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明日から史上最強の萌えキャラ  作者: 秋華(秋山 華道)
22/25

戦士愛美

 文化祭当日の朝、俺が愛美を迎えに行くと、愛美の母親が、

「娘の晴れ姿、これで撮影してきて」

 と言いながら、弟の雄太を差し出してきた。

 いや、いくら俺でも、雄太で撮影するのは無理だって。

 まったく、流石愛美の母親だ。

 天然ボケは母親譲りだったか。

 とにかく俺は雄太を返して、ビデオカメラを代わりに受け取って、愛美と共に学校に向かった。

 愛美は少し緊張しているのか、最近は鳴りを潜めていたドジも、時々顔をのぞかせた。

 だが、これくらいのドジがある方が、きっとみんな萌えるはずだ。

 俺は愛美と笑顔をかわしながら、今までで一番ウキウキする登校を満喫した。

 少し早めに家を出たが、学校についたのは、結構ギリギリの時間だった。

 学校につくと、校門のところでは、今や遅しと真嶋先輩が俺たちを待っていた。

「遅いぞ、神田二等陸尉、そして九頭竜三等陸佐!」

 えっ?愛美の方が階級上なんだ。

「おはようございます。すみません。遅くなりました」

「九頭竜くんは、早急に冷子くんたちと一緒に、最終登録を済ませてきてくれ。神田くんは、僕と一緒に、こっちだ」

「は、はい!」

 って、何故さっきは、階級で呼んでいたのに、今回は普通なんだ?

 慌てると階級で呼んでしまうとか、難儀な設定ではないだろうな。

 まあそんな事はどうでもいいか。

 で、俺はいったい、何処に連れて行かれるのだろうか。

 最近の愛美なら、俺がいなくても、冷子たちがいればなんとか大丈夫だろうが、やっぱり俺の気持ちとしては、愛美の傍にいたい。

 でもどうやら、俺はどんどん、学校内でも人気のない場所へと連れて行かれているようだった。

 まさか、真嶋先輩って、男が好きだとかそんな事はないよな。

 なんて冗談だが、本当に何処に行くのだろうか。

 しばらく歩いていると、いつも集まっている空き教室とは真逆の位置にある、ある教室の前で止まった。

 そこには、生徒会室と書かれていた。

 どういう事だ?

 もしかして、真嶋先輩って、生徒会側の人間だったってオチじゃないよな。

 なんて冗談だが、本当に何の用だろうか。

 なんて、同じネタを頭の中で二回もやってしまった俺は、何故か少し、悲しい気持ちになっていた。

「たのもう~」

 真嶋先輩は、威勢良くそう言うと、ノックもせずにドアを解放した。

 こんな時、ベタな漫画やなんかだと、中で女子生徒が着替えているシーンがあったりするのだが、そんな期待を完膚なきまでに否定するような声が、すぐに中から聞こえてきた。

「おう、来たか」

 そこにいたのは、完全に予想通り、体がでかくてむさ苦しい生徒会長だった。

 そしてもう一人、何処かで見た事のある、初老のじいさんが座っていた。

「校長先生、おはようございます」

 って、校長じゃねぇかよ。

「あ、ほはようございます」

 ヤベッ、アホって言っちゃった。

 でも、そんなオチャメな言葉遊びに、校長や生徒会長が気づくはずもなかった。

 真嶋先輩だけが、笑顔で俺にサムズアップしてきたのは、なんだかとても切なかった。

「で、萌え萌え側のもう一人は、そちらの男子生徒でいいのかな?」

 生徒会長はそう言って、怪しい目で俺の方を見ていた。

 もしかして‥‥

 もうこのネタはやめた方がいいな。

 つか、校長先生、挨拶返してくれねぇ。

 萌え萌え委員会って、そこまで嫌われているのだろうか。

「ああ、この神田くんが、萌え萌え側の、もう一人のコメンテーターだ」

 何の事だ、コメンテーターって?

