#01 捜索:現状把握
(そうか…私は、あの実験の事故でここに…帰る方法を探さなければ…)
不安は拭えなかったものの、ここに来た経緯が分かっただけでも心の支えになった。
状況は未だ分かっていないし、帰るための糸口は何の手掛かりもないのだが…。
辺りをもう一度よく見渡す…。
「あ…あれは…!?」
先ほどは見えなかった光が見える。何かあるのだろう。
(さっきは見えなかったが…私が困惑して見えなかっただけなのか…)
この先何が起こるとも限らない。慎重にならなければ…。
彼は、ゆっくりと周囲を確認しながら、光が見える方向へ進んで行く。
段々と、近付くうちに形のシルエットが鮮明になっていく。
「な…なんて事だ…」
形がはっきりした時、彼は叫んでいた。
なぜなら…目の前に現われたのが、あの実験で見た奇妙な物体と極めて酷似していた。
たった二つを除いて。
一つは大きさ。巨大なんて比ではない…まだ100m以上離れているのに、ガラスケースの中にあったものより大きく見えるのだから…。
本体だけで、50mはあるのだろう。
二つ目は、電機機器的な台の上の三脚に乗っかっている事。
さらに近付いていくと、三脚は台と同化していて、ケーブルが本体と繋がっている。
(ということは…)
彼は、本体とは逆の方向に繋がっているケーブルを目で追っていく。
そこには、何らかの大きな装置が見える。
(あの物体の事が、何かわかるかも知れない…。)
彼は向きを変え、装置のある方へ進んで行く。
場所に着くと、それは装置ではなく施設のようだ。
施設らしき壁を見上げながら、周囲を確認する。
あの球体側の壁の上の方には、ちょうどカメラの望遠レンズのようなものが付いている。あの球体と関係があると見て間違いなさそうだ。
反対側には、ドアらしきものがある。
一旦、躊躇したもののそのドアらしき場所から施設の中へ入ろうと試みる。
ピピッ…ピッ
サーッ…
前に立った瞬間、電子音の後にゆっくりと前が開けてゆく。
中に入ってしばらくすると、またあの電子音。
ピピッ…ピッ
サーッ…ガタン
ドアは閉まるのと同時に、見渡すにはちょうどいい光が目に入ってくる。
しかし、いくら探してもあるはずのものがない。
(どうなってるんだ…!?照明らしきものが一つもない。光はあるのに関わらず…。)
研究者として気になるのだが、先ずは元の世界に帰る事を考えなければ…。唯一の手掛りはあの球体だけだ。先ずはあの球体が何なのか調べないと…。
施設を調べるうちに、ある疑問が頭をよぎる。この施設の装置を全て調べた時に、確信に変わる。
(なぜ…私が知っている装置だけなんだ…!?)
そう。中のプログラムは知らないものなのだが、装置そのものは全て扱ったことがあるのだ。
(まるで…私が使うのを知っているのか…!?)
誰かの意図…もしかしたら、この世界の意図が働いているのかも知れない。
それでも、あの球体を調べるにはこの施設を使わなくてはならない。
いろいろと装置を調べるうちに、自分の事で一杯になっていて忘れていた事に気付く。
(志田君はどうしたんだ…?)
その頃、彼女はいなくなった彼を探していた。
あの実験室の中で…。
目を覚ました彼女は、全ての装置の電源が消えていてガラスケースの中には何もない事を確認して、彼を探していた。
(どこにもいない…。教授はどこに行ったんだろう?)
この部屋には誰もいないとわかると、部屋を後にした。
(冷静にならなきゃ…)
まだ状況を何も把握してない。
(まず、教授がどこにいるのか絞らないと…。)
彼女は従業員専用の出入口に向かった。IDカードのアクセスログで教授がこの施設内にいるかが断定できると思ったから…。
IDカードを、出入口のチェック用スキャナとは別の、
ログ閲覧用スロットに差し込む。
この施設では、自分を担当している教授や、これから担当したり共同作業する、助教授や助手の出入がわかるようになっている。
ピッ…ピピッ…
IDカードのスキャンが終わると、いくつかの名前が出力される。
(相田…有坂…あ、あった!)
有坂教授の名前は、入場を示す緑色で描かれている。
(やっぱり外出はしてないなぁ…。)
まだ彼女は、あの実験事故で彼が異世界に飛ばされたとは思っていなかった…。