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第二話「あれ? こいつ可愛くねぇ?」

  第二話 「あれ? こいつ可愛くねぇ?」

(俺の名前は白風透器、表向きはオタクな高校生二年生。しかしてその正体は、猫探しからヤクザの抗争の解決までをこなすハイパーマルチ探偵なのである。まるで厨二設定だな。しかし、今宵の仕事は少し違った。何故ならば俺もこんなのは初めてだからだッ!)

 時刻は深夜二時。草木も眠る丑三つ時。もう使われなくなった廃工場に透器、水花、そして女子高校生の三人の姿があった。女子高校生の名前は円藤歩、今回の依頼主である。

 実の所、透器は今回の依頼を受けるつもりは無かった。何故ならば、依頼内容が“除霊”であったからだ。

(そもそも、探偵事務所に除霊を頼むっておかしくね?)

 透器は白風龍太の底知れなさを実感していた。白風探偵事務所天関支部を任されてから、およそ一年。この間にこういったオカルトの類の依頼を持ち込まれたのは十件。ほぼ一月に一度である。透器が聞いた話によると白風龍太は凄腕の除霊師でもあるそうだ。

(あのおっさんは一体何モンなんだ? 除霊ってどうやんだよ……)

 透器にしてみればこういった類の話は信じていなかったので、これまでは悉く断ってき

た。しかし、今回は事情が違った。オカルトも何もその最たる証明が目の前に現れたから

だ。その自称神様の水花が、この依頼人の話を聞いていた途中に囁いてきたのだ。『彼女は

悪霊に取り憑かれてますね』と。それから妙にやる気を出して、遂には除霊を決行するに

到ったのである。

「おい、本当にできるんだろうな?」

 何度か超常現象を見せられたからといって完全に信じきることはできず、怪訝そうな表情を作って水花に訊ねた。

「大丈夫ですよ。この位でしたら、私とその子とトーキでサクっと解決できますよ」

 水花の示すその子とは、透器が手に持っている一mはあろうかという、俗に物干竿といわれる大太刀、銘は黄泉切(よみぎり)の事である。

白風家に代々伝わる家宝であり、水花の話では、かなりの力を帯びた霊刀であったが、錆付き刀として死に掛けていた所を、六十年前にやって来たときに彼女が磨き上げ復活させたとのことである。何でもこの刀には不思議な力が宿っており、必要な条件を満たしていればその刀は人間を斬っても、肉体は切れず、内に巣くった霊的なモノのみを斬ることができる……そうである。

(どう考えても眉唾だが、水花の言を信じるか……。あいつが俺よりもこういった話に強いのは明白だからなぁ……)

 透器が幾ら頭を悩ましたところでこういった事態に対する知識は持ち合わせていない。

ならば、水花に従った方が良いという結論に達したのだ。

 歩は何やら魔方陣のようなものが書かれた床の上でスヤスヤと眠っている。

彼女の話によると、悪夢を見るようになってから、彼女の家族や友人が次々と謎の体調不良や自己に見舞われるようになり、あげく彼女自身にも夢遊病のような症状が発生し、幾つかの病院や神社、心霊研究家を頼って最終的に白風探偵事務所に辿り着いたそうだ。

(ひょっとしたら俺が追い返したあの人たちもそうだったのかねぇ?)

 透器は、お門違いだと追い返したことが間違いで、むしろそういった類の知識を持ち合わせてなかった自分の底の浅さの方に問題があったのではないかと感じ、罪悪感が込み上げてきた。

 しかし、いくら他とは趣が違う探偵だからといって、そんなオカルトの知識まで持ち合わせる必要はないだろう。むしろ白風龍太という人物の多芸さの方が遥に異常なだけである。

「トーキ、はじまりますよ。刀を抜いて下さい」

 緊張した声が耳を打ち、透器が注意を払うと、床に描かれた魔方陣が青色に輝き、歩むが浮き上がっていた。その現象をだけをとってもやはりオカルトは存在しているのだろう。

「なんじゃこりゃ……」

「あの陣で彼女に一時的に私の加護を与えているんですよ。とはいえ、直接浄化するような力ではないですので、私の力に抵抗するために彼女の深層から出てきたところをぶった斬ります」

「いや、ぶった斬るじゃねぇだろ! その霊験あらたかな力はもう宿ってんのか?」

「慌てないで下さい。今やります。私の血から直接霊力を注ぎますので」

 そういって透器が手にしている黄泉切(よみぎり)で手首を軽く切ると、そこから滴る血を刀に吸わせた。すると、その血が刀に染み込み、直後、その刀身はまるで白熱灯のような眼に焼きつくような輝きを放ち、そしてその光が収まった時それは薄い白光を纏っていた。

「なあ、お前が刀を使えば態々血を吸わせなくても力が使えたんじゃねぇのか?」

「この刀は魔を断つために作られた刀ですから、私が力を注いでも応えてはくれません。

その子は人が持って始めて目覚めるんですよ」

 その刀を優しく撫でる水花はどこか寂しそうだった。透器は何か声をかけようと口を開きかけたが結局どんな言葉も思いつかず、止めた。

(永いこと一緒にいるような気がしても、何にも知らないんだよな)

「トーキ来ますよ。戦闘です」

 ぼんやりとしていた透器であったが、その空気の変化は透器も察することが出来た。今は冷たく重いまるで、深海のような底冷え。

床に描かれた陣の色が青から黄色へと点滅を繰り返し、最後は爆ぜた。

飛び散る燐光の中、降立った歩の姿は悪魔映画に出てきそうな異質なモノに変化していた。色は死人様に青く、目は血走りギョロギョロと動き、獣のように四肢で立っていた。

そして、その異常を湛えた眼が二人を捕らえた。

「ギィィィィィィィィィヤァァァァァァァァァァ」

 鼓膜を劈くような金切り声を上げ、床を一蹴り。ただそれだけで水花へと肉薄していた。

(なんでそっちを狙うんだ、よッ!)

 水花へと刺し出す爪、それが届くよりも早く、透器は歩の横に居た。

浅い呼吸と共に上段に構えた刀を振り落とす。獲った、透器がそう確信した一振りは彼の期待通りの歯ごたえを返さなかった。すんでの所で空を切ったのだ。

「トーキ上ですッ!」

 太刀の刃が届く直前、歩は危険を察知し飛び退っていたのだ。そして彼女は大跳躍。そのまま天井にへばり付くとイモリのように天井や壁を駆け回る。

「うわぁ、キメェ。あれ見たことあるぞ。動き的にはカオ○シだ」

「トーキ。暢気なことを言ってる場合じゃありません。外に逃すと面倒です。叩き落しますのでやってください」

 水花が腕を横に振るうとその軌跡に水が生まれ、それは瞬時にして数十発の水の弾となった。 

そして、彼女が再び腕を振るうとそれは本物のそれと同じかそれ以上の速度で放たれ、その弾丸一発の威力は壁や天井に大穴を穿つほど。その内の一発が歩の付近に命中し、その衝撃で吹き飛ばされて落下。透器はそれを追いかける。

