先生達との秘密の共有-1
私と沙原先生は部屋に入り、机を間にして向かい合うように座わる。真堂先生は床に落ちていた自分のであろう携帯を拾うと、そのまま私の後ろに付いた。前に沙原先生が座って、後ろは真堂先生が立っている。なんだか事情聴取を受けてるみたいだ。受けた事ないけど。
そこはほら、テレビのイメージで。
「さて、秋野さんがさっき見た事に関してですが」
「はい」
「どう思った?」
積極的に聞いてくる沙原先生に戸惑いながらも私は正直に話した。
「いや、まあ真堂先生が沙原先生を押し倒しているように見えましたが…」
「そうね、それで私達が不純な事をしている恋人だとでも思ったかしら?」
…そうはっきり言われるとなんだか頷くのが躊躇われる。もしや違うのでは?なんて疑ってしまう。
〇〇だと思った?残念△△でした!とドヤ顔で言われても不愉快だし。けれど他に思ったこともなかったので私は素直に頷いた。
「ま、えっと…そうですね、正直そう思いまし」
「ありえないから」
私の言葉を待たずして返事が返ってきた。
「絶対に、あり得ないわ」
沙原先生は自身たっぷりとそれでいて「あり得ない」の部分をとても低い声でそう言った。ひええ怖い…
しかし私の疑いはまだ晴れない。
真堂先生の事はゲームでどんな性格か知っているのでそれなりに信頼はしているが、やっぱりあんな場面見た後だし…
「犯人はみんなそういうんです、自分はあり得ない、やっていないと」
「秋野さんがなぜ犯罪者の心理を持ち出したのかは分からないけれどそうね、やっぱりそう簡単に信じてもらえないわよね」
「はい…何せ証拠が無いですし……」
証拠を出せ!証拠を!っと意地の悪い犯人みたいな言いがかりのようだが、事実彼等が恋人同士では無い証拠がないと信じられない。沙原先生ははあ、と形のいいその桜色の唇からため息を吐き、頬に手をおき、困ったわねと呟いた。
かなり演技臭い。
「ま、でも秋野さんは女の子だし、それに口も固そうだから良いかしら?」
ねえ、と真堂先生に目配せしながら何かの確認を取るように問いかける。
何を根拠に私を口が固いと判断しているのやら。
「非常事態だしな…」
とても嫌そうに顔を歪めながら許可を出す真堂先生。本当、一体なんの相談してるんだろうか…?
私が怪訝に思いながら目の前にいる先生を眺めていると真堂先生に許可を貰った途端沙原先生が嬉々としながら証拠を見せるわね、と言ってシャツのボタンを外し始めた。
ちょっ!?
私が驚きすぎて固まっているとボタンを上から2つくらいはずした先生がシャツの中に手を突っ込んで何やら胸元でゴソゴソとしている。ちらちら見える谷間に、見ているこちらが恥ずかしくなり思わず視線を逸らしてしまう。私は男子中学生か!
すぐに先生が「あったあった」と何かを見つけたのか私にそれを手のひらに乗せて見せてきた。
それは直径1センチくらいの大きさでキラリと光る突起物が付いていて、ネックレスに通せるくらいのリングになっている
―――指輪だった。
私は恐る恐る聞いてみた。
「こ、れは…?」
「婚約指輪よ」
ゴンッ!!!!
