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#14 熱情:想愛奇跡

法子はまだ、考えを巡らせていた。

そんな法子に、愛美は近づき声をかける。

「法子さん。ちょっといいかな…?」

法子は、愛美の声に思考を遮られ、返事をする。

「あっ…愛美さん…なにかな?」

愛美は、久美に指示されたことを、どう言おうか迷いながら、口に出していく。

「うん。えっと…気付いちゃったんだけど…。」

愛美の言葉に、訝しげに答える。

「えっ…気付いたって何を…?」

「あかりちゃんのお父さんのコト…好きなんでしょ?」

なるべく軽く、だけどストレートに問いかける愛美。

「愛美ちゃん…。どうして…?」

突然の問い掛けに、端的な言葉を口にするのがやっとの状態の法子。

「だって…法子さん、必ず…あかりちゃんたちを呼ぶときに、『教授』って先に言うから…。」

「それだけじゃ、わからないでしょ?」

「それだけじゃないわ…。」

遠くから返答が帰ってきて、驚いた二人は、声のした方を振り向く。

「マスター!」

「くみたん!?」

二人がほぼ同時に久美の名前を口にする。

二人が自分の登場に驚いているのを気にも留めず、

「のっこは、わざと『教授』って呼んでるのよ…。声でわかるわ。付き合い長いし…。」

「わざと…!?」

何故、わざとなのか、わからない愛美。

法子は、明らかに困惑の表情を浮かべている。

「のっこ…。ずっと好きだったのよね。光樹さんのコト…。」

「もしかして…。名前を呼ぶと、気持ちを押さえ切れなくのが、怖くて…。」

愛美は思いついた答えを口に出す。

「…。」

法子は無言のまま、俯いている。そんな法子に、久美は追い討ちをかけるような言葉を口にする。

「のっこが、光樹さんに気持ちを伝えてたら…。」

「マ…マスター…!?」

さすがに、これ以上はかわいそうだと感じ愛美は止めに入る。でも、その行動は逆に、法子にとってはプレッシャーとなってのしかかる。

「…わ……わたしが…。」

泣き崩れそうな、法子。

そんな法子に久美は

「そうね…。こんな形には、ならなかったかもしれないわね…。」

口では、そう言いながら愛美に対しては、二人にしかわからないような細かいサインを送る。


(大丈夫だから見ていて…って、マスターは何を考えてるのかな…?)

声を押し殺して泣いている法子を見て、大丈夫だとは、とても思えない愛美。静寂の中、法子の押し殺して泣く声だけが周りに響く。


しばらくして、久美が口を開いた。

「のっこ、いい?よく聞いてね…。」

法子は、ゆっくりと頭を上げ、久美を見上げる。それを確認した久美は話を続ける。

「あなたのカードはハイプリーステス。『知識』の力があるのはわかってるわね?」

声には出さず、法子はゆっくりと大きく頷く。


「でも、ここは想うコト…つまり、気持ちや想像が力になるの。」

法子は軽く相づちを打つ。

「のっこの、光樹さんへの想いを…そのまま内にしまっていたら、救えないわ。あかりちゃんたちは…。」


「…教授のこと……でも……。」

法子は亡くなった、ひかりのことを考えると、どうしても引け目を感じずにはいられない。

久美も、法子が引け目を感じているのは解っている。

(今、見てもらうべきね…。持ってると思うけど…。)

「そうよね…。ひかりんに悪いって思ってるよね…?」

「だって……あかりちゃんもいるから…。」

やっと言葉を発した法子。

「ひかりんからの御守りは持ってる?」

「うん…。いつも持ち歩いてるから…。」

久美はその言葉を聞き、安心して話を続ける。

「のっこ、御守りを開けて袋を裏返してみて…。」

「え…?何かあるの…!?」

普通、御守りを開けることはほとんどない上に、裏返すことに違和感を覚えた法子。

久美は素直に理由を告げる。もちろん久美自体、細かい内容はわからない。

「時がきたら伝えて…ってひかりんが言ってたの。のっこへの最後のメッセージ、受け取ってあげて。」

「うん。わかった…。」

と、バッグから御守りを取り出す法子。

御守りの袋を開けて、裏返してみると、何かが入っているように縫い付けてある。

縫い付けている糸は、最初からほどくことが解っているかのような、ピッチの広い波縫い。

(こんな細工までして…ひかりんは何を伝えたかったの…。)

