醜い人間
「うむ。ただいま戻った。おや? ミーシャ若返ったのか?」
彼女は街に入ってから5分かけて歩き、様変わりしていたギルド「陽炎の爪」に入ったのだった。ミーシャと呼ばれた女性は陽炎の爪を象徴するような鮮やかな赤色の髪でギルド受付嬢専用の制服を身に纏っている。
「こんにちは。ってあれ? 私はミーシャ・バトルトンではなくミーナ・ゲオルドですよ? 曾祖母さんに何かありましたでしょうか?」
ミーナの言葉に拙い脳内回路がショートしていく中一つだけ結論がでた。
「ふむ。ここは陽炎の爪ではないのかの」
馬鹿である。
「あの、申し訳ありませんが、ここはギルド「陽炎の爪」であってますし、貴方は誰なのでしょうか?」
「無論「陽炎の爪」のギルドマスターのケリアだが?」
「・・・」
「・・・え?」
二人を静寂が包み込む。ミーナは混乱する脳を整理し、まずするべきことからすることにした。
「その・・・ギルドカードの提示をお願いできますでしょうか?・・・」
ケリアはマジックバッグ(4次元ポケットのようなもの)からギルドカードを取り出すと無造作にミーナに渡す。それをマジマジと見つめたニーナはスキル「瞬歩」でギルドの奥へと入ってしまった。
「どうしたことかのう・・・」
ケリアは自分のギルドの受付嬢から訝しげに見られ、挙句の果てにギルドマスターかどうかの確認までされて少し落ち込んでいる。自分の建てたギルドなのに。
ボーっとしていると、ドアが半開きになりミーナがこちらへ来いと促してきた。仕方なくケリアがマスター専用室まで入るとそこには50歳になるだろうか、腕が大根のようなどっしりした太さで豪快そうなおじさんが座っていた。
「ふむ。何勝手に人のマスター室改造してくれとるんじゃ」
男は少し体をびくりと震えさせると口を開いた。
「あなたの顔を見る限り、本人だと思います。しかし、あなたが何故生きているのですか・・・?」
男はそう聞くと体を前のめりにした。
「質問に質問を返すようで悪いのだが、それはどういうことかの?」
「その、現在の暦は3578年なのですが、貴方の生まれは3463年。そして無くなった年は3488年となっておるのですよ」
「ってあ、申し訳ありません。名乗りがまだでした。私は「陽炎の爪」5代目マスターのドリグ・フェニウスと申します」
「む・・・? む・・・? つまり私は今3578年のグランフェリアにおるということかの? そして今お前が「陽炎の爪」でギルドマスターをしておるのか」
「はい。どうしてそのようなことになっているのか分かりませんが、恐らくそういうことだと思います。あちらを見てもらえますか?」
ドリグは右側に手を出したので、ケリアは釣られてそちらを振り向く。
「何とものぉ」
そこに立てかけてある4枚の写真。1代目マスターケリア・コーラスを書かれその上には自分の写真がある。何とも言えない気分になったケリアは話題を変える。
「そのまぁ今は記憶が抜けておってのう・・・何とも言えんのだ。それよりも、何故昼間にも関わらず人がおらんのだ?」
「はぁ・・・やはりそうなりますよね・・・。現在グランフェリアと西に位置しているイグノリアが戦争をしておるのです。それも植民地にして利益を吸い上げるために。現在国の法でギルドマスター又は指定人物以外は半強制的に戦争に送り込まれることになっているのです・・・」
バンッ!!!
「戦争だと・・・?」
「グッ・・・」
ケリアの威圧感に言葉を詰まらせるドリグ。先程まで本人かどうか疑っていたが、この威圧感からみて只ものではないとは分かる。幻影魔法で姿を変えて密偵をするものもいるが、常に敵地の者からの意識を薄れさせておくのが原則だ。この女はあまりにも堂々しすぎている。それに先程受け取ったギルドカードを見ても偽装の可能性はかなり低い。ほぼ本人と見て大丈夫だろう。
「その特定の人物とは恐らく戦況を一人で覆らせる冒険者などのことなのだろう?」
「えぇ。といっても昔・・・ケリアさんの時代の人々から見れば恐らく魔物からの脅威に晒されていない兵士たちのレベルなどたかがしれていると思います。今では100Lv以上の冒険者又は騎士が直接戦闘に参加することを禁じられています」
「な・・・に? 100Lv以上? 私は189Lvだぞ・・・? 100Lvで戦況が変わるような時代なのか?」
「えぇ。先程も言ったように昔の方々の尽力で魔物の増殖が抑えられているのです。それで今はこのような状況になっています」
戦闘関連については思考回路が回るケリアはある提案をする。
「よし、私が全身を装備で覆い姿がわからないようにする。勿論今回使う装備は恐らく次の戦争で使うだけだろう」
「と言うと?」
「つまり、私が両国無差別に攻撃すれば恐らくどちらかの出した冒険者とはわからないだろう。そして最初は状態異常を掛けたり気絶させたりと無力化していく。そこで両国の兵士にまだ戦うようであれば殺害も辞さないと脅せば丸く収まるのではないか?」
「そう・・・ですねぇ・・・しかし誰かに付いてこられてこっちだとばれればそこでアウトでは・・・」
「付いてくるようであれば無力化するかワープで森に逃げ込んでそこから戻ればいいであろう」
これでもケリナは世界平和の為という妄言の為にこの「陽炎の爪」を設立したのだ。戦争など許せるはずがなかった。昔は魔物の対処で手一杯だったため国家間の戦争など愚問であったのだ。
魔物の脅威の次は国家の脅威。人間というものは所詮自己の利益しか考えず周りを虐げることで自らを上方へ持っていこうとするものだ。その現実を叩きつけられたケリアは正直頭が痛くなる。しかしとりあえずは戦争を止めるために赴くことにしようと決めたケリアであった。