鬼教官は世界の共通ルール
「それにしてものぉ・・・恥ずかしすぎるぞ・・・」
20歳の時に悪魔にエネルギーを差し出すのと引き換えにいくらかのスキルを得ていた彼女は少し人間を辞めているのだ。
一部の理性と引き換えに強力な力を沸かせるこのスキル。とても恥ずかしい叫び声で親しい仲間の目の前で使ったときは恥ずかしくて全員記憶喪失になるまで殴り倒したものだとしみじみ思い出した。
しかし、あの戦場で誰も自分だとはわかってないので良しとする。ギルドへ着いた彼女は早速ドリグに報告することにした。
「5代目マスターさんよ、取り敢えず戦争は掻き回して終わらせてきたのでな。しばらくしたらギルドメンバーも帰ってくるぞ。・・・生きてたら・・・だがな」
「そ、そうでしたか。此方としても大事な仲間を傷つけるのは嫌なので本当に助かります」
(にしても、この短時間で戦争を終わらせただと・・・? 王への報告はしたほうがよいのだろうか?)
「うむ。見知らぬ者とはいえど私のギルドメンバーだからの。また戦争があったら終わらせに行くのでな」
そんなこんな話をしているとドアが勢い良く開きギルドメンバーと思わしき面々が入ってきた。
「マ、マスタァッ!! 聞いてくれ! やべぇよ!」
「そうです! 本当死ぬかと思いましたわ!」
「ったく・・・そんなやつ本当にいたのかよ嘘癖ぇな」
男5人女1人でそれぞれ自分の武器を抱えて息も絶え絶えに戦場で見たおぞましい光景・・・ケリアの蹂躙を語りだした。
要約するとこうだ。
「戦おうと前線に駆けていったはいいものの死神が降臨し麻痺攻撃で蹂躙していた」と。
そして話を終えて精神的に落ち着いたのか漸くドリグの近くに座っているケリアに気づいた。
「えーっと・・・そこに座っている方は・・・?」
「あぁ。「陽炎の爪」で初代ギルドマスターとして務めていたケリア・コーラスという。よろしくな」
一時の静寂が陽炎の爪を包み込む。
「「「「「「はぁぁぁぁっ!?!?!」」」」」」
ドリグとしては大事になるので隠しておきたかったが本人が言ってしまったのでもう後の祭りである。
ドリグが粗方説明を終えると、ケリアが先程の戦場のことについても言ったが、先ほどと同じ反応で、装備品を出すと渋々分かったような顔をして頷いていた。
「それにしても随分錆びれたギルドになったのう・・・」
ポツリと口にしたケリアは薄れた記憶を掘り出していた。90年前は大陸一の最強ギルドと呼ばれていたこと、昔の人達は魔物との戦闘に明け暮れ生死の狭間にいたことなどを興味深そうにギルメン達が聞いていた。
「強くなりたいかの?」
そうギルメンに問いかけるケリア。うんうんと頷く彼らに昔は遠くにある試練の塔に赴いて仲間たちと共に鍛錬したことや、敵が大群で現れるために街で乱戦になっても安定して戦えるためあの塔の80階から上は昔重宝されていたのだということを話すとギルメン達は顔を引き攣らせる。
「お前らの安全は私たちが保証するのでな。安心して戦うがよい。言っておくが私はスパルタだぞ?」
と言っても塔で死んでも塔の外に戻されるだけなので痛みしか感じないが迫り来る大群にやられることで精神的にやられるものも多いのである。因みに塔のモンスターは幻影であり、倒すと消滅する。再度登ると復活しまた倒すことができるのだ。
妖艶な笑みをするケリアの顔にうっとりするものは当然いない。言っている言葉が言葉だからだ。
「いやいやいやいや!? ケリアさん! 塔って言えばあれですよ!? 現在最強のギルド「竜神兵団」の最強メンバーが死力を尽くして最上階の100階は愚か90階にも行けなかったんですよ!?」
メンバーのリーダー格イーギルがそう叫ぶとケリアが口を開く。
「む? 1ギルドの死力で90階にすらたどり着けないとは愉快よのぉ! というか「陽炎の爪」は大陸一ではないのか!?」
まぁ・・・当然分かっていた。理性では分かっていたのだ・・・。本能がそれを拒否していたがしっかりと言葉が聞こえたのでもう認めるしかないだろう。
メンバーが口を開く前にケリアが更に言葉を畳み掛ける。
「お前ら! 強制的に塔に遠征なのでな! しっかり準備するのだぞ! ドリグ!(威圧スキル) 塔へこいつらを連れていってもいいであろう?(威圧スキル)しっかり叩き潰すのでな!(威圧スキル)」
「は、はい」
ケリアの威圧スキル3連打に負けたドリグはメンバーの塔遠征80~100階を了承した。
「マスタァァァァァァァァァァァ!!!!!」
彼らの悲痛な叫びに神は味方しないのであった。