3*メール
夜更けとともに増えていくよ
君への想いが
静かに静かに、心に積もる
―
*メール*
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「はぁーっ、辛いなぁーっっ」
静紅は開いた携帯を手に、ごろごろとベッドの上を転がる。
窓の外は一面闇で、深夜徘徊中の車の音は雨の音に存在を消されている。
静紅は、メールのボタンを押した。
真理たん
宛先に表示されている名前を確認して、本文を打つ。
『お疲れーっっ!真理たん!(*^∀'*)b』
脈絡も内容もあったもんじゃないメール。送信完了、という文字を確認すると静紅は天井を見つめた。
どうこうしようっていうワケじゃない。ただ、誰かに話を聞いてもらいたいだけ。
メール着信を知らせる光が、ぴかりぴかり、輝いた。
『あの後予約の団体客が来て最悪でしたょ…♯
で、何??今度はどんな悩み??』
真理には全てお見通しらしい。もともと相談するつもりだったんだし、と静紅はメールを打つ。
『実は静紅、好きな人ができちゃいましたぁっ☆』
『はぁ!?芸能人にしか恋できなかったょうな子が!!?お姉さんは嬉しいよ…どんな人??』
『真理たんも知ってる人。市村さん』
返事がしばらく来なかった。少し間を置いて、携帯が光る。
『椿さん怖いょー…??』
『別にどうかしようってワケじゃないもん。市村さんにも椿さんにも幸せになって欲しいし…でも胸が苦しくてー』
『んー…市村さん最初は違う人の事が好きだったのょ。辞めてった人なんだけど。で、告白したけど振られて、その時椿さんが市村さんに告白したの』
『じゃあ市村さんは誰でもよかったって事かな!?』
『さあ……でも椿さん、市村さんと行き詰まったら必ず私にメールするから、その時が狙い目だね』
静紅は、少し戸惑った。
何だかずるいような気もするし、だけどとったもん勝ちな気もするし……
『狙い目って??』
『最初は優しく接して、回数が重なってきたら“市村さん、しんどそうですね”みたいなこと言うのょ』
『策士だね!真理たん凄いー』
『仕方ないから静紅ちゃんのために一肌脱ぐゎょ!』
どうしようもないと思っていたけれど、どうにかなる気がしてきた。どうにもならなくて当たり前、だったら動いてみるのもアリかななんて考えが浮かぶ。
もしかしたら、仲良くなれるかもしれない。
静紅はにやけながら、真理におやすみのメールを打って携帯を閉じた。
なのにまた、返事が返ってくる。
『とりぁえず静紅ちゃん改革!!可愛いけど、そぅじゃなくて大人っぽくなろーねっ!! じゃぁおゃすみぃ』
「大人っぽく……かぁ」
生粋の童顔が、高校生になれるかどうか。
一度友達に化粧された事があるが、ケバい上に、小学生がマセているようにしか見えなかった。
「とりあえずっ、市村さんの視界に入るように頑張ろうっ!」
夜更かしは美容の大敵、という言葉さえ忘れて静紅はスキンケアを始めたのだった。