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明日から史上最強の萌えキャラ  作者: 秋華(秋山 華道)
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愛美、萌えの第二ステージへ

 俺は今まで通り、愛美のドジを止めるのではなく、ドジをしても愛美が笑顔でいられるように、とにかくドジを楽しむ方向で頑張ってきた。

 そしたら、愛美の笑顔や反応に、萌えを感じている男子もいるようで、少しずつ効果は表れてきているようだった。

 しかし、大半は今まで通り、面白くないといった顔をするクラスメイトばかりだ。

 実際は、授業が中断されて嬉しい癖に、素直じゃない奴らめ。

 とは言え、もうすぐ行われる「迷惑投票」では、当然「迷惑」だと言ってくるだろう。

 このままでは、俺たちは田中に勝つ事は不可能に思えた。

 クラスメイトがみんな大人だったら、きっと大丈夫なはずなのに。

 笑顔の愛美を見て、みんななんとも思わないのだろうか。

 確かに、愛美の笑顔を見ると萌えるんだけれど、偶にイラっとくる事もあるんだよな。

 それがある限り、クラスのみんなを萌えさせるのは、不可能という事か。

 俺が悩みのメビウスリングの中で迷っていると、隣の冷子が話しかけてきた。

「いい加減、見ていて面倒くさいわね。一人で悩んで解決しないなら、誰かに相談するとか、変態には思いつかないのかしら」

 なるほど、言われてみれば確かにそうだ。

 流石冷子、伊達にツンデレ委員長目指してないな。

「そうか、では相談させてくれ」

「いやよ」

 ‥‥‥‥

 今、冷子はなんて言ったのだろうか。

「そ、相談すればいいと言ったのは、冷子じゃね?」

 パニックの中、俺はなんとか冷子にそう言ったと思う。

 すると冷子は、当然のようにこたえた。

「私に相談して、問題が解決すると思うの?」

 もっともです。

「すみませんでしたー!」

 俺は何故か謝っていた。

 で、とりあえず冷子に相談する事は断念したが、相談するってのはアリだと思う。

 俺は頭の中に、何人かの候補者の姿を思い浮かべた。

 まずは本人である愛美。

 これは当然却下だ。

 愛美に問題が解決できるなら、うになんとかなっているはずだからな。

 次に有沢だが、これも駄目だ。

 裏ヤンデレが好きな奴の事だから、きっとアドバイスもそちらに片寄るだろう。

 山田や副委員長も、俺が教える側だし、参考になるアドバイスを貰えるとも思えない。

 となると先輩だが、リカちゃん先輩の萌えは天性のものだから参考にはならない。

「真嶋先輩に相談に行くか」

 俺がそう呟くと、待ってましたとばかりに、冷子が立ちあがった。

「光一先輩のところに行くの?仕方がないわね。私がついていって上げるわ。感謝しなさいよね、この、ブラボー神田くん」

 なるほど、そういう事か。

 しかし冷子も素直じゃないなぁ。

 まあそれが、ツンデレであり、萌えというものなのだろうけれど。

「愛美、真嶋先輩のところにいくぞ。冷子、居場所は知ってるんだろ?案内頼む」

「ガッテンだよぉ。久弥くんと冒険の旅だぁ」

 俺は愛美に声をかけると、三人で真嶋先輩の元に向かった。

 って、冒険の旅じゃないんだけどね。

 そう思って出発したわけだが、冷子もどうやら居場所は知らないようで、キョロキョロと冒険さながらに、真嶋先輩を探しながら歩く事になった。

 真嶋先輩を探す冷子は、正に獲物を探す狼といった感じだった。

「今日はきっと、こっちにいる気がする」

 冷子は不気味な笑みを浮かべていた。

 真嶋先輩が同じ場所に留まっていないこの状況を理解すると、冷子はかなりしつこく、真嶋先輩をストーキングしているようだ。

 そこまでして逃げる真嶋先輩、幸せになってください。

 俺にはそう祈る事しかできなかった。

 ほどなくして、普段は誰も近づかないような校庭の隅で、真嶋先輩を発見した。

 冷子の先輩レーダーも凄いが、学校にこんな所があった事に驚いた。

 そして、こんな所にまで逃げている真嶋先輩が、不憫に思えた。

