表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日から史上最強の萌えキャラ  作者: 秋華(秋山 華道)
2/25

愛美と初登校

 俺の通う事になっている「萌芽ほうが高校」に行くには、まずは家から最寄駅である「夢見駅」まで歩く。

 それから、高校の最寄駅である「萌芽駅」まで、電車に揺られる。

 そして再び萌芽駅から、我が学び舎まで少しだけ歩く事になるわけだ。

 俺はまず、近所に住む彼女「愛美」を、家まで迎えに行く。

 当然の事ながら、一時間以上早い時間にだ。

 愛美と一緒に登校するとなると、当然すんなり学校まで行けるとは思えない。

 だから早めの行動は必須だ。

 まずは当然のように、愛美はそう簡単に家から出てくる事はない。

「迎えにくるのが早すぎるから」と、思う人もいるかもしれないが、これは十時よりも早い時間ならいつもの事だ。

 俺は家の前で十五分待たされる。

 するとようやく、家から愛美が出てきた。

「久弥くんおはよう~。爽やかな朝だねぇ」

 そう言って出てきた愛美を見て、俺は驚いた。

 何故頭に花が生けてあるのだ?

 何故下半身だけパジャマのままなのだ?

 そして何故、弟の雄太ゆうたをつれて出て来たんだ?

 つか、雄太鼻水たらしまくって、しかもパジャマのままだぞ?

 愛美、ボケるのも大概にしろよ。

 俺は愛美の手をとると、共に家の中へ入って行く。

 愛美の両親とはそれなりに面識があるので、俺は軽く挨拶をして、家に上がった。

 まずは、弟の雄太をつかむ手を放させる。

 それを両親のいるリビングに向けてリリースする。

 すると雄太は、自らの足で、ゆっくりとそちらに向かって行った。

 まずは一つ完了。

 次に頭に挿してある花を抜きとって、玄関にある花瓶に突き挿す。

 そして適当に髪の乱れを整えてやる。

 顔の素材は良いのだから、もう少ししっかり髪を整えてあげたいが、俺にそんなスキルがあるはずもない。

 俺はすぐに愛美の手を引き、愛美の部屋へと入って行った。

 するとベッドの上に、制服のスカートが残されていた。

 俺は、それをおもむろに掴み取ると、愛美の腰に適当に巻きつけ、一気にパジャマをずり下ろした。

 うむ、これでオッケーだろう。

 俺は愛美を一回りさせて、問題が無いか確認する。

「よし、ばっちりだ」

 すると愛美は、何かを思い出したかのように、俺の声にハッとした表情をした。

 俺に何か落ち度があったのだろうか。

 パジャマと一緒に、パンツまでずり下げてしまうようなミスはしていないはずだが。

 すると愛美がポツリと言った。

「あ、お母さんに餌あげるの忘れてた」

 おいおい、なんだそれ?

 愛美の家は、母親に餌を与えているのか?

 そんなわけがないだろうが。

「大丈夫。お母さんは自力で餌とって食えるから」

 俺がそういうと、愛美はプルプルと首を横に振る。

 一体なんだっていうんだ?

