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明日から史上最強の萌えキャラ  作者: 秋華(秋山 華道)
13/25

担任田中の陰謀

 萌え萌え委員会は、山田と副委員長を仲間に加え、ますます盛り上がっていた。

「山田なんだな。可愛い子がいっぱいで嬉しいんだな」

 山田はここ数日で、すっかり人が変わったように、立派なおとこになっていた。

 ちなみにここで言う漢というのは、「他人からどう思われようとも、カミングアウトし、自分をさらけ出す変態」って意味だ。

 山田はよだれをたらしながら、リカちゃんをなめるように見ていた。

 リカちゃんの事を、こんなにいやらしい目で見られるとは、ある意味凄いと思うよ。

 人間としては終わっているがな。

 流石にリカちゃんも危険を感じたのか、他の人たちと接する時のように、「お兄ちゃん」とは呼ばず、近寄りもしなかった。

 その後副委員長も自己紹介をしていたが、山田の視線に恐怖するリカちゃんを見ているのが楽しくて、すっかり聞くのを忘れていた。

 萌え萌え委員会の集会も終了し、俺と愛美は帰宅しようと、昇降口に向かう廊下を歩いていた。

 すると偶然を装って、担任の田中が俺たちに話しかけてきた。

「おう、こんなところでどうしたんだ?部活か何かか?」

 まったく何を言っていやがる。

 最後のホームルームが終わってから、ずっと俺たちをつけてきてるじゃないか。

「ええ、まあ似たようなもんです」

 俺が適当にこたえると、田中は少し表情をゆがめた。

「そうか。ところで少し九頭竜に話があるんだが、ちょっと職員室まできてくれないか」

 初めからそのつもりだったのかと、俺は思った。

 だったらどうして、ホームルーム中に言わなかったのだろうか。

 一応、愛美に対しての配慮なのだろうか。

 その配慮の為に、俺たちをずっとつけていたと‥‥

 俺は何かしっくりこないものを感じながらも、他に理由は思いつかなかった。

「は、はい。わ、わかりました」

 愛美はそう言って、先生の申し出に対して、コケそうになりながらも了承していた。

 仕方がない、俺もついていくか。

 先生と生徒が話をするのに、本来は何も心配する必要なんてないのだろうが、以前愛美の家に電話をして、喋るなと言った奴だ。

 また愛美に対して、余計な事を言うのではないだろうかと、俺は不安に思ったから。

「おい、神田は帰っていいぞ?」

 すると先生は、ついて行く俺に対して、すかさず帰るように言ってきた。

 だが当然、そんなものは無視だ。

「いえ、愛美と俺は一心同体少女隊なので、一緒に行きますよ」

 俺は父親に教わった、少し昭和なネタを入れつつ、先生の心を解きほぐそうとした。

 しかし全く通用しなかった。

「だがな、やはり他人には聞かせたくない話もあるだろう」

 先生の言葉に、愛美もすぐに反論する。

「わ、私は、久弥くんだったら、聞かれても大丈夫、です‥‥」

 それでも先生はなかなか折れない。

「先生もな、神田がいたのでは話しにくかったりするんだよ」

 此処までかたくなに拒否されると、俺は余計に不安になってきた。

 これはどうしても、愛美と一緒に行かないと。

 俺は伝家の宝刀を抜く事にした。

「先生、何かやましい事があるんですかぁ?無ければ大丈夫ですよねぇ」

 こう言われると、やましい事が無い人なら、自分の無実を証明する為に、大概の人は折れるはずだ。

 俺はニヤニヤとした顔を作って、田中を見つめた。

 すると田中は、明らかに動揺していた。

 なんだ?何かやましい事が、本当にあるのだろうか。

 まさかこいつ、愛美に気があるんじゃないだろうな。

 愛美と二人きりになる為に、職権乱用しようとしているのか。

 そもそも萌えキャラは、より大人に受け入れられる傾向があるからな。

 俺が不審の目で見ていると、田中はようやく居住まいを正し、平静を装ってこたえた。

「バカを言うな。仕方ないな、ついてきていいぞ」