「あんなの喰らって生きてんのかよ!」

当然生きていた。それは水弾の衝撃で叩き落され、床を二転三転と転がりはしたが深手ではなく、即座に体勢を立て直すと透器目掛けて跳ね飛んできた。

「うおっ!」トーキはそれを姿勢を低くしてやり過ごすと、その低姿勢のまま旋回、刀の長さを頼りに斬り飛ばさんとする。

しかし、歩はその迫り来る刃を腕で地面を突きその衝撃で横に跳ぶことによってよけた。

「ザコのクセにすばしっこいなぁッ!」

「トーキ、すみませんッ!」「へ?」

 歩のちょこまかとした動きに悪態をついた透器を、室内だというのに大雨が襲った。

「これは敵の動きを鈍くする術です。長くは持ちませんので、トドメを」

「すまん、助かる!」

 透器は降りしきる雨の中、飛沫を上げて駆け抜けていく。目指すは歩。彼女の悪夢を終わらせるために。彼はその一刀に彼女の願いを託し、上段に太刀を構えた。

「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 まるでこの雨に縛られているかのように、立ったまま身悶えている歩。振り上げた刃を彼女目掛けて振り下ろす。そして、透器は彼女を白く輝く黄泉切(よみぎり)で断ち斬った。

「ガァァァァァァアァァァアァァァァァァァァ!!!!」

その刃はまるで蜃気楼でも切ったかのように彼女の体を通り抜け、最後にこだましたのは獣の絶叫。それが途切れたとき、少女の体から力が抜け崩れ落ち、透器はそれを支えた。

「終わりましたね、トーキ」

 いつの間にか降り注いでいた雨は止み、傍らには共に戦った水花が立っていた。

「ご苦労様です」「おつかれ」

 相手を労う言葉が重なり、ふと、はにかむ二人。一仕事終えた後の充足感が二人を包む。

水花は床に転がった黄泉切(よみぎり)を鞘に収めると晴れやかな顔で笑った。

「さあ、帰りましょうか」

「だな」

 その眩さに目を細めた透器は、短く肯定すると、二人並んで家路へと歩み出した。


 その翌日、高熱を出して寝込んだ水花の看病を透器はしていた。

「トーキ、学校はいいんですか?」

「いいんだよ。あとは夏休みが来るのを待つだけの半ドン授業だから、でなくてもいい」

「そうですか」そう呟くと布団を顔半分まで被った。窓の外からはセミが夏を満喫するように声高に謳い、窓から差し込む熱い日差しがエアコンの冷たさを中和していく。まさに夏まっさかりだった。

 外に目やると登校中の小学生が馬鹿笑いをしながら駆けて行く姿が目に入った。

なんと平和な日常だろうか。透器は仕事や昨日の出来事のような非日常にはない平穏、家族を失うたびに消えていった暖かな日常を、今、感じていた。

「人が熱を出して寝ていると言うのに、何をニヤついているんですか?」

「わりぃな。他人の看病なんて久々にしたからよ。なんだか気が緩んじまってな」

 確かに今の透器にはどんな時でも滲み出ていた険が薄くなっているように見えた。

「……ゆるします」

「えっ? 何かいったか?」

「だから、許しますといったんです」

 イーッと顔をしかめると水花は布団で顔を隠した。

何故そんな行動をとったのか分らない透器は困惑するしかなかった。

(まったく、そんな嬉しそうな顔してたら怒れないじゃないですか)

「ところで、何で熱がでてんだ? まさか神様が風邪を引くなんてことはないだろ?」

「さあ、風邪引くんじゃないんですか? この世界に堕ちるということは受肉するということですし。ともなれば、ウィルスにやられても変ではないでしょう」 

「おい待て。それなら、態々人間になるためにアレヤコレヤしなくても、既に人間じゃねぇか?」

 その問いに、水花は目が出るくらいまで布団から顔を出した。その瞳には世の不条理を嘆く無念さが滲んでいた。

「トーキは今の私をどう思いますか? わけの分らない力を自在に行使し、傷だってその気になれば直ぐ直せます。年をとることもありません。そもそもその正体は人型ですらないかもしれません。そんな生物が果たして人間といえるのでしょうか? 私はそうは思いません。それは人以外のナニカですよ……。私たちがこの世界やってきても、ただ死ぬことが出来る、それだけの存在にしか過ぎません。そうじゃないんです。私は皆さんと同じ速度で生きたいんですよ」

 透器は、彼女が死という概念について話した時、この少女は死にたいのだろうかと思っ

た。人間になりたいという願いを聞いた時も、さほど深くは考えなかった。

 しかし、透器はその認識が過っていたことを今さらながら理解した。

彼女は刹那を歩む者として、誰かと共に充実した生をがむしゃらに生き、そして願わく

ば誰かに見守られて終わりたいのだろう。

 そんな人並みに生きたいという当たり前の願望に今の今まで思い至れなかった自分の思慮の浅さを恥じ、日が浅いながらも募った彼女に対する想いが、彼をその言葉に導いた。

「……分ったよ。俺も手伝うから、目指そうぜ。その人間になりたいってヤツをよ」

 透器にとっては誓いというか割と重い響きを持ったモノだったが、それを聞いた水花は奥歯に物がひっかかった様な微妙な表情をしていた。

「トーキの言葉は嬉しいですけど、人間になりたって、よく考えるとかなりネタな感じですよね? 私、結構真剣に言ってたんですけどねぇ」

「…………俺はそのアニメを詳しく知らないけど、その科白は何もネタで言ってるモンじゃないと思うぞ、多分……」

「そうでしょうけど……」

 そう言って何やら考え始めた水花を見て、透器は盛大な溜息を吐いた。

(何でコイツはここに来て数日しか経ってないのに、こんなしょうもない知識ばっかり身に付けてんだ?)

 やれ、世界で唯一変わらない吸引力は素晴らしいといってダイ○ンを買ってきたり、やれ、ブルーレイで天空の城ラピ○タが見たかったからといってPS○を買ってきたり、やれ、ロッ○―は3の評価はそんなに良くないがミッキーとの別れが悲しく、アポロとの友情が熱いとか語り、やれ、ピアノの腕前を上げてニューヨークの路上で披露して多くの人に感動されたいとか言ってグランドピアノを買って、このクソ狭い家の一室を平然と占領したかと思えば本人はちっとも練習しない。などなど。

(そもそも、この数日で物を買いすぎなんだよ! PS○は既に家にあるから! いい加減あいつの謎資金を明るみにしなければ、リアルに警察に逮捕される日が来るやも……)

 透器は、僅かの間に物が増え、ただの物置から人の生活の息吹が感じられる場へと変化した水花の部屋を見回した。そこである事に気がついた。

「お前、しょうもない物がある割には、服がないな」

「……そうですね。私はどうもそういった類に疎いようなので、どんな服が似合うのか分らないので、買ってないんですよ。とりあえず、同じ服を大量に複製しましたので」

(……複製? まぁ深くは聞くまい。どうせロクな事にならねぇ)