 俺がおそらく間抜けな顔をしていると、生徒会長が説明を始めた。

「そっちの神田くんとやらは、分かっていないみたいだな。仕方が無い、説明してやろう。コメンテーターとは、コンテストの際、自分の応援している側の生徒に有利になるように、良いところや悪いところを解説する人物の事だ。生徒たちが質疑応答を済ませた後、コメンテーターのどちらかに、その役割が与えられる。分かったかな?」

「ええ、まあ」

 なんだかよく分からないが、よく分かりました。

「よし。では、大和撫子側は、私と校長、萌え萌え側は、真嶋くんと神田くんという事になる。そしてもう一つ言っておく事がある」

 生徒会長はそう言って、少し嫌な笑いをした。

 格好良い主人公が、余裕を見せる時にやる「フッ」って笑いだったが、なんとなく生徒会長がやると、格好がつかなかった。

「もう一つとはなんですか?」

 きっと真嶋先輩は、心の中では生徒会長を笑っているのだろうが、表面上は冷静だった。

「香川リカの事だが、彼女は今、生徒会の管理下に置かれているので、大和撫子側での出場となる。だから当然、香川リカが優勝するような事になれば、こちらの勝ちとなり、萌え萌え委員会は解散となるのでそのつもりで」

 解散ってなんだ?

 それにその理屈は、無理がありすぎじゃないか?

 リカちゃんは萌え萌え委員会のメンバーだし、どう見ても萌えッ子じゃないか。

 こんなのどう見ても、ブラジル人のサッカー選手を帰化させまくって、外国にブラジル人のナショナルサッカーチームを作るようなものじゃないか!

 って、説明が長すぎで分かりにくいかな。

 えっと、もう少し、完結に分かりやすく言うと、アメリカの核ミサイルで、ニューヨークを攻撃するようなものじゃないか。

 うん、コレはわかりやすい。

「って、ええ!そんなんでいいんですか?」

 俺は思った事をそのまま口に出していた。

 それでも生徒会長は、冷静に俺の言葉にこたえてきた。

「まあ、それはあくまで保険だ。私たちは香川リカの力に頼らずとも、萌え萌え側に勝利するつもりだ。ただ、生徒が本当の良さを分からないバカだったら困るのでな」

 何処かの国の国会議員のように、有権者をバカにしまくりだなおい。

「わかりました。では、話はそれだけですか。僕達は準備があるので、これで失礼したいのですが」

 真嶋先輩、いいんですか?

 あのリカちゃんに勝てる人なんて、いませんよ。

「うむ、では、萌え萌え委員会最後の日となる、文化祭を楽しもうではないか」

 いや、最後の日を楽しめって、あんたは日本に核ミサイルが落ちる寸前に、戦争ゲームで楽しめるっていうのかい。

「では失礼します」

「あ、失礼します」

 俺は真嶋先輩の後を追うように、生徒会室を後にした。

 廊下に出るとすぐ、俺は真嶋先輩に、詰め寄り気味に話しかけた。

「いいんですか?解散ってなんですか?リカちゃんに勝つなんて、無理じゃないですか?」

 俺の質問攻めにも、真嶋先輩のメガネのきらめきは、曇っている様子は無かった。

「大丈夫だ。萌え萌え委員会なんて、そもそも存在していないからな。あんなのはただの言葉の遊び。国があっての国民ではない。萌えッ子あっての、萌え萌え委員会なのだよ」

 なるほど、言われてみればそうだ。

 ただ空き教室に、友達が集まってだべっているだけだもんな。

「とは言え、このまま負けるのもしゃくだからな。一応、勝つ為に手は打つ」

 流石に真嶋先輩、伊達にカイザーとか呼ばせてないぜ。

「で、具体的に何をするのですか。まともにやって、リカちゃんに勝てる萌えッ子なんて、存在しないと思うんですが」

「何を言っている。九頭竜くんがいるじゃないか。キミは近くにいすぎて気がついていないかもしれないが、彼女はもう立派な戦士になっているぞ」

 愛美が立派な戦士?

 確かに俺は愛美が好きだし、個人的にはリカちゃんよりも、女性として好きだ。

 だけど、それは彼氏だからだと思っていた。

 それに、ドジっ子属性は、大人じゃなければ理解できないのではなかったか。

「でも、ドジっ子属性は、高校生にはまだ、刺激が強すぎやしませんか?」

「ふっ。そこでだ。キミにはやってもらいたい事がある」

 真嶋先輩は、相変わらず怪しかった。

 だけど、とりあえず面白いから、俺は真嶋先輩の言に従う事にした。

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