「違うよ。金魚のピーちゃんのお母さんだよ」

 色々ツッコミを入れたくなる発言だが、ここはツッコミを入れずにいよう。

 一々ツッコミを入れていたのでは、きっと学校に行けなくなるからな。

「そっか。で、ピーちゃんはどこだ?」

「ピーちゃんは死んじゃったよ。ピーちゃんのお母さんだよ」

 まったくややこしいな。

「じゃあピーちゃんのお母さんは何処かな?」

 すると愛美は、俺を廊下へと連れ出し、廊下の隅を指差した。

 そこには水槽が置かれ、中には金魚が泳いでいた。

 俺は素早く水槽に近づくと、登校中に食おうと思って持っていたロールパンを、適当にちぎって、金魚に与えてやった。

 よし、これで全てオッケーだろう。

「これで大丈夫。じゃあ行くよ愛美」

 俺がそう言うと、愛美は笑顔で頷いた。

「わーい。久弥くんと新しい高校だぁ」

 愛美との付き合いは、正直面倒な事が多いが、こういう表情を見せられると、萌え死にそうになる。

 愛美の笑顔は最高なのだ。

 俺は愛美の手をとると、両親に挨拶をして、早々に家を出る。

 既に、残り一時間あった余裕は、三十五分くらいに減っていた。

 まずは夢見駅まで歩く。

 先ほど金魚にパンを与えてしまったので、とりあえず代わりのパンをなんとかしなければ、俺はきっと空腹で死んでしまう事だろう。

 俺は何故だか分からないが、愛美にパンを買いに行かせた。

 しばらくすると、愛美はパンを抱えて戻ってくる。

 しかし目の前でコケて、パンを押しつぶしていた。

 愛美に買いに行かせたら、こうなる事は分かっていたじゃないか。

 どうして俺は買いに行かせてしまったのだろう。

 後悔しながらも、俺はつぶれたパンを食べながら、夢見駅へと向かった。

 駅につくと、通勤時間と重なる為、それなりに人が沢山いた。

 中学までは徒歩通学だったから、電車での通学は当然初めてだ。

 俺たちはドキドキしながら、改札を通る。

 って、通れていなかった。

 愛美は閉まる改札機の中でオロオロしていた。

 見ると手には、ペンケースが握られていた。

 俺は改札の中から愛美に声をかける。

「愛美!それペンケースだから!」

 俺がそう言うと、愛美は舌を出して自らの頭をコツっと叩き、今度はちゃんと財布を取り出して、改札を通ってきた。

 相変わらず、こいつのドジは治らないようだ。

 しかし、治ってもらっても困る。

 このまま成長したら、きっとこいつは、史上最強の萌えキャラになれるのだろうから。

 俺はそれを期待して、愛美と付き合っているのだからな。

 そんな事を考えながら、俺は愛美の手をとると、一緒に電車に乗り込む。

 乗客がいっぱいで、一歩も見動きできない。

 すると愛美が、真っ赤な顔で言ってきた。

「久弥くん、こんなところでお尻さわらないでよぉ」

 なに!こんなところじゃなければ良いのか!

 って、違った。

 俺は触っていないぞ!

 と言う事は、痴漢って奴だな。

 俺は素早く愛美のお尻の辺りに手を入れて、そこにあった手を掴んだ。

「おら痴漢野郎、俺の彼女に何してやがる!」

 そう言って掴んだ手を上げると、その手の持ち主は、かなりいかついおっさんだった。

 俺は手を放し、一瞬たじろぐ。

 でも、俺がちゃんとしないと、運命は俺たちを、深淵の底につれて行く事になるだろう。

 即ち、どうなるかわからない。

 そんな事を思って躊躇していると、愛美が何やらそのおっさんに話しかけていた。

「お客さん、おさわり禁止なんだよぉ。追加料金五万円いただきます」

 おい愛美、一体何を言っている。

 この微妙な状況を金で丸く収めるつもりか?

 だけどこのいかついおっさんが、そんな金払うわけないだろうが。

 って、いきなり財布取りだして、金出してるよ。

 まあ、普通に考えれば、示談って奴だな。

 しかもおっさん、ちょっと赤い顔して、愛美の萌えパワーにほだされていやがる。

 やはりそうだ。

 俺の彼女は、大人にとっては最強の萌えキャラなんだ。

 おっさんは何かに取り憑かれたように、あっさりと五万円を愛美に渡した。

 しかし、愛美と一緒にいて、物事が順調に進むなんて、そうそうある事ではない。

 きっと何かが、これから起こるに違いない。

 すると電車が、少し荒いブレーキ操作で、一気にスピードを緩めた。

 乗客は前に体を持っていかれる。

 俺はなんとか吊革を掴み、コケるのを回避したが、うっかり愛美と繋いでいた手を放してしまった。

「しまった!」

 愛美の体は電車前方に飛ばされ、先ほどのおっさんに頭突きをかましていた。

「あ、大丈夫ですか。すみません。おでこ赤くなってますね」

 愛美はそう言って、おっさんのおでこを、ハンカチか何かでさすり始めた。

 するとおっさんのおでこから、血がダラダラと流れだす。

 おい、何もってるんだ?

 ハンカチじゃないのか?

 俺が覗きこむと、手には生け花用の剣山が握られていた。

「おい愛美、それハンカチじゃねぇから!」

 俺がそう言うと、愛美は驚いて手元を確認する。

「あっ、間違えちゃったwてへっ」

 って、そんなんで許されるわけないだろうが。

 おっさんが、悪役レスラーみたいに流血しまくりだっつぅの。

 結局、先ほど貰った五万円を、慰謝料として返す事で、なんとか許してもらえた。

 さっきまで頬を赤く染め、穏やかな表情をしていたおっさんも、別れる時には鬼がのりうつったような顔をしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