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序章

この小説は、第8回MF文庫Jライトノベル新人賞、第3期予備審査に3次落選した小説です。どなたかに読んでもらいたいのでここに投稿します。感想を期待の眼差しで待っています。些細な事でいいのでドンドンお願いします! この作品が皆様の何らかの肥しになり、お楽しみいただければ光栄です!

 注:相変わらずのやっつけ仕様なので、PCで読んでください。それでも、誤字脱字や謎の段落変更などかあるかもしれませんが、広い心でお許しください。

 水神様を奉れ!! GOD HELP YOU  

 追想1 彼の場合

(ここはアマゾンかっての……)

 彼が彼女からその言葉を伝えられたとき、晴天だった空模様はいつの間にか土砂降りに変わっていた。

 まるで天が彼の痛みを受けて泣き出したような、激しく咽ぶスコール。

(ったく、泣きたいのはコッチだっての)

 向かい合う彼と彼女。強にしたシャワーのように硬質な水滴が彼らを叩きつけるが、そこを立ち去る気配も無い。

彼はただ無表情に彼女を眺め、しかし彼女の表情は雨で濡れ張り付いた前髪で伺うこともできない。

「なあ、もう一度言ってくれ……」

 彼は壊れそうな心を繋ぎ合わせ、せめてもの言葉を紡いだ。

「……何度でも言ってあげるよ。トーキに興味がなくなったの。だから、別れる」

 彼は少し俯いて彼女の姿を視界から消し去る。そんな事に意味なんてない。それは彼も重々に承知していた。

それでも直視できずにその姿からも逃げ出した。

「そんな訳の分からない理由で俺とお前は終わりなのかよ?」

「そうだよ。それにトーキだって見てたんでしょ? アタシと勇真がキスしてたとこ」

――ズクン。心臓が一際雄々しく暴れたのが分った。顔に血が上っていっていることも。

(あいつ……、そんな名前なのかよ)

 彼と彼女は幼馴染だった。互いに物心ついた時から知っている。全てを知っている気だった。

だがそれも所詮は気のせいだった。自分の彼女だと思っていた彼女は、つい一昨

 日に彼の知らない誰かと口付けを交わしていた。

――しかも彼らが見ている事を知った上で。

「もういいよね? アタシは行くから」

 もう何も掛ける言葉は無かった。どんな言葉を掛けたところで彼女がもう一度彼の手を握ってくれる光景が思い描けなかった。暖かかった彼女の手。それを求めるように手を強く握り締める。返ってきたのは爪が掌に食い込む痛みだけだった。

 今、彼の中で葛藤が渦巻いている。ひょっとしたら。しかし。希望と絶望が綯い交ぜになり、結果、彼の足をそこに釘付けにする。そして、残った確かなカタチは自虐。

(俺の想いなんて所詮その程度だったのかよ……)

 開いては音を出さずに閉じる唇。その開閉の数ほど彼女との距離は開く。

 離れていく見慣れた背中をただ他人事のように眺めていた。熱病に浮かされたように平衡感覚を失った頭で、ただ願うのは、具体例の無い都合の良い奇跡。

 不意に彼女が振り返った。しかし強い雨のヴェールに覆い隠され、その表情はやはり見えない。故に彼は期待する。少しは自分の事で彼女が傷ついているのではないかと。それはどうしようもない自己愛のであった。

「やっぱりね……。トーキには失望したよ」

 その言葉は勝手な期待で磨かれた刃であり、より深く彼を切り裂いた。

「アタシね……、トーキが――を克服できたなら……」

 彼女は、涙を流す空を見上げて本当の心をボソボソと呟いたが、その想いは雨に打ち消されて彼に届かず、結局、その言の葉は最後まで結ばれることなく切れた。

 やはり見えない彼女の表情。彼が幾ら目を凝らした所でそれは像を結ばない。彼女の表情が見たいなら彼がするべき一つは実に些細な事だった。しかし、駆け寄りたいという衝動は彼の自己保存の精神(おくびょう)に打ち勝てず、ただその場に立ち尽くすのみ。

