です。』
(特定の相手に結界を二重に張れる?)
『そのような事はしたことありませんが、可能かと思います。』
(やってみましょう、イリス。)
『わかりました。まずは概要を…。』
(ええ、ターゲットの中心はヴァルティアリスで単体を囲むように、反射の結界。)
『張れるのは最長で3分くらいですが、大丈夫ですか?』
(ええ、柱の耐久性にもよるけど…。)
『次は、どの様にするのですか?』
(中心は同じくヴァルティアリス、範囲は柱ごと囲うように同じく反射と、さらに増幅の結界を…。)
『結界と結界の間で、増幅と乱反射を起こして自滅させる…。ということですね…。』
(そういうこと…。出来そうかな?)
『はい。その方法以外に思いつきません。
出来るかどうか、わかりませんがやりましょう。』
(できる限り近づいた方がいい?)
『そうですね。柱から300mくらい離れたあたりがいいかと…。』
イリスは法子にかかる負荷を考慮し、そう告げる。
ヴァルティアリスとの距離を目視しながら走る法子。
(そろそろかしら…。)
足を止めると、呼吸を整えて準備する。
(始めていいわ、イリス。)
『はい。つらければ言って下さいね。』
法子は目をヴァルティアリスに向けながら、集中して結界のイメージを描く。
『指輪をかざしていて下さい。』
法子が指輪をかざすと指輪は光を放ち、ヴァルティアリスを中心に結界が広がっていく。
ヴァルティアリスを囲むように半径12m、さらに柱を囲むように半径30mの結界。
結界が広がり終え、光線が交錯するにしたがって、法子の指輪をかざした手に衝撃が走る。
(ちょっと、きついかも…。)
衝撃に耐えながら、指輪をかざしている手首を手でつかみ、支える。
反射と増幅を繰り返し、ますます衝撃は強くなっていく。
腕だけでは支えきれず、片膝をつき指輪をかざし続ける。
しばらくすると、遠目からわかるくらいに6本の柱はねじれていく。
(このままだと、消耗するだけだわ…さらに手をうたないと…。)
『法子…だいじょ…ぶで…す…か…?』
自身も力をかなり消耗し、言葉が途切れながらも気づかうイリス。
(イリス、帰りは任せるわ…!)
『法子、何を…!?』
衝撃に耐えながら立ち上がると同時に、反動をつけ両手をヴァルティアリスにかざしたまま走りだす。
(あの高さだと、結界から10mくらいが限界ね…。)
近づくたびに強くなる衝撃に耐えながら、法子は指輪をかざしながら走りつづける。
目標地点にたどり着くと、膝をついてから、腕を伸ばしたままうつぶせになる。
まるで腕をスナイパーライフルのように、ヴァルティアリスに向けながら…。
しばらくすると、ねじれが限界を超えた柱は火花を散らして、倒れこんでゆく。
(もう…すこし…。)
衝撃と伸ばし続けて麻痺しかけている苦痛に耐えながら、終わりの時を待ち続ける。イリスも力を消耗していたが、法子の覚悟と自身に対する信頼、そして法子が縮めた距離に対する軽減、その気遣いが力をより強いものにしていた。『法子とヴァルティアリスを絶対に守ってみせます…。』
六本の柱が火花を散らしながら全て崩れ落ちるのを見届けて、イリスは法子に伝える。
『もういいですよ。法子…。』
(りょ…かい…。)
イリスの声を聞いた法子は腕の力を抜き、
(イリス。あとよろしくね…。)
と伝えると、意識を手放した。
『ええ。愛しい人たちの元に送り届けます。』
イリスは意識を失った法子に伝え、憑依するため神経を法子の身体に研ぎ澄ます。
法子の身体がイリスの身体に変わると、指輪を天にかざし念じる。
『法子が愛する者たちのところへ…。』
指輪が光を放ち、身体を包み込み始めた時…ヴァルティアリスが感謝するように、優しい光を放った。
指輪からの光が収まり始め、光樹やあかりたちがいる場所に着いた瞬間を見計らってイリスは憑依を解く。
光樹やあかりたちにイリスである姿を見せないように…。
久美が真っ先に法子に駆け寄る。
「法子!」
呼吸などを確認し、気を失っただけだと確認した久美は胸をなで下ろし、
「大丈夫、気を失ってるだけだわ。」
とみんなに伝える。
「ん…。」
法子が目を覚ますと、みんなが覗き込んでいる。
心配させたのを感じつつ、
「もう大丈夫。ごめんね、みんな…。」
次に声をかけたのは、光樹。
「法子くん、無事でよかった…。」
法子は彼のほうを向き、返事をかえす。
「教授…。」
紗夜は、
「全員揃ったことですから、一度戻りませんか…?」
と提案し、
「そうだな。あたしもそう思う。」
と陽も同意する。
「あかりちゃん、準備はいい?」
愛美が自身の同意とみんなの同意を促すように、あかりに尋ねる。
あかりは頷くと、
「私もサポートするから、一旦帰りましょう。」
と、あかりの手と自分の手を重ねる。
それを合図に次々と全員が手を重ね、目を閉じる。
しばらくして目を開くと、現実の病院へ戻った。