 その事はひとまず置いておき、透器は、水花は家に居る時、同じキャミソールかパジャマ姿しか見てない事を思い出していた。

「そうか……。なら、今度の日曜に街の案内がてらショッピングでもするか?」

「そうですね。おねがいします。……そういえば、一つ気になっていたんですけど」

「ん、なんだ?」

「トーキは何故探偵業のときはあんなコートを着てるんですか? 正直言って、夏場はかなり浮くと思いますよ」

水花は何か残念な人を見るような目つきをしていた。

「オイッ! 俺だって好きでアレをきているわけじゃないぞ! アレは最新技術で作られた防弾・防刃コートでAK47の射撃だって受け止めれるんだからな」

「それはすごいですね。でも顔丸出しじゃないですか?」

「うっせぇなぁ。 腕で顔隠せばいいだろ。そもそも、銃弾を浴びなきゃいいんだよ。それに、あのコートにはもう一つ理由があるんだぜ」

「それは何ですか?」

「おっさん曰く、俺たちのような職業をしてたら顧客やそういった界隈の人間に一目で分らせるようなワンポイントが必要で、それがウチでは黒いコートなんだと」

「つまりそれがトーキの名刺代わりという事になるんですね?」

「そういう事だ。目○警部も、黒の○神も一年中コートだろ?」

「そうなんですか? …………分りましたッ! 私にもそのコートを作って下さい」

「なんでだよッ!」

「私も天関支部の一員ですよ。なら必要じゃないですか?」

 水花の目はランドセルを期待する童のような純粋さに満ち溢れ、それを無下に断れる程、透器の心は堅い意思を有しては居なかった。

「コートはあれだが、何か色とか感じを統一した制服を考えとくよ。それでいいだろ?」

「十分です」

 ニコニコとしている水花を尻目に、透器は自分が大分彼女に甘くなっていることを反省した。


 数日後の日曜日、相変わらずの真夏の太陽が、その力を惜しげもなく行使し、地面を天然ホットプレートへと早代わりさせているような、そんな昼下がり。

透器と水花はこの都市の象徴とも言える駅ビル、フロントステーションに来ていた。

ただし二人きりではない。ララと金時朗が同伴していた。

「なんでお前らがいるんだよ?」

「お義兄さん、僕は真剣に水花さんとの交際を考えているんです。あの現世の美の女神の様に美しき我が想い人と添い遂げさせて頂けないでしょうか?」

「あっそ、ふぅん」

「ちょっとちょっと! そこはリアクションを取るべきところだろッ?」

「うるさいぞ、ゾウリムシ。貴様は目に映るだけで煩わしいのでゾウリムシを見習って全人類の視覚から消えてくれ」

「おっふ、何て酷い一言、流石ララさん。そこに痺れる憧れる~」

「そのネタを使うあたりが底が知れてますよ」

 オフッと血を吐いて崩れ落ちる金時朗。死因は水花という思わぬ伏兵からの辣言によるショック死。この水花は天然の刃で人を斬り殺す。おそろしや。

「まったく、キンにもこまったものだな。ヤツとトーキが居るだけで騒がしくてかなわん」

「ちょっ! ナチュラルに俺とこいつと一緒にするなッ!」

 ララからの思わぬ口撃に遺憾の意を現す。それにララは薄く笑って弱点を突いた。

「天○ちゃんなんて所詮オワコンだな」

「……ふっ……ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! あの愛らしい御姿、思わず抱きしめたくなるような仕草、天然だけど皆の事を思っている優しさ、キュートな声、大胆な行動力と重爆撃機並みの戦闘力、あああああああああ、何を取ってもパーフェクトな天○ちゃん。音○が思わず一緒に残ろうぜと誘いたくなる気持ちも俺理解できるよ、むしろ言わないほうが頭パーンだよっ! そんな天○ちゃんがオワコンだとぉぉぉぉぉぉぉぉ! 一回転生してコイ」

 まるで決壊したダムのように次から次へと流れでる、その二次元キャラへの愛しき思い。

しかし、二人を初め、周囲の人間はドン引きです。

「フッ、語るに落ちたなトーキ。そうキミは――」

『キモイ』

 ララと水花だけならまだしも金時朗にまで真実を突きつけられ、有名なアスキーアートを彷彿する項垂れ方をする透器。

「はっきり言っておくがキミの話している内容の九割九分がワタシには理解不能だ」

 そして鮮やかにトドメを差した。今度は透器がグフッと言って崩れ落ちた。

「おお、トーキよ、こんなトコロで死んでしまうなんてなさけない」

「有名なセリフしか出て来ないキンさんも情けないと思いますよ」

 ゲハッと昇天する金時朗。どうやら女三界にSしか存在しないようである……。


そして気を執り成して水花案内ツアーが再会された。出鼻からオーバーキルされた男二人はゾンビのような足取りである。対して女集は姦しくはしゃいでいる。

「私、こんな高いビル見るの始めてです」

「大げさだなミィ。東京や海外ならこれよりも凄いぞ」

「へぇぇ」

 集合場所に指定したフロントステーションのあるこの中央区はこの天関で最も栄えている地域であり、この都市の技術力を現したような高層ビル群が存在しているのである。

この場所に来れば世界中のあらゆるブランドがそろい、しかも元々の値段で手に入るため、そういったものを目当てにやってくる観光人口は少なくはないのである。

「それでどこに行くんだ? よく考えたら、都市の案内つっても、この中央区ぐらいしか行くところがないからな」

「まったく……。日本だというのに治安が悪いというのは考えものだな」

「まあ、仕方ないよ。俺たちはそういった場所に住んじゃってるんだし」

「ところでみなさんは、生まれたときからこの街に住んでるんですか?」

「俺とキンは鉾島生まれの鉾島育ちだ」

「そしてワタシはその鉾島に唯一ある教会にたらい回しされたシスターだな」

 透器たちも詳しい事情を知らないが、ララは複雑な経緯があってこんな極東に飛ばされたらしい。彼女がここに来たときは実に十二歳。日本ならば小学校を卒業し中学生になりたての少女が身内や頼れる者もなく、言葉や文化が違うこの地に一人でやってきたのだ。

「あの頃は苦労したものだ。日常生活をなんとかこなせる程度の日本語を習得はできたものの、まったく文化が違ったからな」

「お前の苦労はもっと違うところが原因だけどな?」

 透器と金時朗は先ほどの復讐とばかりに、悪巧みを思いついた顔をしていた。

「おいおい、忘れたのかよ~? 一人ぼっちのお姫様」

 その言葉を聞いて見る見るララの顔が上気していく。

「おいキン、キミ……その事を言ったら……」

「私の名はララ・ロウナイト。覚えてもらう必要はない。何故ならワタシもキミたちの名など覚えるつもりはないからな、だったよな」

「……トーキ……死ね」

 怖いぐらいに平坦な声音と共にララのフロントキックが炸裂。それは正確に男の急所を捉え、結果、透器は悶絶し、地面に倒れ伏した。ピクピクと痙攣している様が実に恐ろし。

「ララ……、昔は荒れてたんですね……」

「……ち……ちがうのだ、ワタシは荒れてなど……」

「そうそう、別にララも荒れてたとかじゃないんだよね。外国人のクセにチビだったから苛められるんじゃないかと思って、舐められないように精一杯の虚勢を張ったんだよね?」

