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これもひとつの友情の形-1

先生達に相談をしてから私はアドバイス通り少し時間を置いて彼に話し掛けるタイミングをみていた。


というか相談した後はテスト期間だったので勉強の方に力を入れてることで雪村君に気を取られず、逆に丁度良かったのかもしれない。涼ちゃんや桜良にはきちんと話をして雪村君と仲直りをしてもらった。その場に私はいなかったけどちゃんと誤解が解けたみたいで一応めでたし、なのだろう。そう思いたい。


そして今日、テスト最終日である。避けられ続けて早数日、やっとこの日がやってきた。

ずっと狙っていたのだ、彼と話すならこの日しかないと。


午前中でテストが全て終わり、帰りのHRも終わった。がやがやとそこらかしこで疲労の声を上げているクラスメイトをよそに若干重い鞄を持ち、私は急いで雪村君の元へと歩き出す。

彼も油断していたのかあっさりと捕まえる事が出来た。


彼の腕を掴んでにっこりと笑う私とは反対に驚愕の色を隠さない彼にさらに笑みが深まった。


「こんにちは雪村君、ちょっと付き合って?」


今までは彼に同意を求めていたが今回は違う。問答無用で連れて行こうとすると雪村君は私の手を思いっきり引き離す。


―――かかった!


私は無理矢理手を引かれた拍子で体制を崩し、思い切り床へダイブしてしまう。びたーんっと音を立て、おまけに「きゃあ」っとわざとらしく声を上げれば今までくつろいでいたクラスメイト達の視線はこちらへと自然と向いた。


「っ!?」


教室から出ようとしたのか彼は鞄を片手に扉へ向かおうとしていたが私の声に振り向いたのが運の尽き。彼はこちらを見ながら固まり、皆の視線は雪村君にも注がれている。


今のうちに仕掛けてしまおう。


「あ、ごめんね雪村君……少し足を捻ったかもしれない…立たせてもらえる、かな?」


出来るだけ弱弱しく、申し訳ない気持ちの声を出す。あまり演技は得意じゃないが実際体はこけた勢いでものすごく痛かったので弱っては見えたはずだ。

これで逃げ道はないだろう。普段優等生の猫を被っている彼がこの状況で私を置き去りにするはずないし、しかも名前まで呼ばれてしまえば彼に逃げ道はもう残されてはいない。

それでもある意味賭けだった。もし置いて行かれたらどうしようかと思ったが彼は予想通り動いてくれる。


「だ、大丈夫?」


相当無理しているのかいつもの完璧過ぎる笑顔は若干崩れながらも私に手を出してくれる。私はその手をぎゅっと力強く握った。


「ありがとう…」


雪村君に助け起こされた後、床の埃で汚くなった私を見て心配してくれたのか前に遠足の時に班で一緒になった子達が心配して声を掛けてくれてくれた。ああ、なんて好都合。


「大丈夫?秋野さん」

「うん、大丈夫。でも足を捻ったみたいだから保健室へ雪村君に連れていってもらう事にするよ」

「え?」

「ダメ…かな…?」


しょぼんと眉を八の字にして雪村君を見上げる。


「それは…」

「あ、ダメだったら良いんだ……雪村君も忙しいだろうし、テストで疲れてるよね?ごめんなさい…」


しゅん、っと落ち込んだフリをして自分でも引くくらいのわざとらしいウザい演技でどんどん彼を追い詰める。これは全て沙原先生が実行したことらしいから女の人って凄い。

流石に周りの目もあり、心象が悪くなるような事は避けたいのか彼は小さくため息をつくと私を一旦座らせ、膝と脇の下に手を入れるとそのまま横抱きにした。


「わ、え?ちょっ!」


いわゆるお姫様抱っこをされていまい、内心焦る。

ここまでしろとは望んでない!!

周りにいた子達が私達を見てきゃあきゃあと盛り上がっている。


何してくれるんだこのヤンデレ野郎。


「このまま運ぶよ、歩くの辛いんだよね?」

「え…っと、うん、よろしくお願いします」


でも今更邪険に出来ないのでそのまま運んでもらう事にした。


「鞄持ってて」

「あ、うん」


私は2人分の鞄を受け取るときちんと持ち直し傾かない様にする。

教室を出た瞬間、教室内はさらに盛り上がりが高まっていた。だけどこの際もう全部無視だ。作戦が成功できれば良い。


そう諦めながら私は彼に大人しく運ばれる事にした。廊下に出ても激しく周りの目が痛いのも無視だ無視。


あちらこちらから投げかけられる好奇の目を横目に雪村君は颯爽と私を運びながら下の階へつながる階段を下がろうとしたので慌て声を掛ける。


「あ、ちょっと待って雪村君、もう少し先の階段を使ってもらえるかな」

「え?」

「そっちの方が早く着くから、保健室」


少し間を置いた後「分かった」と言い、そのまま黙って歩き出す。

私は羞恥心を犠牲にして彼を”そこ”へ誘導した。


やばい、やっぱり超恥ずかしい…。顔は終始真顔だが内心早く着いてくれと焦っていた。


「ああ、そこ!そこの部屋入って」


私は明らかに保健室ではない扉を指差す。

ああ、きっと彼はもう気付いたのだろう、今度は返事も何もせずその指示に従う。


そして案内した場所は保健室でも何でもない、ただの空き教室だった。


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