#10 能力:札力開放
それぞれの彼女たちの利き手に光が集まり、形を作っていく…。
光がおさまると…
陽には太陽を象った剣、
紗夜には月を象った弓、
愛美には星を象った杖、
久美には取っ手の付いた瓶、
法子には本が握られていた。
「剣じゃ…この状況では使いづらいな…。」
陽は小さくつぶやくと、頭から響くように強気そうな女性の声が聞こえる。
『あんたがルーラーか?でも、あたしとなら大丈夫さ。』
(大丈夫って…触れたらダメなのに?投げられるとしても…)
『あたしの言った通りやれば、何度でもできるのさ!』
(え…!?何度でも?)
『チョイとコツがあるけど…あんたなら出来るさ。』
(わかった…。信じるよ!それで、どうすれば…?)
『基本は投げて、腕はそのまま。
ポイントに着いたら握る。
後はあんたの思い通りに振り切る。剣が手にあるように意識してな…。
戻したい時は、手を伸ばして引き寄せる。
モノは試し、やってみな。』
陽は言われた通り、剣を石板と逆に投げる。
手を伸ばしたまま100mくらいのところで、握ると剣は床に対し垂直に宙に浮いたまま止まる。
(次は思い通りに…。)
陽は左足を踏み出し、握った手を斜めに振りおろし、右足を引くと同時に横に払う。
100m先では、剣は斜め…横と弧を描いていた。
手をのばすと、吸い込まれるように陽の右手に戻っていく。
『さすが、あたしのルーラー!初めてにしちゃ、上出来だ。さらに袈裟からの横払い。なかなかだったよ。あたしはサニア、よろしくな。』
(ありがとう…。あたしは陽、よろしくお願いします。)
パチパチ…。
「さすが、陽ちゃん!なんかマジックみたい!!」
拍手しながら、興奮気味な愛美。
「自分でも、そう思うよ。でも、これなら十分にやれそう。」
『次はあなたの番よ…。杖をかざして、思い浮かべるの。』
愛美にそういった声が聞こえた。
「思い浮かべるって…何を?」
『言葉と、そのイメージを…。』
(やっぱり最初は火の魔法だよね…。あとは言葉…あっ、そうだ☆)
愛美は、火のイメージを想像しながら漢字を思い浮かべる…。
すると、杖の、手で持っている少し上に液晶らしきものがある。そのディスプレイには漢字で"火球投撃"と映っている。
『気づいたわね。あなたの想像した文字が映っていたでしょう?』
(うん…。次はどうするの?)
『杖を掲げて、"カンバージュ"と唱えたら…ディスプレイを見てみて。』
愛美は杖を掲げて、
「カンバージュ!」
と唱える。
その後、ディスプレイを見ると、そこには漢字ではなく、"Flotha"とアルファベットが映っている。
『これが、あなたの作った最初の魔法…。唱えて、ちゃんとイメージできていれば、発動できるわ。』
(うん…。やってみる…。)
最初という緊張感と初めてという不安を抱えながら、先ほどのイメージを頭の中で形にしていく。
(あの文字で、火の魔法だから…。)
考えがまとまると、愛美は杖を掲げて、空に小さな円を描き、
「フラーサ!」
と唱えつつ、肩の高さまで振り落とす。
すると、杖の先から火の球が放たれ、100mくらい先で消えた。
『あなたのこと、ルーラーと認めるわ。私はステア。』
(わたしは愛美。マナって呼んで☆)
『これから、しっかりサポートするから。』
(うん。頼りにしてるからね☆)
愛美とステアの会話が終わると、紗夜に声が聞こえた。
『次はあなたですよ?』
(…私は深山 紗夜です。あなたのお名前は?)
『私はルーナ・ルミナ。星の御守-みもり-のひとりで"月"の力を司る者。』
紗夜は自分が"月"のルーラーということと、声の主であるルーナが同じ"月"を司ると言ったことで、納得し答える。
(わかりました。それで、どうしたらいいのでしょう?)
『イメージするのです…。あなたなら、わかるはず…。』
(イメージ…。弦のない弓…。そういうことですよね…?)