 まあでも、真嶋先輩の問題は、冷子と二人の問題だ。

 俺たちは俺たちの問題を解決しなければならない。

「真嶋先輩こんちは!ちょっと相談があるんですが、いいっすか?」

「ちょっと待ってくれ。この状況をなんとか受け入れるから‥‥」

 真嶋先輩の人生は決まったな。

 でもこんなに愛されているのだから、うまくやれば幸せになれるだろう。

「良かったな、冷子。真嶋先輩は、お前の事を受け入れてくれるそうだ」

「そうね。でも私と光一先輩が結ばれるのは、一万二千年前から決まっていたのよ」

 どこかの偉いおっさんが、何かを成し遂げるのに一番大切なのは「執念」だと言っていたが、俺はそれを目撃している気がした。

 しばらくして、ようやく真嶋先輩が正気を取り戻した。

「僕に相談とは何かな?ストーカーから逃げる方法以外なら、なんでもこたえるが」

「そうですか。では、最近のアニメにいらないものはなんですか?」

 俺はうっかり、関係の無い質問をしてしまった。

 真嶋先輩が、あまりにも元気がなかったので、好きなアニメの質問をと思ったからだ。

 これで少しでもテンションアップしてくれれば。

 しかしそれは、思いのほか効果があった。

「そんなもの、決まっている!萌えないヒロインだ!だいたいヒロインだからと言って、萌えないのに主人公の心を独り占めするとは、思い上がりも甚だしい!普通に考えれば、ツンデレ委員長の方を好きになって然るべきなのに、どうして何も感じないのだ!」

「あ、そうっすか」

 俺は妙な地雷を踏んでしまったようで、真嶋先輩の暴走は続いた。

 それでも、そんなヤバげな真嶋先輩でも、冷子は愛する目で見つめていた。

 本当に愛しているのだなと、俺は思った。

 俺はなんとなく愛美を見た。

 すると愛美は、俺の事を見ていた。

 その目は、冷子とは違っていたが、とても澄んでいて和むものだった。

 さて、暴走する真嶋先輩を、このまま放っておくわけにもいかない。

 俺は喋り続ける真嶋先輩に話しかけた。

「だいたいロリコンってなんだ!高校生から見れば、小学生も立派な恋愛対象だろうが!たかだか五歳違いで批判される筋合いはないはずだ!」

「はいはいそうですね。ではその萌えについて、少し相談したい事が‥‥」

 俺がそう言うと、真嶋先輩はピタッと喋るのをやめ、怪しい目で俺を見てきた。

「ほう、萌えについての相談?なるほど、そろそろ次のステップに進みたいと、そういう事だな?」

 真嶋先輩の言っている意味はよく分からないが、愛美の萌え化の事だろうか。

「えっとですね、かくかくしかじかというわけで、早急に愛美を、クラスのみんなに認められる萌えッ子にしなければならないのです。良い方法はありませんか?」

「なるほどな。田中先生はそんな手を使ってきたか」

 この真嶋先輩すげぇよ、かくかくしかじかだけで、全てを理解している。

 流石に萌え萌え委員会のリーダーだ。

「神田くん、キミなら既に分かっていると思うが、萌えを真に理解できるのは、心身共に成熟した大人だけだ」

 真嶋先輩の考えは、俺と同じものだった。

「はい、その通りだと思います」

「では、それは何故だと思う?」

 何故かと聞かれて、俺は困った。

 萌えとは、大人の中にある子供っぽさだと俺は思っている。

 そして、それを許せるのが、大人であるという考えだ。

 しかし、どうして子供だと、萌えを許せないと思うのだろうか。

 もしかしたら、それは自分が、萌えられる側だからだろうか。

「自分がむしろ萌えられる側だからでしょうか?」

「ふむ。なるほど、そういう考えもあるな。だがそれは正解ではない。神田くん、キミはまだ大人ではないが、萌える事もあるだろう?」

 その通りだ。

「はい、あります」

「萌える条件というのは、整理すればいくつかにまとめる事ができるんだ。一つは、当然子供っぽいと思える事だ。別の言い方をすると、人間は本能として子供の事を可愛いと思う。即ち一つの要因として、可愛いところに萌えると言えるだろう。しかし、子供っぽいだけではそのものには勝てない。たとえば山田くんが「お兄ちゃん」とか言ってなついてきても、萌える事はないだろ?」