「うっ……うるさい! それも言うんじゃないッ!」

 その頃のララは自分の身長に激しいコンプレックスを持っていた上に、日本は単一民族の閉鎖的な社会で、外人には差別的であり、見た目が明らかに違う人種に対してはその傾向が強く排除されるという、誇張された情報を鵜呑みにしていた。

そして、その二つの事柄が結びついた結果、あんな自己紹介を行って虚勢を張ったのであった。その時の彼女の気分はまさに、押し寄せる敵の大群に雄々しく向かう一人の騎士の心境だった。今の彼女にしてみれば間違いなく闇歴史そのものである。

「結果、クラスでは腫れ物扱いで、いつも一人ぼっちだったな」

 地面に伏していた透器は顔だけを上げて気持ち悪い笑みを浮かべていた。極限の痛みと、それでも相手を苛めようとする嗜虐心が入り混じり何とも醜い表情である。

ララはソレを見て顔を引き攣らせる。そして、彼の顔面を静かに蹴り飛ばした。

「成程、そこに手を差し伸べたのがお二人だったんですね?」

「いや、まったく違う。そもそもコイツラは違うクラスだったしな」

「ヘッ? じゃあ、どうやって知り合ったんですか?」

「トーキとキンがいつも通りにじゃれあっていて、ふとした拍子にトーキがキンを突き飛ばしてな。よろめいたキンが無駄に高慢な体育教師にぶつかったのだ。そしたら、そいつのヅラが取れてな……。そいつに因縁をつけられていたワタシを初め、この二人も大爆笑。そしたらそいつが顔をスチームポッドみたいに真っ赤にして切れだし……」

「俺たちが逃げ出したら、そいつも追ってきてよ。しかも馬鹿みたいにスタミナがある奴で延々と追ってくんだよ……。やっと巻いた頃にはもう放課後で、汗だくの俺たちはあまりの馬鹿さ加減で笑い転げたんだよな。それから親しくなったんだ」

 ダメージから立ち直った透器は懐かしそうな顔でその頃を思い出していた。

「まったくワタシの初めての友がこんな変態二人組みだとは……我ながら失態だ……」

「こっちだってオマエと絡んだせいで、学校中でトラブルの塊みたいな扱いを受けるようになったんだからね」

「色々あったなよな……。三人で数十人人の不良と戦ったり、セクハラ教師を吊るし上げたり、他人の告白の協力をしたり、逃げ出したライオンを保護したり、色々だ」

「皆さん、眩いですね……」

 思い出話をそれは楽しそうに語る3人を見て、水花は輝かしきモノを見るように目を細めて微笑んだ。一方の3人はそんなことを真顔で言われて三者一様に照れた。

「ワタシたちの恥ずかしい話は終わりだ、とりあえず適当に店をまわるぞ」

「主にお前の恥ずかしい話だけどな」

「トーキ、今度余計なことを言うとキミのトラウマを抉り返してやるぞ」

「そうだよ、トーキ。オマエにだって恥ずかしい話が一杯あるんだからね」

『おキミはだってろ、この高校デビュー失敗野郎』

「オッフッ!」

 水花はその言葉の意味するところを知らなかったが、どんな事をしていても楽しそうな三人を見て、自分もいつかはこの輪の一部分になれたらと心の底から願った。

「皆さんは本当に仲良しですね」


 駅前で駄弁っていても仕方がない事に気がついた一行は、とりあえず店が軒を連ねるアーケード街、水天通りにやって来ていた。

そこをうろついていた時、透器はある重要な事実に気がついた。

今回の買い物の主な目的は水花の衣服選びであった。

しかし、透器はこの人選が誤りであったことにすぐに気がついたのだ。

まず透器、自分のものですらユニ○ロで同じような柄を毎度買い揃えるのに女物の良し悪しなど口に出せるわけが無い。次に金時朗、彼は自分の欲望のままに露出の激しいものばかり選ぶのでNG。最後にララ、鉾島内ではシスター服、外では学生服と彼女の私服は見た事がない。三人揃って流行のファッションなどてんで疎いのである。

「て駄目じゃねぇか! 俺たちがそろっても水花の服選びなんて偉そうなこと言えねぇ」

「そうだな。集まる前に何が目的か聞いておくべきだった」

「つーか、お前らと何で行く事になったんだっけ?」

「トーキが『水花には何の服が似合うかわからねぇなぁ』ってぼやいてたから、俺も行こうかって聞いたら、じゃあ頼むって言ったんじゃないか」

「ワタシは日曜日に中央区に行くという話しを聞いてついて行くと言ったんだったな」

「ったく、こういう時に俺たちのコミュ力の低さが問題だな」

 せめてまともな友人が一人でもいればと嘆いた透器であった。

「って、オマエ。ヒメがいるじゃん。なんでアイツ呼ばなかったの?」

 透器にとって幼馴染なら、モチロン金時朗にとってもそうである。このメンツの中では彼女が一番普通なのは間違いないだろう。事実、彼女は機会があれば透器の私服に口を挟んでくるのであった。

「ああ、電話したら今日は病院で検査だってよ」

「そういえばトーキ。ヒメちゃんは何で入院してたんですか?」

 訊ねられた透器は苦々しげな表情を作って頭を掻いた。

「それが原因不明なんだよ。なんか急にぶっ倒れて、そのまま病院に搬送。数日間意識不明が続いたんだが何とか持ち直したんだよ」

「あの時のトーキの顔は死にそうな程に青ざめていたな」

「あれから一ヶ月ぐらいだよね?」

「ああ、二週間ぐらい入院してたからな。まったく無事でよかったよ」

 透器は心底安堵したように息を吐いた。

そこには本当の妹を思いやるような、優しさが籠っていた。

「トーキにもちゃんと家族がいるんですね」

「なっ……バッ……」

 急に恥ずかしいセリフを言われ慌てふためく透器。その慌てぶりをララと金時朗はニヤニヤと笑って観察。そして当の発言者は透器の動揺がよく分らず小さく首を傾げている。

(何で、そうストレートに言っちゃうかなぁ)

 しかし、その言葉には考えさせられるところがあった。

透器は家族を失ってどこか塞ぎこんでいた部分が自分にはあったと思っている。だから最終的に龍太の誘いに乗って無茶な仕事で虚しさを紛らわせていたのだと。

しかし、実際にはどうだ? 透器の周りには友がいて、甲斐甲斐しく自分の世話を焼いていた妹がいたのだ。彼はその事に気付いていなかったのだ。

(今さらになって気付くなんて度し難い阿呆だな……。本当に厨ニじゃねぇか)

