中途半端な転校生-11
玄関に行くと桜良と涼ちゃんがお見舞いに来てくれていた。
「もう、倒れたって聞いたからびっくりしたよ」
「大丈夫か」
2人が心配して声を掛けてきてくれたのでもう大丈夫だと言い、明日は学校に行けそうだと伝える。桜良はホッとしたように胸に手を当てて喜んでくれ、涼ちゃんも良かったなと言ってくれた。
「あのね、お見舞いにプリン買ってきたんだ!双子ちゃん達と一緒に食べて」
「ありがとう。ごめんね、気を遣わせて」
「気にすんな、お前がいないと桜良がうるさいし面倒をみるのが大変になるからな」
「もう、自分だってものすっごい心配してたくせに」
「お前ほど騒いでねーよ」
涼ちゃんは顔を赤くしながら「嘘だ~」と言っている桜良にデコピンしていた。そしてそれに不満を抱いた桜良がつっかかる。
ああ、いつも通りの2人に安心する。最近何かと雪村君の事を気にしていたせいで3人でいる事が少なくなっていたのだ。
2人のじゃれあいをいつまでも見ていたいと思うが流石に玄関先で騒いでいるのもどうかと思ったので私はそれとなく話題を逸らす為に話しかけてみた。
「ねえ、雪村君は何か言ってた?」
「え、柊哉君?」
「あー、雪村は…」
なんだろう、私が雪村君の事を話すと2人は何故か困ったように顔を合わせた。
何かあったのだろうか?
「私を運んでくれたのが雪村君だって聞いたからお礼を言いたいんだけど」
「え!そうなの!?」
「じゃあなんであいつ」
「?」
「いや、何でもない」
困ったように笑う桜良と怪訝な顔をする涼ちゃんに私はどうしたものかと思いながらも2人が喋るのを待った。
「何も言って来なかったから柊哉君が助けた事、知らなかったよ」
「ああ、お前が倒れた事も先生から聞いたしな」
そうなんだ、なんで言わなかったんだろう?
「ま、とりあえずお前はちゃんと明日学校来れるように休めよ」
「明日は心配だから迎えに来るからね!」
そこまでしなくても、とは思ったがせっかくのお誘いだ。私も2人と居たいしお願いしますと頼んでおいた。
桜良と涼ちゃんがそろそろ帰ると言ったのでお見送りをしたはずなのに何故か涼ちゃんがこの場に戻ってきて「茜音」と名前を呼ばれる。
「どうしたの?」
「いや、その、悪い…」
「何が?」
「前に言ってた事、出来なかったから」
お前は頑張ってるのにな、と涼ちゃんが呟く。一体なんの事か分からないがとりあえず頷いておく。
「あんまり無理すんなよ」
「涼ちゃん…」
私に心配そうに笑いかける涼ちゃんの目がなんだか優しくて…なんか照れる!今の私の表情はなんとも思ってない様に装っているが心の中は胸が高鳴ってハピネス状態だ!ここが外じゃなきゃ床の上をゴロゴロとローリングしていることだろう。
「ふふ、ねえ涼ちゃん、桜良が言ってた通りすごく心配してくれたの?」
なんだかこのままでは私だけが恥ずかしいので涼ちゃんにも仕返しとしてさっきの話題を振った。
「はあ?な、なんで、んなこと聞くんだよ」
「別になんでもいいでしょ?」
予想通り涼ちゃんが顔を赤く染めて黙り込んでいるのでさあさあどうなのー?とからかって促してみる。
きっと涼ちゃんの事だ、恥ずかしがって逃げるだろうと思っていたのだがその予想は外れてしまった。
「当たり前だろ」
「え?」
「倒れたって聞いて心配すんのは当たり前だろ、お前はその…」
少しの間を置いて涼ちゃんは私の目を見て言う。
「大事な、幼馴染なんだから…」
顔を赤くしているが真面目にそう言った涼ちゃんの顔はとても真剣でそれを間近で見てしまった私の顔も同じように赤くなってしまう。
な、何?夢?今私は夢でも見てるの?すごく嬉しい。そう言ってくれる涼ちゃんがとても格好良くて惚れ直してしまう。
「涼ちゃんっ」
「なん、うわ!」
思わず思いっきり抱きついた私に涼ちゃんが焦る。きっとさっきの言葉は桜良にだって言うんだろう…けれど、それでもいつも恥ずかしがってあまり真面目な事を私達に言わない涼ちゃんが言ってくれたその言葉が私の中で溶けてとろけてとても暖かくて幸せな気持ちにさせてくれる。
「ありがとう、とても嬉しい」
「お礼はいいから!離れろ!恥ずかしい…」
ジタバタする涼ちゃんに私はギュッと抱きつく力を強くした。
「ふふふ~よいではないか、大事な幼馴染なのだから」
「あー…ったく、今日のお前は桜良みたいだ」
「ふふ」
桜良はスキンシップが激しいから喜んだり感動したら涼ちゃんに抱き着くくらいはしているからな。もちろん私にも。もう諦めたのか涼ちゃんが抵抗を止めたのでそれと同時に私も抱きつく力を弱めた。
「私も大事だよ、2人が…」
「そうかよ」
「うん、大好き」
「っ! お前な、よくそんな恥ずかしい事言えるな…」
絶対に幸せにしてあげるからね、バットエンドにはさせないよと心の中で呟き涼ちゃんから手を離す。すこし名残惜しい。
「大好きな人に大好きだって言っちゃいけないって規則はないでしょう?」
「でもここ外だぞ、しかも家の前だし誰かに聞かれたらどうすんだ」
「それは大丈夫、私が2人を好きだって事は周知の事実だから」
「そういう事じゃねえだろ…」
羞恥心はないのかと言われたがその問には答えず、私はなるべく軽快に笑って涼ちゃんから離れる。
玄関の扉を開けて最後に振り向いて「それじゃあ明日はよろしくね」と手を振りながら言った。
「ん、じゃあ明日な」
涼ちゃんが自分の家に帰ったのを確認した後、扉を閉めて私は勢いよく階段を駆け上がり自分の部屋に入ると双子が声を揃えておかえりと出迎える。
「おねーちゃん良い事あった?」
「にやにやしてるー!」
「顔真っ赤だー!」
ああ、確かにとてもいい事があった。私は上機嫌で2人の頭を撫で、夕食の支度が出来たとお母さんが呼んでいるリビングへと向かう。
しばらくの間ニヤケが止まらない私をお母さんは不思議がっていたがその調子なら明日は学校に行けそうねと笑ってくれていた。
ちょっと積極的になってみました。そして何やら桜良達は雪村君とあったようです