 おいおい、少し嫌な想像をしてしまったぞ。

「はい、当然です」

「まあ子供っぽいだけではなく、ビジュアル的にも可愛さが必要だって事だ。そして他にも必要なものがある。それは、その萌え要素に対して、自分が勝っているという事だ。ドジな九頭竜くんを見て、キミは守ってあげたいと思う。即ち、キミは九頭竜くんよりもドジではないと思っているって事だ。天然ボケに萌える人ってのは、自分の方が知識や見識がまともだと思っている」

 なるほど、確かにその通りだ。

「だから大人の方が、より萌えを理解する事ができるんだ。知識も豊富に持っているし、萌えの対象が、無条件で格下扱いできる、年下である場合が多くなるからね」

 流石真嶋先輩、伊達に萌え萌え委員会やってないぜ。

「流石です、真嶋先輩!」

「うむ。という事で、同級生を萌えさせるとなると、それはなかなか難しい。理由は言わなくても分かると思うが、高校一年生には、多くの知識も、正しい見識も、上の立場に無条件になれる歳も、どれも持ち合わせてはいないからね」

 と言う事は、クラスメイトを萌えさせる事は不可能なのだろうか。

 俺が少し心配していると、真嶋先輩はメガネをキラっと輝かせ、ニヤリと笑った。

「ここまで聞いて、少し不安になっているようだね。だけど、萌えさせる事は不可能ではない。現にキミは、九頭竜くんに萌えているのだろう?」

「はい!」

 俺はハッキリとこたえた。

「ではそれがどんな時か思い出してみたまえ」

 俺はどんな時に萌えていたか、思い出してみた。

「それはやはり、可愛い顔や仕草を見た時でしょうか」

「そうだね。それが萌えの真髄だからね。そしてその可愛さを、九頭竜くんは持っている。萌えて当然だ。だけど、ドジっ子属性の場合、逆に腹が立ったりした事はないかな?それが今回の問題を解決するポイントとなる」

 俺は思い出してみた。

「そうですね。一つには、やっぱりショックで沈んでいる時かな。見ていて可哀相だとも思うんだけど、一緒にこっちまで気分が沈んでいくような気がする。他にも、へらへらして、全然反省していないと思える時も。こっちが迷惑被っているのにって」

「そうだ。一つ目は、萌えの要素である、可愛さが欠落している時って事だ。そして二つ目は、自分がなめられていると思われる時、自分が上である条件を欠落させられた時、という事になる。即ち、自分が大人になれなかった時。最近の九頭竜さんなら、可愛さに関しては、きっともう問題無いはずだ。だとすると、後足りないのは、もう分かるね?」

「はい、わかりました」

 そういう事か。

 だけど、反省しつつ、相手に自分の方が大人だと認識させ、負の感情を伝えないで、可愛さを維持する事は可能なのだろうか?

 俺は疑問に思い尋ねてみた。

「しかし、具体的にどうすればいいのか、俺には分かりません」

「そうだな、一言で言えば、九頭竜くんを、反省している可愛い子供だと認識させる事ができれば、全てが達成されると思わないか?」

「そうですね。でもそんな方法あるんですか?」

「ある。それは言霊だ。擬音、擬態、擬声を使いこなす事で可能になる」

 ほう、なるほど。

 ガンガンとか、モリモリとか、ニャンニャンとか、そういう言葉を使う事で、確かに可愛い子供っぽさはアピールできる。

 それを使って、反省すればいいという事か。

「で、具体的に、どんな言霊を使うのですか?」

「フッ‥‥」

 真嶋先輩は、ずれたメガネを中指で押し上げると、その答えを俺に教えてくれた。

 俺はその言葉を聞いて、「これならいける!」と、本気で思った。

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