大人たちへ相談‐2
「特にない?」
真堂先生が怪訝な顔をする。
こんな理由じゃ誰だってそういう顔をするだろう。
「はい、その人は友人に頼まれて仲良くしてほしいと言われたので…」
だから仲良くならないといけなかった、桜良の頼みだから。うん、これは間違ってはいない。
「そうか、それは……」
真堂先生は難しい顔したが横から沙原先生が割り込んできた。
「それって普通の事なんじゃないのかしら?だってよく友達の友達は友達ってドラマなんかでも言ってるし」
「しかし友人は迫って無理矢理つくるものじゃないし秋野は今避けられ始めている。相手は秋野とは関わるのを拒んでいるわけだ、やりすぎたのかもしれないな」
「ちょっと、そんな言い方」
「良いんです、私もそう思いました」
こんな事で言い争いをしてほしくなくて、こちらに非があるように仕向ける。実際そうなのだから何も言えない。
それに特に理由もなく、桜良に言われただけで動いている私に雪村君が一緒にいたいと思うはずないのだから。
私は知っている。ゲームの彼を。だから分っていたのにな…彼の性格、そして本性を。
前にも思い出していた事だがゲームに出てきた彼は腹黒くいつも猫を被っている。そして誰も信用出来ないという孤独キャラだった。
さらに彼を厄介な存在にしたのは相手の感情を多少なりと読める所だ。だから彼は相手が上辺だけで接してるかどうか分かるらしく、そういう相手には興味を持たない。
というか感情を読める?何その能力、なんでお前だけそんな特殊能力持ってるんだと言ってやりたい!お前だけ色々ベクトル違い過ぎてびっくりだよ。
そのことを踏まえた上で私は少し後悔している。ここまでの数日、上辺だけで接していたのバレバレだったんじゃないだろうかと…。だから避けられるようになったのだろう、多分
ゲームでは猫かぶりでも一緒に行動してたんだけれどここまで避けられるなんてやっぱり接触し過ぎたのがいけなかったのだろうな。後悔先に絶たずとはこの事だ…
「そう思ったという事はもう友人になるのは諦めるのか?」
真堂先生がこちらを真剣に見つめている。
「それは…」
私は言い淀んだ。だってもう目的は達成されたから。
私が思い描いていた雪村柊哉のバットエンドへ向かわせないための一番の方法はもう涼ちゃんによって終わっていたのだから。でもそれだとどうして急に友達にならなくても良くなったのかと聞かれたら困る…
さて、ここで唐突だが少し雪村君ルートのお話をしようか。
彼がヤンデレになるきっかけは私達の仲が良いからだった。初めの内桜良に恋心は抱いておらず、普通に過ごしていたのだ。この学校に来るまで桜良と会う時は2人きりだった為、当然桜良の関心は彼だけに向くし、誰よりも自分が桜良に近く、桜良も自分に一番近い存在だと思っていたから。
しかしこちらに来てから桜良は当然私達と仲良くするし、それを見て自分に向けられない関心に彼は不満を感じ、嫉妬するようになる。その時に自分は桜良の事が好きなんだと自覚した。
友情という感情を知らず(友達いないし)受け入れられない彼は何とか自分に興味を向かせようとしてある方法をとる。その方法が告白だ。
一応保留にされるのだが、一度関心を自分に向ける事に成功した彼はアピールの仕方がどんどんエスカレートするようになっていった。けれど最終的に本当は寂しがりで純粋な心を持っている子どもの様な人なんだと桜良が彼を信じて何度も何度も諭してハッピーエンド。私達の事も友達として受け入れてくれる様になる、というストーリーが雪村柊哉ハッピーエンドルートである。まだ更生出来る心を持っているだけましなのだろうか…
いや、私は騙されないぞ。
しかし顔は良いし、更生したらしたで主人公を一途に思うちょっと意地悪なキャラになったせいか人気はあった。ヤンデレも形を変えれば一途に恋人を愛する人だと華麗にメタモルフォーゼしてしまうのである。でも現実でされてはたまったものじゃない。
だから思った。彼には一度他の人と接する機会を与えてやらないといけないと。1人だけしか頼る人がいないと壊れてしまうのなら誰か他にも頼れる人がいればいい。それが本来の目的だった。だから1番近くにいる涼ちゃんか私、どちらかで彼の心を開くまではいかなくともせめて友人と呼べる間柄になれれば良いなと思っていたのだ。2人とも彼と仲良くなれたら良いかもしれないが現時点でそれは難しいだろう、人を信頼できない人だ、何かきっかけがなければ他人を受け入れたりしないはずだし正直長期戦になるなとは思っていたのだ。
そしてそれは達成された。涼ちゃんと雪村君は何故か友達になっていて、本来なら私はそこで積極的に友人になることを終えるべきだった。だったのに…何を間違えたのか私が彼のストーカー化とし、付きまとうなんて馬鹿な事をしてしまったのである。非常に恥ずかしい。穴があったら入りたい!
「……秋野、本当に秋野はその仲良くなりたい子の事を何も思っていないのか?」
私が自らの行いを振り返って羞恥していると真堂先生が問いかけてきた。
「え?」
「本当に何もないのだとしたら関わりたくないと思うんだけどな」
「確かに、少しは仲良くなりたいと思いました。でも友達になりたいとまでは思わなかったんです、友人に言われるまでは」
「友人に言われていたとしてもだ、君は積極的に関わって俺達に相談してでも友人になろうとしてるだろ?それとも秋野は頼んできたという友人の好感を上げる為に動いているのか」
「ちが、違います!私はそんな事」
思っていない、とそう言おうとしたら沙原先生が真堂先生の頭を叩いた。
「あんたねえ、回りくどいにも程があるでしょうがっ」
この馬鹿!っと言い放つ沙原先生。びっくりした…
「ったくほんとめんどくさい言い方しか出来ないのね…秋野さん、気を悪くしたでしょうけどこの馬鹿が言いたかった事は秋野さんもその子と友達になる気があったんじゃないのかって事なの」
「え?」
「ふふ、別に良いじゃない、お友達に言われて友達になろうと思ったって…だってそれは友達になろうと思わなければ出来ない事だわ」
「?」
「分らない?だって、貴方に友達になりたいって気持ちがなければたとえ他の人に何を言われようとも行動になんて移せないわよ」
そう…なのだろうか、友達に言われたから友達になりたいという不純な動機でも良いのだろうか…
「それに、友達になるために追い回すなんてそうそう出来る事じゃないわよ」
くすくすと可笑しそうに沙原先生は笑い、私の頭を撫でた。
あれ、私先生達に追い掛け回しているなんて言ったかな?
真堂先生が励ますんじゃないんかい!!っていうね(笑) ストーリー入れたら文字数が・・・長くてすみません