 自分が悲劇の主人公を気取り、他人よりも鍛えられてことを鼻にかけ、無茶苦茶を繰り返してきたことが急に恥ずかしくなった。

「トーキどうした? なんか顔が尋常じゃないくらいに真っ赤だよ?」

「うっせぇなぁ。今自分が物凄く恥ずかしい奴だったと気付いたんだよ」

「大丈夫だ、トーキ。キミが恥ずかしい奴だという事は多くの人が知っている」

「マジで! 俺ってそんなに目立ってたかッ? っていうか、ララ。お前だってさっき物凄い恥ずかしい過去をバラされたからなッ!」

「黙れッ!」

 パシンッ! ララの下段蹴りが鞭の様にしなり、透器の脹脛を打ちつけた。

それは非常に小気味の良い音をたて、透器はあまりの痛さに脹脛を押えて跳ね回った。

「このアマぁ……」

「もう……。喧嘩は駄目ですよ。トーキ」

「お前、被害者はどっちかと言うと俺だよな?」

「いえ、女性には優しくするものですよ」

「ああ、世間が冷たい……」

「俺は君のことが本当に大切だよ水花ちゃん。だから俺と結婚しよう」

「ごめんさい」

「真顔で振られたッ!」

 ドサクサに紛れて水花を落としにかかった金時朗は、彼女のコンマ一秒も逡巡の無い答えに瞬殺されてしまい、通りの端っこで膝を抱えていじけてしまった。

悲しい点は、あくまでボケのつもりだったのに、真剣に返されてしまった事……。

「ところで、あれはなんですか?」

「ん? あれはゲームセンターだな」

「成程あれが話しに聞くゲームセンターですか……」

 幾十もの電子音が重なり合い無秩序に奏でられたシンフォニーはまさに混沌。

しかし、その賑やかさと彩り豊かなビックリ箱たちは人を引きつける。水花もそんな一人だった。最早、彼女の視線はそれらに釘付けであった。

「そんなに興味があるなら寄っていくか?」

「是非!」

 UFOキャッチャー、プリクラ、アーケードゲーム機、様々な物が、遊んでくれよと手招きをしている。一度はまったら最後、財布の小銭が軽くなるまで抜け出せない。

 水花はララと連れ立ってプリクラへと入っていった。別に一緒に写りたいわけではないので、透器は金時朗を放置してゲームセンター内を散策してみることにした。

(あんまり縁のないところだからなぁ)

 透器も金時朗もゲームは家でする派の人間であり、UFOキャッチャーなどのアミューズ系も自分たちの実力を熟知しているので最早手を出さなかった。

 しかしこの時、透器は運命的な出会いを果たしてしまった。彼の目に止まったのは何の変哲も無いヌイグルミキャッチャー。その商品はなんともブサイクなドラゴンのヌイグルミだった。

 極限までデフォルメされたまん丸体形。目は妙に垂れてヤル気を感じられず、むしろ殴りたくなる衝動に駆られる。口からは炎を吐いているのだが、設置の問題か、口から下方に折り曲げられまるで血を吐いているようだった。こんなブサイクなドラゴンがいていいのだろうか?

 透器はそのドラゴンをじっと見詰める。更にじっと見詰める。

そこで自分の想いに気がついた……。

(あれ? こいつ可愛くねぇ?)

 何故か透器はそう感じてしまった。彼は、目が垂れてるくせに、上を向いて誇らしげなその表情が妙に気に入ってしまったのだ。

「この子可愛いですね」

 長いこと見詰めていたのだろう。プリクラを取り終えた水花が横に立っていた。

その後ろにララと金時朗。彼らはこのドラゴンを見るなり噴出した。

「ミィ、流石にそれはおべっかだ! なんだその腑抜けた顔は。何故か殴りたくなる」

「ぶははははは。メチャおもしろいよ、ソイツの顔」

(くそぉ、コイツだってなぁ、好きでこんな顔に生まれてきたんじゃないんだぞッ!)

 ゲラゲラと馬鹿笑いの金時朗と小馬鹿にした顔のララに対し、透器は内心でドラゴンを擁護した。そんな透器の服の袖を水花は軽く引っ張った。

「トーキ、これはどうやって取るのですか?」

「ん? まず金を入れてだな……」

 透器は五百円玉を入れてから、水花に操作を教えた。初心者にしては腕がよく、キャッチャーのアームがしっかりとドラゴンを掴んだ。しかし、ここがゲーセンのいやなところ。

アームの力が弱すぎ、ドラゴンの自重に耐え切れず落ちてしまった。

「ムムム。トーキもう一度です」

 しかし、アームの力が弱すぎて取ることが不可能だということは一目瞭然である。透器は諦めるように諭そうかと思ったが、彼女の眼に自身が溢れていたので、何も言わずに硬貨を投入した。

「ふふふ。かならず手に入れて見せます」

 キャッチャーの動きは先ほどと変わらず、見事な操作でドラゴンを掴んだ。しかし問題はそこからだ。だが、それを見守っていた三人は驚くべき光景を目の当りにした。

 アームがドラゴンをはなすことなく輸送し、穴へと落としたのだ。どう考えても先ほど同等のアームの力とは思えない。その明らかにおかしな現象にララと金時朗は困惑している。

水花の使ったカラクリに覚えのある透器は彼女に小声で話しかけた。

「……お前、何かしただろ?」

「はい、どうやら掴む力が弱かったようなので、あの掴むのがドラゴンにふれた瞬間、その接触点に粘着性の水を発生させて引っ付けたんですよ」

「ちょ、お前、そんな事に力を使うなよ。バレたらどうするんだよ」

「大丈夫ですよ。こんなのでバレませんって」

 二人のヒソヒソ話を金時朗たちが訝しんでいる事に気付きあわてて離れた。

「さて、何故かこのブサイクなドラゴンも手に入れたことだし次いくか、次!」

「そうですね、行きましょう!」

「お? おう」

 妙に張り切りだした二人に戸惑いながらもついて行く金時朗。

しかしこの時、ララの水花を見詰める眼差しだけは少し鋭かった。それは、まるで……


「ふむ、こんなモノか」

「色々いきましたねぇ」

 太陽が地平へと傾き、少しばかり涼しくなった夕方。四人はフロントステーションへと戻ってきていた。ここはバスの発着口でもあるため、鉾島に戻るためにはここからバスに乗らなくてはいけないのだ。

 それにしても、4人の表情には疲労に色が浮かんでいた。それも無理からぬことだろう。どこにいってワラワラしている人ごみの中を五時間近くも放浪したのだ。各々が各々の寄りたいところに行っていたら、あっと言う間にこんな時間になってしまったの。最初ここに集合した時よりも皆それぞれ荷物が増えていた。どうやら釣果は上々のようだ。

「いやぁ、まさか初回はもう無いと思っていたエロゲー『デッドモラルファイターズ』がまだ売ってたなんて、俺は幸せだなぁ」

「トーキ……、キミはもう黙っていろ……」

 この透器という男は女子がいることもお構いなしにエロゲー専門店に入っていき、知らずに入ったララと水花から非難と処罰を受けたのであった。ちなみに、未成年の彼ら、しかも制服着用のララがそういった店に入れたのはオフレコにして欲しい。

 モチロン、当初の目的であった水花の服という問題も、彼女自身が気に入った物を選ぶという形で解決した。因みに、買った服は清楚感ただよう白で無地のノースリブワンピースとそれに合わせたサンダル、以下割愛である。