私の頭に衝撃が走る(物理)
「あ、秋野!大丈夫か!」
真堂先生がいきなり机に頭突きした私を心配してくれるが私はそれどころではない。
「けけけけけ、結婚って真堂先生と…?」
声が震えすぎて怪しい鳴き声みたいになる。
「まあ、確かに苗字は真堂だけど」
「薫!!話をややこしくするな!」
真堂先生が沙原先生を叱咤する。沙原先生はそれでも素知らぬ顔でにこやかに私を見ていた。
あーなるほど…なんとなく状況が飲み込めてきた。さっき頭をぶつけたおかげで冷静になったのだろう(もう二度としたくないが)確かに先生達は普通の関係ではないようだが恋人でもないようだ。冷静に見てみるとなんだか沙原先生は私をからかっている様に見えるし。
私がそう結論付けて先生達の成り行きを見守っているといきなり沙原先生は私の頬を両手で包み込み、お互いの顔をぐっと近づけた。すごくいい匂いがする。
いやいや、そんな事はどうでもいい。なんだこの体勢…恥ずかしいんだけれど。
「ふふふ、私が結婚するのは真堂先生のお兄さんとなの」
「そう…ですか…」
「あんまり反応良くなーい…」
むう、と唇を突き出し不満げな先生をよそに先生のお兄さんの事を考えていた。実はあまり記憶にないのだ。確か真堂先生には性格が正反対の自由人なお兄さんがいたがゲームのストーリーにほとんど関わりはなかったはずだ。
ここで少し説明しておくと、先生とのストーリーは乙女ゲームにはよくある設定の1つで教師と生徒での禁断の恋。学校に通っている間に2人は付き合ってしまい関係がバレそうになると真面目な先生は一方的に責任を感じて桜良と距離をおこうとし、それを嫌われたと勘違いした桜良とすれ違ってしまう。そして先生がその誤解を解こうとしたらあれよあれよと学校にバレて世間に知られて2人は絶体絶命…という感じのシナリオだった。お兄さん全然話に絡んでこなかったし名前だけの登場だったから記憶にないも無理ない気がする。そして先生ルートの一番悪いエンドで真堂先生は先生に目をつけていた学校の偉い人の言いなりになってしまい、桜良をこっぴどく振るよう命令されてしまう。桜良は先生に振られたせいで気を病んでしまい学校を退学。
そんな事にはなってほしくないが先生とのバットエンドにならないようにするには学校にバレなきゃ良いってだけだし、上手くやればなんとかなると思うんだけれど…
でも恋愛に障害を与えないとやっぱり燃えないのだろうか…いいじゃないか、ほのぼの恋愛…
というか、早くこの体勢をどうにかしてほしい。首が痛くなってきた。
数分沙原先生と見つめ合い、やっと開放してくれたかと思ったら沙原先生は自分の携帯を取り出し写真のデータを見せてくれた。そこには男の人と沙原先生が仲良く手を繋いだり笑い合っている姿が映っている。お兄さんだ。これゲームの初回盤に付いてきた設定資料集に描いてあった顔と一緒だー。真堂先生と顔もあまり似ていないが十分格好良い。まさかこんなところでレアキャラをお目にかかれるとは…ありがたや
「真堂先生と恋人じゃないって言ったでしょ?これで信じてもらえたかしら?」
「あー…はい」
確かに、十分すぎる証拠だ。けれどふと私は思った。じゃあ何故押し倒していたのか…
「ですが真堂先生はお兄さんのお嫁さんを何故押し倒していたんですか?」
まさか、昼ドラ的な展開で「お前は兄さんに渡さない!」とかなんとかって展開とかだろうか…。桜良に実害がなければ私としては関係ないけれど少しはショックかもしれない。そうだったら先生ルートは諦めるか?
「好きでああなったんじゃないんだ…」
「ありきたりなんだけど、私とこいつが携帯を奪いあって揉み合っているうちになだれ込んで偶然あの状態になった、という事なの」
「…ああ」
なるほど。ま、そんなことだろうとは思っていた。部屋に入ってきた時確かに携帯が床に転がっていたし、それに先生の性格上そんな事をする人じゃないはずだ。どちらかというと相手の事を思って身を引くタイプだと思う…実際ゲームではそうだった。
なんとなく涼ちゃんに似ている気がする。
「分かりました」
「信じてくれるのか…?」
真堂先生が驚きながらこちらを見る。
「はい」
「良かったわー」
沙原先生が胸の前で手を組み微笑み、真堂先生も安心したように顔を緩める。
これでもう話は終わりかな、っと思っていたら今から渡さなきゃいけない書類を持ってくるからと言って真堂先生が出て行ってしまい、ここで沙原先生と待たされる事になった。
ああ、そうか、私プリントをもらいに来たんだった…忘れてた…
遅くなりまして申し訳ありませんでした。前に投稿してからいつぶりなのか…考えるだけでも恐ろしい… ですがこれからも不定期投稿になりそうです…すみません… しばらくはわちゃわちゃする先生達とのお話をお楽しみください!