 故にそれは彼が聞く彼女の最後の言葉になった。

「サヨナラ」

 心とは、時に強く、時に儚く、時に熱く、時に冷たく、揺れ動くが故に尊いのだ。


 追想2 彼女の場合

 白く煙る霧の中、二人の少女が居た。仮に彼女たちを銀の少女、金の少女と呼ぶとしよう。ここは深く昏い森の中、そして何より、この濛々と立ち込める白霧が視界を飲み込み、何処に誰が居ようとただ一切を覆い隠すのみ。それ故にここに居るのは彼女たちだけだといってもおかしくはないだろう。何故ならば誰も彼女たちに辿り着けないのだから。

「本当にいくの、ギンカ?」

「本当にいくんですよ、ツバキ」

 金の少女はただ確認するように問い掛け、銀の少女はそれに真っ直ぐに応えた。

「この世界は面白くありません。ツバキも感じるでしょう? 死んでいく心の悲鳴を」

「……それが我々よ。甘んじて、……いいえ、それが普通なのよ。それに探せば幾らでも見つかるでしょう? 心の動かす何かは」

 銀の少女は、金の少女の言葉を深慮するように手を顎にやり、首を少し傾けて何やら唸

 ってみた。しかし、彼女の答えは覆らない。その為に思考の時間もそうは長くなかった。

「……それでも私は行きたいんですよ」

「次に行ったら、あんたは封印よ。言い切れる、絶対だって」

 ここで初めて金の少女は強い意思を表した。それは銀の少女を何よりも大切に思い、

 それ故に強固な、彼女の身を案じる切なる想い。

 しかし、それに対しても銀の少女はケセラセラと笑い飛ばすのみ。

「そうでしょうね。長老も厄介者を大手を振って消し去れると大喜びでしょう。……いや、

 そもそも私を捜索するのも手間ですから、そこら辺で野たれ死んだことにするんじゃない

 でしょうか? どうせもう……」

「……笑い事じゃないわよ。私は――」

 金の少女の言葉を遮ったのは、彼女の唇に添えられた銀の少女の人差し指だった。

「誤魔化していました。ごめんなさい。私は知りたいのですよ、あの時に感じた胸の鼓動

 の正体を。だから行きたいんです、そして、それは誰にも止められません」

 そう言って指を離した彼女を金の少女は軽い溜息と共に肩をすくめ、抱きしめた。

「く……苦しいですよ、ツバキ」

「いいじゃない、これが最後かもしれないんだから」

「……ツバキ……」

 少女たちは長い時間そうやって互いの体温を感じあった。ここに確かに親友(とも)が居た事を

 忘れないために。

「……そろそろ時間ね。私はついていかない。あんたの覚悟を尊重するからよ」

「ホントはついて来てほしいです」

「……あんた……その科白は台無しよ」

「冗談に決まってるじゃないですか」

 銀の少女は軽く戯けて見せて、金の少女はそんな彼女に優しく微笑みかけた。

 何気ない、今まで幾度と無く繰り返されてきた遣り取り。しかし、心穏やかになれる瞬間。その大切さは失われる間際に立って漸くその価値を理解できる。

 二人は途切れさせまいと普段どおりの話を、普段以上の饒舌さで話した。

『時間(です)ね』

 時は来た。二人の言葉が重なり合ったとき、虚空が、コーヒーに入れたミルクをかき混ぜた時のように斑に歪み、そしてそれはあらゆる光も逃がさずに漆黒の球となった。

 曰く、『愚者の門』。この世の伝承ではここを潜りし者は、ヨモツヒラサカよりも恐ろし

 き、終わりある世界ヘと辿り着く。だが、探求者は知る、儚いが故に眩いのだという真実を。そう、銀の少女こそが探求者。未知に胸をときめかせる者。例え辿り着いた先に望んだ未来が無かろうとも、踏み出す一歩こそが尊いと誓い、旅立つ者。

『サヨナラ』

 永き時を共にした親友(とも)同士は、清々しくも物悲しいその響きを共にし、道を違えた。

 心とは、時に優しく、時に激しく、時に声高に、時に黙し、歌うが故に美しいのだ。

「だけど、あんたは知らないのよね。あんたはどうしようもなくこの世界の住人で、あんたの望み人は既にもう……」


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