「さっそく帰ったら着てみましょう」

 と興奮するほどに気にいったようだった。それも無理からぬことだろう。

彼女にしてみれば、友人と一緒にガヤガヤと話しをしながら、頭を悩ませ、自分が気に入った服を買うという一連の行動は初めての体験であったのだから。

「ミィ、その服を着ているところを見る日を楽しみにしているぞ。また、出かけよう。そうだな。今度はやかましいヤロウどもは抜きにしてだ」

「はい、楽しみにしています」

「ひっで~な~。俺とも行こうよ水花ちゃん!」

「そうですね、気が向いたら」

「残念だったな、キン。どうやらその日は一生来そうにもないぜ」

「クッソォォォォォォォォ!」

 相も変わらずに騒いでいると、鉾島行きのバスがやってきた。

それに次々と乗り込むんでいくが、透器だけはその場から動かなかった。

「トーキ、乗らないんですか?」

「わりぃな、ちょい一人での用事があるから先に帰ってくれ。鍵は持ってるだろ?」

「別にいいですけど、直ぐに帰ってくるんですか?」

「ああ、夕飯も買って帰るさ」

「分りました」

「なんだよトーキ、一人でオタクショップ巡りかよ?」

「うっせぇ、バーカ!」

 乗車口の扉が閉まりバスが発車した。金時朗が最後に何か喚いていたようだが、透器はまるで興味が無かったので、気にも留めずに歩き出した。目的であるその店へと。


 透器が家に着いたのは水花たちと別れてから一時間後の夜七時を過ぎたぐらいだった。

 いつもは六時に晩飯を済ませているので、透器が居間に入った時には、腹を空かせた水花がデローンとテーブルでだれていた。

「おそいですよトーキ。お腹が減りました。もう一㎜も動けません。ああ、私はこのまま餓死してしまうのですね……。許してくださいツバキ、私は夢を叶えられませんでした」

 まるで舞台女優のように高らかに片腕を上げ揚揚と台詞を歌い上げる水花。

透器は、既に一㎜以上動いてるじゃん、という突っ込みを野暮なのでしなかった。

「悪かったな。これが今日の晩飯だ」

「ぬぉぉぉぉぉぉ、これはッ!」

 水花の大好物である、ホット○ットの得からあげ弁当と、ミニうどんだった。

(こいつ、神様のクセに何の変哲もない食べ物が好きだよなぁ。いや、おいしんだけどさ)

 水花は割り箸を綺麗に折る為に精神を集中させ、裂くッ! 

見事綺麗に割った事に機嫌を良くしたのか、鼻歌交じりで割り箸の裂けた部分を削り整えると、レモンかけてからから揚げを口に運んで一言。

「おいしいですッ!」

 彼女の何とも至福そうな顔をした。ちなみにコショウをかけないのが彼女のスタイルだ。

本当に幸せそうな顔の彼女。しかし、透器はその表情を見るたびに満足感と、果してこんな食生活でいいのかという強迫観念に駆り立てられるのであった。

透器にしてみれば、華の女子高生がからあげ弁当如きでこんなに満足そうにしているのが不憫でしかたないのである。せめて家庭の味を知って欲しいと考えているのだ。

(いや、本当においしいんですけどね、ホット○ットさん)

「トーキも早く食べて下さい。一人で食事をしてもおいしくありません」

(お前凄く幸せそうな顔をしてたから! むしろ勝手に食べ始めたのお前だからッ!)

 その愚痴はそっと心にしまった透器であった。

「そういえばヘッポゴンのことなんですけど」

「……はぁ? 何だって?」

 黙々と食事をしていたら、水花が思い出したように話し始めた。透器は耳慣れないその名称に思わず聞き返してしまった。あまりにもふざけたワードに耳を疑った透器であった。

「あの、ゲームセンターで取ったヌイグルミがあるじゃないですか? あれの名前がヘッポゴンというらしいんですよ」

「……アレ、そんな名前だったのか……」

 あまりの不憫さに透器は少しウルりときた。製作者はそんな名前で本当に愛されると思ったのだろうか。小一時間問い詰めたい気分に駆られたのだった。

「あの子他にも仲間が居るそうなんですよ。今度また一緒にゲームセンターにいってもらえませんか?」

「ああ、そんなことなら別にいいぜ」

 果して彼らがいく時に、まだそのヌイグルミたちがあるのかという問題があるのだが。

 しかし、もしも、あれに似たヘニョイ感じの割りにやたらと誇らしげに視線を上げるヌイグルミたちをそろえることが出来たのなら、何かこう……、遣り遂げた感があるのではないか、と透器は思った。

「そういや、今日は楽しかったか?」

「はい、こう、皆さんともっと仲良くなりたいと思いました。いつか皆さんのように親友(とも)っていえるようになりたいです」

「あんな連中だ。そうなる日は遠くないさ」

「そうですねッ!」

 嬉しそうに相槌を打つと、ミニうどんのスープを一気に飲み干した、ゴミを片付けるとそのまま二階に上がっていった。取り残された透器は一人ポツンと飯を食うことになった。

「あいつ、一人で飯を食うのはマズイと言ったわりに、俺を完全放置しやがった……。ふんッ! もう食べ終わるから別にいいし。そもそも一人で飯を食ったってマズくないし。

 って俺、何で独り言いってるんだ。マジ虚しいし……」

 急に寂しくなった透器は残った弁当を口に掻き入れ、ゴミを片付けると、何となく、そのまま居間であったかいお茶を飲みながらテレビを見る事にした。

「あったかいお茶はウマイねぇ……夏だけど……」

 まるで年寄りになった心地で、興味の無いバラエティ番組を見る。

そうしていた所、突如、居間の襖が勢い良く開き、水花が登場した。

「どうですかトーキッ?!」

 水花が興奮げに意見を求めてきたのは、彼女が来ている服のことだろう。

それは今日買ったものであった。彼女はノースリーブで純白のワンピースのスカートの両端を掴んで持ち上げ、ヒラヒラと動かしてみた。

「…………」

「あの? 何か言って下さいよ」

「……ハッ! おっ……おう。すんげぇ似合ってるぜ。本当だ」

「本当ですかぁ?」

「ホントだって!」

 この時、透器は自分の動揺を隠すのに必死だった。

(真夏に純白のワンピース……。黒が水花自身の色を引き立てるのに対して、こっちは完全な調和をもたらし、より清楚で可憐になった感じだ。まさにサマーブリーズ。男なら誰もが憧れる白きお嬢様。なんというか明日にでも向日葵畑に行きたくなりますね。まったく……。)

「トーキどうしたんですか? 顔がゆでタコのように真っ赤ですよ」

「おおお俺に構うな! ちょっとそこで待てッ」

 透器はスクッと立ち上がると脱兎のごとき勢いで自室へと向かい、何かを持って降りてきた。水花はそれが何なのか袋の上からは分らずに首をかしげた。

「これなんですか?」

「俺からのプレゼントだ」

「ありがとうございますッ! ……これ、は……ナンデショウカ?」

 ソレを手に取り、見て、急にカタコトになる水花。それも当然だろう。彼女が持っているのは青と白を基調にしたフリフリの服。いわゆる魔法少女などに見られるなんともファンシーでキュートなコスチュームである。しかも、スカートの丈がすンごく短い。