そうルーナに問いかけて、紗夜は持っている弓に弦が付いていて、専用の矢を持っているところをイメージする。
『その通りよ…。構えて、イメージして…。』
(わかりました。)
弓を引くようにイメージして、目標を定める。
イメージが固まると、急に力が加わる。今までなかった弦と矢が、具現化されていることを確認し、力を抜いて矢を放つ。
矢は、地面に落ちるとバチバチと音を立て電気をまとい、消えていった。(思った通りね…。)
『紗夜さんのチカラ、拝見させて頂きました。共に参りましょう。』
(こちらこそ、よろしくお願いします。)
『次はあなたよ。』
今度は久美に声が聞こえる。
(なるほど…みんな、この状態にあった訳ね…。)
今までの三人を見ていて、指示されていることに気づいた久美は、声が聞こえた時に納得し、次の指示を煽る。
(ええ。どうするのかしら?)
『わたしはエリス。あなたが久美さんですね?』
(ええ。)
『では始めましょう。もう気づいてると思うけど…私たちの力は"相位具現"。つまり…』
(私達の世界の物を、この世界に具現化できるってことね。)
『そう…。だから、目覚めさせてもらった時に、この世界に導びかれたの。』
(だから、あかりちゃんがいなくても行き来できるのね。)
『ご名答。私達のやること、なんとなくわかったわね?』
(テンパラスの両手の瓶は、顕在と潜在を入れ換える…ということは…そういうことね。)
久美は、まず二つの瓶に、今いる場所と病院をそれぞれ思い浮かべる。
そして、注射器を病院の瓶から、この世界の瓶に移すようにイメージする。
(具現化ってことは、応用できるかも…。)
久美は注射器を装着する銃をイメージしていく。
イメージが固まると、片側が急に軽くなる。
『この感覚が、具現化の証。覚えておいてね。』
(了解。)
目を開けると、両手に瓶は無く、右手には注射器の装填された銃。左手には注射器のホルダーが握られていた。久美は手首をくねられて、一つ一つ確かめるように目視する。
(外見は大丈夫ね。中身はやっぱり使うしかないわね…。)
『多分、できてるわ。失敗しても暴走したりはしないから…。』
久美は少し緊張がほどけて、一息つくと尋ねる。
(失敗すると、どうなるの…?)
『具現化したものが消失するだけよ。いざという時に使えなかったり、精神力使うから…あまり失敗してほしくないけどね…。』
改めて集中し、成功した状態をイメージしながら、引き金を引く。
シュ…。
勢いよく放たれた注射器。
(ここまではOK。問題はここから…。3、2、1、バースト!)
久美のカウントと同時に、注射器が砕け炎の柱があがる。
『初めてで…オブジェクトの想像具現だけでなく、エフェクトまでかけるなんて…流石ね、久美。』
(エリスの力とサポートがあったからよ…。)
『久美。あなたとなら、上手くやれるわ。』
(私もそう思うわ。エリス。)
『あなたが最後ね…。』
(あなただったんですね?教えてくれていたのは…。)
『そうよ、法子さんでしたね…。我はイリス。知識を司る者。』
(イリスさん。この本はどう使えばいいのですか?)
知識だけであるならば、物質となる本は必要ない。法子はそう考えていた。もちろん、ここは想像世界。具現化されただけ、という可能性もある。
『開けば分かるわ。あなたなら…。』
(そうですか。わかりました。)
法子には、自分が試されていることを薄々だが気付いていた。
知識はあればあるほど、言動の選択肢が増えていく…。とするならば、それをどう使いこなすかが要になってくる。
どんなものも、使い方次第で、良くも悪くもなる。
法子は一つ頷いた後、本を開いた。
(なに、この本…。)
開いたページには、ほとんど何も書かれていない…。
書かれているところでさえ、薄れている。
薄れている場所を黙読する。(本…使い方……知識……。もしかして…!?)
法子は、一度本を閉じると、頭の中でイメージを組み立てていく。
(まずは、インデックスと…私の考えが正しければ、ツリー型でも可能なはず…。)
イメージを固め、再び本を開くと、"使い方"と大きく見出しがあり、下に箇条書きで項目が書かれている。
(やっぱり…そうなのね。)
『そう。この世界では、想い-想像力が力になります。。知識をコントロールできる想像力…。あなたとなら、力を良き方向へ使えるでしょう。』
(ええ。今後ともよろしくお願いします。イリスさん。)
久美は気付いた。
何事にも適した用途や方法はある。でも、それだけに固執してしまうと応用は出来ない…。
固定概念を破る想像力-
想像力が凄い影響力をもつこの世界では、最大の武器になることに…。