入学式-5
桜良が来ない。いや、来るのは分かってるけれど心配にはなる。
私達はすでに教室からは出て入学式の為に体育館近くの廊下まで来ていて、すぐにでも入学式が始まってしまいそうだ。
教室では桜良がまだ来て居ないのをなんとか言い訳してごまかしていたが、式までに間に合わないと意味がない。
ちなみに桜良は体調不良で遅れている事になっている。そう言った時、空閑君が反応して、目で大丈夫なのか?と訴えて来たが、本当の事は言えないので頷くだけにしておいた。
桜良……私、今良心が痛いよ……
あなたのせいで。
まだかまだかとキョロキョロ辺りを見ていたら可愛らしい先生に「どうしたの?」と話し掛けられてしまった。
挙動不審に見えたのかな……
「なんでもないです……」
「そう?緊張しているのかしら?」
「はい……」
とりあえずそのまま話にのっかっておこう。
「クラスの1番最初ですもんね、緊張するのも当然ね」
にこり、と先生が優しく笑う。
「そんな時には深呼吸!10秒吸って10分息を止めて、息を吐けば良いわよ?」
10分息を止めるって……出来ませんけど?そう言いたいがにこにこしてる先生に何も言えず笑顔を返すしか出来ない。
これは緊張をほぐす為に言った冗談なのか、それとも天然なのか……
「あら、ここはつっこんでくれないと。息止めるの10分って死んでまうやん!!って」
どうやら前者だった様だ。
「先生は関西出身の方でしたか」
「ううん、東京出身よ」
「なんで関西弁なんですか?」
「え?漫才ってみんな関西弁じゃないの?」
あ、これ面倒なタイプだ。天然も入ってた。
それから漫才にも色々あってちゃんと関西以外の人達もやってますよ、と何故か先生と漫才談議をしていたらやっと桜良が来て慌てて列に入るのが見えた。
「もう大丈夫みたいね」
「え?」
「緊張、ほぐれたかしら?」
「あ……」
確かに、多少私も入学式の前だったので緊張していたがずいぶん楽になった気がする。
「はい。先生、ありがとうございます」
「いいえ〜」
ひらひらと私に手を振りながら先生は他の列を見に行った。なんだか不思議な感じだ。ゲームにあの先生は出てこないのでやっぱりこの世界で生きてるんだな、と実感する。
担任の可能性は薄いと思うけど、あの先生の授業があれば良いなと思った。
担任は攻略キャラクターだしね、そこはさすが乙女ゲームの世界。
でもこの世界だと担任の先生犯罪者になっちゃうんじゃないだろうか?それはどうなの?と考えていたら1組の列が動きだした。
いよいよ始まるのか入学式。私は急いでついていく。さっき先生に緊張をほぐしてもらったおかげか緊張して変な歩き方はしなくてすんだ。
乙女ゲームの主人公である桜良、次回から投入されます。