「……あの、トーキ。これを私にどうしろと」

「モチロン着てくれ」

「いやです」

「……フッフッフッ……」

「なんですか、その不気味な笑いは……」

 透器は即断されることなど言う前から予想していた。故に、次なる一手で彼女が間違いなく頼みを聞かなければなくなることも確信していた。そして、その1手を用いた。

「……ああ、不幸だ……。我が家の同居人は家事がまったくできないので、私が大体をやっているのです……」

「うっ……、それは……グヌヌヌ」

 その点は水花も気にしていたところだ。自分の家事に対する才能のなさを恥じ、そういった条件で住まわせてくれた透器に対して申し訳なく感じているところだ。

 故に、物欲しげなすえた目をした透器に、水花はシブシブ了承した。

「着るのはいいですけど、これ下着が見えるのではないですか? 魔法少女は不思議な力で見えませんけど、私はそういった力は持ち合わせていないので」

「大丈夫だ、抜かりはないぜ。特別にスパッツを着ることを許可しよう」

「……変態の分際で偉そうに……」

「ん? 何かいったか?」

「いえ、ただ地獄に堕ちてくれないかなと」

「賢者モードの俺の前ではそんな罵詈雑言なぞ微風だ」

「……まったく」

 着替えのために部屋を出てから五分後、そのコスチュームを見事に着こなした水花が入ってきた。察してもらえるだろうが、彼女の瞳は死んだ魚のように濁っている。

「ところで、これ何のキャラクターなんですか?」

「伝説の神アニメ、光撃魔法少女プリズミ☆マギの主人公、光杉アオノちゃんの魔法少女モード タイプ1だ」

「その……私に着せるということは、似てるんですか? 私と」

「いや全然」

「えぇぇ……」

 てっきり自分がそのキャラクターに似ているからコスプレさせられたのだと考えていた水花は、予想外の答えに困惑した。

「では何でこんな物を着せたんですか」

「……それは……」

 透器はコスプレ水花をジッと見詰めている。その目つきが何というか、あまりにも飢えた獣然としていたので、水花は自分の身が非常に危険ではないかと感じ身構えた。

「……あの、トーキ?」

「か……可愛いじゃねぇぇぇぇぇぇかぁぁぁぁぁぁぁ」

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」

 何と理性を失った透器が大手を広げて飛びかかって来たのである。

 水花は即座に水弾で透器を打ち落とす。しかし、暴走状態の透器はまるで先日戦った悪霊のようなキモチワルイ動きで水花に再接近。彼女は再び水弾をぶつけ、それが炸裂。飛沫を上げて透器は壁に叩きつけられた。

「グヘッ……ハッ! 俺は一体何をしていたんだ……」

「トーキ。最後に何か言い残すことはありませんか……?」

 憤怒に駆られた水花の背後には仁王の幻像が浮かんでいる。正気を失っていた間の記憶が曖昧な透器は、何故そんなに彼女が切れているのか分らず、ただ、その圧力に震えるのみ。そして審判が下された……。

「へッ? インギャァァァァァァアァ」

 語るべくも無く透器はボコボコにお仕置きされました。

「……それでさっきのアレは何だったんですか? まるで人が違っていましたが。もしかしてトーキも悪霊に取り付かれているんですか?」

「それは違う……と俺も思いたい。あの衣装はな、日頃お前を見てたら、こう……、折角の美少女なんだし、コスプレさせたら可愛いかなと思ってな。今日はそれを実行してみたんだよ」

「……何といいますか、色々とコメントしづらいですね。それで何故あのような行動を取ったか分らないと?」

「コスプレした水花を見てたらな、ある衝動が込み上げてきてさ。ほら、あるだろ? 可愛い猫を見つけたときとか、可愛い犬を見つけたときとか、可愛い二次元幼女を見つけたときとか、頭を撫でたくなる衝動。アレに似てるな」

「最後のだけは理解できませんでしたが、概ねは。つまり、コスプレした私があんまりにも可愛かったから抱きしめようとしたと。……今の科白、自分で言ったらすごくナルシストな感じがしてイヤです」

「まったく……実に似合ってたぜ。似てないけど」

「……着ろと言うのでしたらコスプレぐらいしてあげますけど、襲い掛かってはこないで下さいね」

「はぁぁぁぁぁぁ? 着て、くれるのか?」

 彼女からでた思い掛けない言葉に我が耳を疑った透器は沸きあがってくる歓喜と底知れぬ気味悪さに、どうもビクビクとした反応を返してしまった。

「私だって家事が出来なくて悪いと思ってるんですよ? 服を着るぐらいならいいでしょう。すんごくイヤですけど。ただし露出が激しいのは着ませんよ」

「ふっ、俺も三次元に少し心を許すとは……。絆されちまったぜ……」

「大人しく二次元を愛でてくれている方が私にとっても安全ですけどね……」

 水花は頭のおかしくなった透器を思い出して身震いした。

「悪かったって。本当はソレがついでで、これが目的の物なんだよ」

 そう言ってもう一つ、えらく凝った外装のアタッシュケースを差し出した。

しかし、水花は先ほどの例があるので、目を細めて疑いの眼差しを送った。

「ちげぇよ! いいから見てみろよ」

「……わかりましたよ」

 そしてそのケースから取り出されたのは、ゴスロリを取り入れ、尚且つシックさも保った、何ともフェミニンな漆黒のロングワンピースだった。

「特注品で俺と同じ防弾・防刃の新素材でつくってあるんだぜ。まあ、ノースリーブっていう違いはあるが、お前がワンピースを選んで被ったときはちょっとへこんだけどな」

「……これは」

「前言ってたろ? 制服が欲しいってな。それがそうだ」

「トーキッ! ありがとうございますッ! 早速着てみましょう」

 大分気に入ったようで、着替えるために居間から飛び出していった。こうまで喜んでもらえるとデザインを考えた透器としては感無量である。そう、彼があの服を書き下ろしたのだ。趣味が絡むと無駄な才能を発揮する透器であった。

(アルターセ○バーとエセルド○ーダ、水○灯のフィギュアを眺めながら、頭を悩ましたかいがあるもんだ)

 透器が、自分の困難に立ち向かい、それを乗り越えた苦労と充足の日々を思い出しし、しみじみとしていた所、着替えを終えた水花がやって来た。

「どうですか透器? 似合ってますか?」

「ああ、いい感じだ」

 その佇まいは透器の様相通りの出来栄えで、予想以上の美しさだった。やはり色白の彼女が黒を切ると実に生える。まるでビスクドールが人になったような、耽美に値する姿である。透器は彼女をそのまま飾りたいという衝動に駆られたほどである。

 しかし、一方の水花はどうやら彼の本能が不満のようだ。

「褒めるわりには変態化しないんですね」

「……おい。変態化ってなんだ」

「先ほどのように、異常興奮と共に我を失いセクハラ行動を行う状態のことです」

 水花は先ほどの気持ち悪い透器の所行を当分許しそうにない気配である。

とはいえ、水花が本当に言いたいことはそれではないのだが。

「はっはぁん。お前、俺のリアクションがコスプレの時より淡白だから気に入らないんだろ? あれは俺の抑圧された欲望が、コスプレという二次元と三次元の境界を曖昧にする行為によって、水花に噴出したと推測している。つまり、あれは何というか暴走だ。何がいいたいかというとだな……、今のお前はメッチャ可愛い」