 結果としては、俺の狙い通りだったわけだが、俺は此処までのこいつの行動に、一本の揺るぎない意志を確信した。

 愛美への執着。

 登校初日から、愛美の属性を理解し、喋らないよう勧めてきた。

 廊下から教室内を見ていたり、今日ストーキングしてきたり。

 そして今、話があるからと言って、俺を遠ざけようとする。

 俺は先生が生徒と恋愛する事に対しては、別に否定はしない。

 だが、やり方がいただけない。

 そしてなにより、愛美は俺の彼女だ。

 この田中が、犯罪に走らないとは言い切れない。

 俺は気をつけなければならないと思った。

 職員室には、年輩の先生が一人いるだけだった。

 結構微妙な状況だ。

 田中がホームルームで愛美を呼び出さなかったのは、時間を調整する為か。

 人のいない時間に呼び出す為の。

 俺の不信感はますます高まった。

「じゃあ、まあ座ってくれ」

 俺と愛美は、勧められた椅子に座り、田中と向かい合った。

 不信感をもって田中の顔を見ると、交番前の掲示板に張られているような、指名手配されている犯罪者にも見える。

 当然罪状は婦女暴行。

 ああ、こういう奴がいるから、先生が尊敬の対象にならない時代になったのだろうな。

 くそっ!何だか手足が震えてきやがったぜ。

 俺はドキドキしながら、先生の言葉を待った。

「なあ九頭竜、俺は入学式の日、電話でお前の母親と話をした。で、ドジを治す為の方法として、喋らない事を提案した。以前それでドジがある程度治った生徒がいたからな。だけどどうやら、九頭竜はそれを実践していないようだ。どうしてなんだ?」

 俺はすぐにでも反論してやりたかったが、とりあえず少し待ってみた。

 しかし愛美が、それにこたえる様子は無かった。

 ただモジモジと、俺にラブラブ光線を放っていた。

 仕方あるまい、俺が話してやろう。

「先生、代わりに俺が言います。確かに愛美は、喋っているとドジが増えます。しかし、だからと言って、喋るなと言われても、それは素直に受け入れられないでしょう。女子高校生ってのは、喋ってなんぼの人種なんですから」

 俺がそう言うと、田中の顔は、無罪が確定した犯罪者が見せるような表情に変わった。

「ふっ、でもな、人に迷惑をかけるわけだから、できる限り改善に向けて努力しないといけないのではないか?」

 田中の言葉に俺は再び反論する。

「それは分かっています。だから今、クラスのみんなに迷惑に思われないように、別の方法で愛美は頑張っています」

 俺がそう言うと田中は、メスのカマキリに食われている、オスのような顔をした。

「なるほど。それはドジを治すって事ではないようだね。ならば結局、将来九頭竜は苦労するのではないか?」

 田中はしつこかった。

 俺はだんだん面倒になってきていたが、愛美の為に尚も反論した。

「それは大丈夫です。愛美は史上最強の萌えキャラになる予定です。さすれば、全ての人からチヤホヤされて、どれだけドジでも、幸せな人生を送れる事でしょう」

 田中もそろそろ面倒になってきたのか、犬のウンコを踏んでしまったから、砂地で必死に付いたウンコを取ろうとしたのに、どうしても溝に入ったのが取れなくて、途方に暮れたような表情をした。

「ならば俺も、しばらくは何も言うまい。ただ、やはりみんなが迷惑に思っているなら、俺は先生としてこの状況を改善せねばならない。もうすぐ中間試験の一週間前に入る。その時に学級会を開いて、クラスのみんなに、迷惑に思うかどうか尋ねようと思う。そこで迷惑に思う人が誰もいなければ、俺はもう何も言わない。しかし迷惑に思う人が何人かいたら、その時は俺の言う事を考えてみてはくれないか」

 俺はそう言われ、結局受け入れる事しかできなかった。

 保護者から苦情が来たらどうにもならないとか、先生の立場を考えると、まあ当然の結果か。

 ただ、俺が約束しただけで、愛美は何も言っていないんだけどね。

 とにかくその日までに、俺たちは成果を出せるように、頑張らなければならなくなった。

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