#13 絶望:消失予兆
石盤の群れの中に、炎をまといながら突っ込んで行く陽の剣。
その炎に触れた石盤は砂のように散っていく。
愛美は、持っている杖の液晶に"炎柱昇壁"と文字が浮かぶと、
「イクト・カンバージス!」
と唱える。
液晶の文字が変わり、"Orte Frpoew"と表示されている。
『"Orte"はオルトって読んでね。入れ替えるって意味だから。』
(うん。)
ステアの説明を聞き、
「オルト・フルポエル!」
と唱えると、一つ一つの氷の槍が、炎を巻きながらドリルのように回転を始め、炎の柱に変わってゆく。
炎柱の壁に当たった石盤たちは、剣の炎に当たった時のように、砂のように散っていく。
同時に、紗夜の魔法陣にも炎の矢、久美の氷の網にも注射器が、それぞれあたり炎に包まれていく。
無数に近い石盤も徐々に数が減っていき、10分ほどで跡形もなくなっていた。
法子は安堵しながらも、
「やったわね…。みんなありがとう♪さあ、二人の入っている壁を見てみましょう…。」
と一抹の不安を抱えて、指示する。
急いで大きな石盤に駆け寄る法子たち。
「だいぶ…薄くなってるよ!リーダー…。」
動揺を抑えきれずに、言葉にする愛美。
「早く…なんとかしないとですね…。」
表情を曇らせながらも、なんとか冷静さを保つ紗夜。
「法子さん!他に方法はないのか!?」
ストレートになんとか救い出したい想いをぶつける陽。
「のっこ、他に手は見つからないの…?」
状況を把握しつつ、法子に確認する久美。
「ごめん…。いろいろ考えてるけど…見つからないわ…。でも、早くしないと…教授とあかりちゃんが…。」
焦りと不安を抱えながら、必死に打開策を見つけようとする法子。
久美は法子の言葉を聞いて、ある考えが頭をよぎる。
(そういえば、のっこ…あかりちゃんより、前に教授って…。もしかして、まだ…。)
昔の記憶…。
知り合ってしばらくしてからの4人が頭をかすめる…。
大学院生だった光樹と、ひかり、法子、久美。
法子とひかりは、光樹に対して、好意を…友達としてでなく、男女としての感情を抱いていた。
一時は三角関係でのトラブルでひかりと法子は仲違いしたものの…光樹はひかりを選び、婚約をかわす。
法子は、
「絶対に幸せにならなかったら、許さないからね…。」
と、泣きながら、ひかりに言っていた…。
(ひかりん、あかりちゃんを守っていてね…。)
懐かしさと、あかりちゃんを思う気持ちが混ざり合い、あかりの母親であり、親友であるひかりに思い出がつながる。
久美は、スカートの左のポケットから、御守りを取り出す。御守りを手にして、思い出にかえると、ひかりが、死ぬ直前に言っていた言葉を思い出す。
「久美たん…。もし、のっこが…私のことを思って、光樹さんを……まだ思っているのに、戸惑っていたら…。」
「ひかりん。それって…。」
「のっこに…御守りの袋をひっくり返して……って伝えて…。」
「わかった…。」
「私がのっこにしてあげられるの、もう…これしかないから…。」
(のっこが光樹さんをまだ愛していたら…ってコトだよね…。…!?、もしや…。)
久美が何かに気づき、思考が急に現実に引き戻される。
(ハイプリーステス…愛してる……エンペラー…。
多分、間違ってない!)
辺りを見渡し、愛美を見つけると…目でこっちに来るようにサインを送る。
(あ、マスターが呼んでる!)
久美のアイコンタクトに気づき、久美に駆け寄る愛美。
久美は愛美が側に来たのを確認すると、小声で話はじめる。
「ちょっと賭けになるかもだけど…。」
「うん。どんな?」
「のっこがハイプリーステスで…あかりちゃんのお父さんがエンペラーだとすると…。」
久美のヒントに愛美は少し考える間をおいて、答える。
「もしかして…エンプレスのカードも、リーダーが…ってコト?」
久美は、愛美の予想通りの答えに頷くと、
「のっこね…。二人が閉じ込められてから、あかりちゃんじゃなくて、最初に教授って言うの…。」愛美は久美の言いたい事が何なのか、考えながら答えていく。
「法子さんが…あかりちゃんのお父さんを好きってコト?」
「うん。もしかしたら…ひかりん、つまりあかりちゃんのお母さんが結婚する前からずっとね…。」
「結婚する前からって…?」
「一時、三角関係だったの。のっこと、あかりちゃんのお父さん、お母さんは…。」なんとなく、事情が飲めてきた愛美。
「わたしが…リーダーにハッパかけると…?」
「さすが、マナね。話が早いわ。」
「マスターのオーダーは、断れないからね…。」
と言って、愛美は法子のほうへ向かった。