縫い付けてあった布の裏に紙が折りたたんで入っているのを確認して、その紙を開く。



紙には、こう書いてあった。



のっこへ


直接言えなくて、ごめんね…。


でも、どうしても…のっこに伝えたいコトがあったから。


たぶん、これを読んでる時にはわたしはもういないかな…。


もし、のっこが…

まだ光樹さんを好きだったら、光樹さんと一緒になってほしい。


あかりのコトも、のっこなら任せられると思うから…。

光樹さん、真面目だし…わたしのコトを気にして…ずっと独りじゃ可哀想だし…。


わたしは、光樹さんといて幸せだったから…次はのっこに、わたしの分まで幸せになってほしいの…。



(ひかりん…)

法子の瞳から、涙が滲んでゆく。


それを見ていた久美は、

(ひかりんのメッセージ、のっこに伝わったみたいね…。)

法子が読み終わったのを確認し、次の行動を模索する。

(マナもいることだし…何とかなるわね。)

久美はそう確信すると、愛美にサインを送る。


そのサインを確認し、法子に近づく愛美。

(また、発破かけるのね。さすがマスター。駒の使い方はうまいわ…。わたしも駒になりきろっ☆)

もともとノリで行動するのが嫌いじゃない愛美。

それを熟知している久美だからこそ、愛美は素直に指示に従えることができるらしい。

「法子さん、あかりちゃんたちのところへもどろう!」

「ええ、考えてるだけじゃ始まらないわね。戻って色々やってみましょう。」あかりと光樹の閉じこめられた石盤へと急いで戻る三人。


石盤の前に戻ると、すでに陽と紗夜は声をかけたり、光を当てたりと…色々試しているようだ。



「法子さん、助け出す方法は見つかりましたか…?」

紗夜が戻って来た法子に尋ねる。

「いいえ…。紗夜さんたちがやった反応は…?」

「全く反応なしです…。砕けてしまわないように、衝撃を与えることができないので…だいぶ方法が限られてるのですが…。」

「法子さんたちは、何か思いつきましたか?」

全員が考えていると、法子の隣にいた愛美が二人だけが聞こえるような小さな声で

「法子さん、光樹さんへの強い想いをぶつけてみたら?」

と耳打ちする。


一瞬、驚いた法子だが、策がないこの状況でなりふり構ってはいられないと決心し、みんなに伝える。


「みんなは一斉にあかりちゃんを呼んでほしいの。わたしは教授を呼ぶから。」

(みんなには、一斉にあかりちゃんをよんでもらって…あまり反応なければ、私が光樹さんに…。)

みんながそれぞれに頷くと、

「タイミングあわせるのに、私がカウントするわね。」

と久美。





「3!」

カウントを始めた久美。

「2!」

まわりに緊張が走る。

「1!」

みんなが、声を揃えて出すために、息を整えていく。

「あかりちゃん!」

ほんの一瞬だけ、輪郭が見えたものの、すぐに薄くなってゆく。


(少しだけ…。のっこに賭けるしかないわね…。)

久美はそう思い、法子に声をかける。

「頼んだわよ。」

法子は、一回だけ力強く頷くと、胸に手を当てて息を整える。

そして、

「光樹さん!」

と、力と想いを強く乗せて叫ぶ。


あかりを呼んだ時と同様に、一瞬だけ輪郭が浮かび上がる。

(同じ反応…。それなら…。)

もう一度、息を整える。

自分に言い聞かせるように頷くと、

「光樹さん!ずっと好きだった!!」

と、今まで口に出せなかった想いを乗せて叫ぶ。


しかし、法子の想いを込めた言葉さえも、石盤は同じ反応しか示さなかった…。

みんなが絶望しかけた時、法子は頭に直接聞こえてくる声に耳を傾ける。

『法子さん、ありがとう…。私、思い出しましたわ!愛する力を…。』

(イリス…。)

イリスの皇帝に対する気持ちが伝わり、法子はイリスに同調する。

『さあ、受け取って…。』

その声を聞くと、光が左手の薬指に集まる。

光が収まると、その指には指輪がはまっいた。

『さあ…愛する人のもとへ、行きましょう!』

(ええ…。)

頷き、石盤に指輪をした左手を握り、かざす。

指輪が光を帯びてゆき、石盤へと光が放たれる。

指輪から放出された光は、石盤へと注がれ少しずつ光を帯びてゆく。

『さあ、行きますよ。』

(ええ…。でもその前に…。)

法子は後ろを振り返り、

「ありがとう…。久美たん。」

と、久美に言った後、

「みんな、絶対に二人とも連れ戻すから!」

とみんなに伝える。

みんなそれぞれに頷くと、法子は前を向き、石盤の中へ吸い込まれるように入っていった。


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