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立ち止まってもいいですか…?

「ねえ! 私達友達だよね!?」

「何よ、いきなり…」

「友達だよね? 親友だよね!?」

「当たり前じゃん。ってか落ち着きなよ」


いつものように裕子と杏とともに歩く帰り道。

突然足を止めた早希は不安そうに焦るように、二人に尋ねた。


「急にどうしたのよ」

「ううん…。ごめん。何でもない」

「何でもなさそうには見えないんだけど…」

「話せないんじゃ、私達親友じゃないかもね」

「うぅ……」


自分から言ってしまった手前、そんな風に返されてしまうと、早希も話さざるを得なくなってしまい、思いつめた表情のまま、事の一部始終を二人に話し始めた。


***


「あー!みーつけた!」

「きゃっ!? だれっ!?」


聞き慣れない声に後ろから突然抱きつかれた早希は、思わず悲鳴をあげ、必死に後ろを振り返ろうとした。


「わ・た・し・❤」

「えぇ…?」


何とか腕を解き振り返ることの出来た早希だったが、その招かれざる客の顔を見るや、一気に青ざめた表情になっていくのが自分でも分かった。


「あぁ…。香川さん…。えっと…。何…?」

「良かった。名前は覚えててくれたんだね」


忘れるわけが無い。と早希は思った。

あんな場面に遭遇して、あんな強引な誘惑をされて。

それが早希の脳裏からそんなにすぐに離れるはずが無かった。


「何って言うか、可愛い子がいるなぁって」

「そう…。あ、ごめんね。私、急いでるの…」

「…ダメ」


踵を返し、すぐにでも立ち去ろうとする早希の腕を優衣が掴んだ。


「ちょっとだけ。ね?」

「でも、私、そういうのじゃないから…」


そんな何気ない一言。

しかし、その一言が優衣の心を抉り、逆鱗に触れてしまっていた。


「そういうのって何?」

「えっ…。だから、その…」


誘惑の視線が一転、刺すような鋭い眼光に変わり、早希はもう目を合わせることすら出来なかった。


「アンタもアイツと同じ言い方するのね」

「アイツ…?」

「今日子よ」

「えっ?瀬尾さん?」

「アイツも同じ言い方してた。私はそういうのじゃない。って」

「えっ?でも…。あんなに仲良さそうだったのに…」


自分が見たキスシーンは何だったのか。

二人は当然仲が良くて、いわゆる恋人同士だからあんなことをしていた。

そう信じて疑わなかった早希にとっても、それは信じ難いことだった。


「私を利用してたってことよ。

 私と上手くやってれば、男子からの評判は下がらない。

 私はそんなに意識してなかったけど、アイツはどうしてもトップの座が欲しかったってわけ…」


「そんな…」


可哀想だと思って同情して、さらに逆撫ですることになれば逆効果。

かと言って、優しい言葉を掛けて、好かれてしまうことも好ましくはない。

次の言葉が見つからぬまま、早希はしばらく優衣の独り言をただただ聞いていた。


「まぁ、私が本音を知ってるってことはアイツはまだ知らないから、

 この事は絶対に誰にも言わないでよね」


「うん…」


本音を知ってしまっても仲良しでいようとする優衣の気持ちは、早希には理解できなかった。

そんな状態を続けるのは、ただ自分がつらいだけなのに、

何故、優衣はそうまでして今日子にこだわるのだろうか…。

もしかしたら、優衣も優衣で今日子を利用しようとしていたのだろうか…。

そんな憶測さえ浮かんでしまう自分を嫌に思いながら早希は優衣と別れ、裕子と杏のもとへと戻ったのだった。


***


「で、言っちゃダメって言われたのに、言っちゃって良かったの?」

「裕子と杏ちゃんなら、誰にも言わないって分かってるから…」

「まぁ、利用するとか利用されるとか、そういうのはよく分かんないけどさ。

 でも、それは恋人でもなければ友達でもないよね」

「杏の言う通りだと思う」

「友達って…何なのかな…」


相手を利用する、相手に利用される。それでも友達だと思えば友達なのか。

キスをしたら恋人なのか、友達同士でもキスをするのか。

どこからが友達で、どこまでが友達なのか。

結局のところ、早希にはそれが分からなくなってしまっていたのだった。


「うちらは友達?」

「うん。友達」

「クラスのみんなは?」

「仲良い子もいるけど、そうじゃない子もいる…」

「あんまり仲の良くない子は友達?」

「ただクラスメイトっていうだけかも…」

「じゃあ、仲の良い子は?」

「それは友達」

「じゃあ、水野は?」

「水野君は…。たぶん、友達…?」


何故、そこだけ名指しなのか。

しかし、そんなことが気になる前に、早希は自分の答えに疑問を感じていた。


「たぶん?」

「うん…。たぶん…」

「友達じゃないかもしれないってこと?」

「うん…。友達って言うか…」


自分の中で、水野の存在が友達の枠に収まっていないことは分かっていた。

しかし、それならば、どこに収まってくれるのか。

早希はそれにはまだハッキリとした答えを見つけることが出来なかった。


「友達って言うか…?」

「まぁまぁ、裕子。それ以上は酷ってもんよ」

「せっかくいいとこなのになぁ…」


真剣に聞いているのか、面白がっているのか。

しかし、そんな声も早希には届いていなかった。

答えが知りたい。

友達とは何なのか。自分と水野は友達なのか。

いくら考えても解けぬ問題に、悩む早希は裕子と杏の間を割るようにして、再び歩き始めた。

そんな姿に面を食らった二人は一瞬顔を見合わせ、すぐに早希の後を追い、様子をうかがった。


「早希?大丈夫?」

「うん…。でも、分かんない…」

「じゃあ、さ」


俯く早希に顔を上げさせるように、裕子は腕組みをして、その進路に立ち塞がった。


「聞いてみればいいんだよ。直接」

「水野君に?」

「そう。それで、決めてもらえばいいのよ!」


納得したかしなかったか、早希は「うん」と頷いた。

裕子の言った意味が早希に理解できていたのか、杏は心配ではあったが、これ以上早希が一人で考えて悩んでしまうよりは、その方が良いのかとも思い、あえて口を挟もうとはしなかった。


「ま、水野ならそれくらいの答えは知ってると思うよ」

「そうかな…」


無責任な言葉だとは思いつつも、それで早希が少しでも安心するのであればそれでいいと裕子は思った。


「はーい! 帰りにコンビニ寄って行く人!」

「先生に見つかっても知らないよ?」

「早希は?」

「えっ…。うん、ダメだよ。一回帰ってからにしよ」

「ちぇっ…」

「色気なんだか食い気なんだか…」

「杏? 何か言った?」

「空耳でしょ」

「言った! 絶対言った!」

「空耳よ」

「裕子は食い気かもね」

「こらっ! 早希っ!?」

「あはは」


難しい話もたまにはいいけれど、三人だけでは解けない問題もある。

そんな時は、ただこうして笑い合えたらそれでいい。

誰が言うわけでもなく、でも、三人の心は一つになっていた。



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