 言った本人は勿論、言われた方も、互いに顔を真っ赤にして照れている。

変な空気と気まずい沈黙が僅かの間流れた。

「わ……私、お風呂に入ります」

「おう。……オイッ!」

 水花が慌てて居間から出て行こうとしたとき、彼女は足元に落ちていたホット○ットのビニール袋を踏んづけ滑った。彼女の頭の落下位置にテーブルがあり、その上に急須が置いてある。倒れこんだらマズイ事になるだろう。

 透器は飛び込んで水花を抱きとめると、そのまま畳みの上を二人して転がった。

そして、透器が気がついた時には、着衣の乱れがある水花を強引に押し倒している自分という、インモラルな感じの体勢になっていた。

ガラッ

 襖の開く音がし二人がそちら側に視線を送ると、そこにはやはり陽芽が立っていた。

「……私が来るといつもそうしてるけど……ひょっとして、毎日お盛んなの? ……避妊はちゃんとしたほうがいいよ……」

 それだけ述べると、何事も無かったように襖を閉めた。

透器は慌てて立ち上がると、廊下に出て陽芽を引き止めた。

「ってちょっと待て! お前の誤解だからッ! つうか、さっさと帰るな。コッチこい」

「……エエー……」

 透器が陽芽を居間に引っ張り込んだとき、服の乱れを直した水花が何事も無かったかのようなすまし顔で3人分のお茶を入れていた。

「ヒメちゃん、どうぞ」

「……ありがとうハルねぇ。でも、夏なのに熱いお茶なんだね……」

「うっせなぁ。我が家は一年中、ホットなんだよ」

「……ジジィくさい……」

 しかし、文句はいいながらもお茶をすする陽芽。表情こそ変わらないが何処と無く満足そうである。とはいえ、その様は透器を非難できないほどババくさい。

「しかし、陽芽。来たなら直ぐに帰るなよ。そもそもお前、体の方はもういいのか?」

「……もう大丈夫。元気全開。それを伝えようと思って来た……」

「メールでもいいじゃねぇか?」

「……疎い……」

「お前なぁ。そんなんじゃこれから生きていけないぞ」

「……大丈夫、私は家のケーキ屋を継ぐから……。接客はハルねぇに……」

「私でよければ手伝いますよ」

「勝手に話を進めるんじゃねぇ」

「それにしても、ヒメちゃんの家はケーキ屋さんなんですね?」

「……そう。柊洋菓子店。是非ご贔屓に……」

 陽芽の家は祖父の代から洋菓子店を営んでおり、ご近所さんでは知らぬ者がいない老舗である。この陽芽はその柊家の一人娘であり、この年で既に幾つかの大きな大会で賞を取っている天才パティシエなのである。

「……ところで、明日からまた晩御飯つくりにこようか?」

「いや、いいよ。お前だってまだ病み上がりだろうしな」

「……今日の晩御飯も弁当だね……」

『うっ』

 鋭い指摘に二人は唸った。透器は陽芽が入院してからというもの、市販の弁当かカップラーメンしか食べていないのだ。となれば水花も同様である。

「……母さんから伝言『陽芽を派遣するのでちゃんとした食事を作ってもらいなさい』だそう……言いたい事は……?」

 透器は祖父共々、両親と妹を事故で失ってから柊家に何かと世話になっており、とりわけ柊家母、柊真夏さんに決して頭が上がらないのである。

「……分りました。是非お願いします」

「……素直でよろしい……」

「ところでヒメちゃん。お願いがあるんですけど」

「ん?」

「私に料理を教えて下さい」

 そのお願いに陽芽はコクリと頷いた。しかし、そんな事を決して認められないのが透器であった。彼は水花の家事に関するスキルの壊滅的な様をマジマジと見ており、かつ、水花の料理を食べて死に掛けたのである。いくら陽芽が料理に関しても芸があるとはいえ、それを改善できるとは思えない。

しかも、陽芽は天才肌である。つまり、概念でアレコレを行っているため、一度(ひとたび)他人にその技術を伝えるとなれば、上手く説明ができず、しどろもどろになるのだ。

そう、彼女は人に何かを教えるということに関しては弩ヘタなのである。

「いや、だめだ。絶対だめだ」

「トーキどうしてですか!」

「お前が作った神がかり的な暗黒物質を思い出してみても同じことがいえるか? うんん?」

「……いやぁ」

「だろうが? だからだ陽芽、俺に料理を教えてくれ」

『ハッ?』

 水花と出会ってから早ニ週間、透器はずっと考えていた。同居人も増え、家庭環境、特に食事を改めるべきではないのかと。今までは陽芽に頼りきりだったが、これを機会に独力で暮らしていけるようにし、柊家にこれ以上の迷惑をかけないようにするべきではないかと。そして、それの第一歩として今が最高のタイミングだと判断したのだ。

「イヤだ」

「はっ?」

 陽芽にしては珍しくハッキリとした声音で拒否された。

そんな返事を予想していなかった透器は口を開けっ放しのままで呆然としていた。

「いやいやいや、何でだよッ! 理由は?」

「イヤなものはイヤだ」

「えぇぇ……」

 ここまでハッキリと拒絶されてしまうとそれ以上の追求は出来ない。透器は頭を掻くと説得の手段がないかと思案した。しかし、彼女がここまで強固な意志を示すのは実に珍しい。結局は諦め、前々からの心配事について訊ねることにした。

「ところで陽芽。お前、友達できたのか?」

 透器のその問いに陽芽は沈黙を貫いた。それが答えだろう。

 透器の妹の調が両親と共に事故で死んで早三年。それまでも陽芽の唯一の友達は調だけで、それ以降も何度か尋ねてみても色よい返事が返ってきたことはない。何時まで経っても同年の友人ができない陽芽を心配しているのだ。

(ララの時もそうだったが、一人ってのは良くねぇよなぁ)

「……私はとうにぃとララさん、変態とハルねぇだけでいい……」

 透器の考えを見抜いてか、それだけを言うと立ち上がり部屋から出て行った。

「あの? まだ七時半とはいえ女の子ですし、送った方がいいんじゃないですか?」

「ああ。別に大丈夫だろ。あいつの家どこにあるか知ってるか?」

「そういえば知りませんね」

「我が白風探偵事務所の三軒隣だよ。ホントに知らなかったのかよ!」

「あんまり出歩いていませんからね」

(じゃあどうやって物をそろえたんだよッ! 通販か? 通販なのか? いつそんなに荷物が届いたんだよ! ああ分らん)

 謎の資金源といい、水花の謎は深まるばかりであった。

「ところでトーキも料理の練習をするんですか?」

「ああ、そのつもりだぜ」

「なら、一緒に頑張りましょう!」

 晴れやかに笑ってサムズアップをする水花。どうやら諦めていなかったようだ。

「おう。しゃぁねぇなぁ」

 透器もそんな水花に止めろと言えず、サムズアップを返した。それが明確にハズレな選択肢である事など百も承知であった。それでも挑戦する心を大切にしたと考えた透器であった。


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