中途半端な転校生-5
私達がお弁当を食べ終わると早乙女先輩がいきなり「そうだ」と何かを思い出したように話し始める。
「雅、桜良ちゃんを生徒会室に案内してあげたら?」
「は?なぜだ」
怪訝そうな会長に早乙女先輩が何やらこそこそと耳打ちすると、分かったと頷いた会長は桜良を隣の生徒会室に連れて行ってしまった。何を言ったんだろう早乙女先輩…
と言うか、いきなりどうしたのだろう
2人が行ってしまった後、早乙女先輩は私を見ながらにこにこした笑顔を向けてこう言った。
「ようやく2人っきりになれたね」
言葉だけ聞くとなんて素敵な言葉だろうか。好きな人に言われたらドキドキ心臓が高鳴る瞬間なのだろう。脅迫的な時にもこの言いまわしはするけれど、どちらの意味でも先輩がまるで私と2人きりになりたかった、みたいに聞こえる。しかし次に口にした言葉で意味が分かった。
「何か俺に話したいことでもあるんじゃない?」
気付かれていたのか、私が話をしたいと思っている事に。すごい洞察力だ。
「意外と分かり易かったから。雅が来た時の反応とか、お弁当食べてる時に俺の事何回か気にする様に見てたらねなんとなく分かったんだ」
どうかしたの?と、先輩は優しく聞いてくれた。せっかく作って頂いた機会だ、遠慮なく相談させてもらおう。
「あの、先輩はどの様に会長と仲良くなられたのでしょうか?」
「雅と?」
私の投げ掛けた質問にちょっとびっくりしたのか先輩は目を少し見張っていたがすぐにいつもの通りに戻ると「どうして?」と聞いてきた。
「雅と仲良くなりたいの?」
「あ、違います。その、会長の性格が今私が友達になりたいと思っている子と似ているので仲良くなるにはどうすれば良いのかと思って」
私がそう言うと早乙女先輩は何故か笑いながら「そうなんだ」と言った後で、そうだなあと言いながら思い出すようなそぶりをする。何故笑われたんだ。
「とにかく相手の興味を引いていたかな?そもそも俺が雅に興味持ったのは俺のいた学校で凄いやつがいるって話題になって、話掛けに言ったんだ、そしたら『お前達みたいな子どもと話している時間なんてない』なんて言われたんだよね、自分も子どものくせに」
そしていきなり過去話をされた。
私が聞きたいのは最初の方に話してくれたアドバイスだけだったんだけども…
このお話聞かないとダメですか?ダメですよね、わかりましたどんと来いです。
「で、その後何度か話掛けに行ったりしたんだけどまったく相手にされなくてさ、でも一度だけあいつが俺に対抗してきたことがあって」
懐かしいような、それでいて楽しかった思い出を語る時の様な笑顔で先輩は語る。
「運動会でのリレーでさ、俺あいつ抜いたんだよ。それで、俺の組は優勝。そしたらあいつ俺に向かってきてさ『次は負けない』って言ってきたんだ。その時にもしかしたらこいつただの負けず嫌いなんじゃないかって思ったらなんか今まで近寄りがたかったんだけど普通のやつなんだって思えて、それから何かにつけて勝負、みたいなことをしていたらいつの間にか仲良くなってたんだよ」
勝負事で仲良くなるのはよくある話だ。しかしこの方法ははたして雪村くんに通用するだろうか……あまり有効には思えない。私達に共通しているのは桜良が友人だと言うことだけだし。
けれど、先輩の声が、目が、とても優しげで、そのことがとても大切な思い出なのだと他人の私でさえ感じ取れる。
「その時の先輩の勝率は?」
「ほとんど負けてたよ、あいつほんと完璧超人でさ、運動以外は全部負けばっか。……でも、あいつがいてくれたから俺も張り合って色々得意になったし、それに話してくれる事は同世代の子も大人でさえも話してくれないような事ばかりですごく面白くて、だから」
『あの時、友達になれて良かった』
そう言った先輩は照れた様に、けれどどこか誇らしげに笑うそんな姿に私はなんとなく親近感が湧いた。
そしてその数分後に会長と桜良が戻ってきた。もうすぐお昼休みが終わりそうだ。
「先輩ありがとうございます」
「ん?あ、なんかあんまりちゃんとしたアドバイスは出来なかったね…」
「いえ、とてもいい話を聞かせて頂きました」
「そう?そう思ってもらえたのなら俺も嬉しい」
きちんとしたアドバイスはもらえなかった。けれど、なんとかやってみようとやる気はもらえた。早乙女先輩ありがとうございます!
とりあえず、まずはコミュニケーションからだ。乙女ゲームでも、最初は話し掛けまくったり目的の人物に会いに行ったりしているし、今日から実戦してみよう。
以上早乙女先輩からのアドバイスでした。




