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赤くなってもいいですか…?

本日より投稿開始です。

予約投稿で、毎日22時・23時・0時に3話ずつ投稿されていきます。

(1月25日23時と、30日0時だけは2話同時投稿となっています)


それではごゆっくりお楽しみください。

ドンッドンッドンッ!


バンッバンッバンッ!!


「お前らふざけんな、鍵開けろーーー!!!」


ベランダに閉じ込められた林君が窓を叩いて必死に助けを求めている。

外は台風で大雨が吹きつけていて、林君はもうすでにびしょ濡れの状態。

男子はそれを見て大笑いで盛り上がり、女子はバカだなぁと思いつつも心配そうにその様子を見ていた。


「あれイジメじゃないの?」

「いや、違うっしょ。林も笑ってるし」


確かに端から見ればいじめているようにも見える。

でも林君も林君で、風に乗って雨が叩き付ける度にギャーギャーと笑いながら声を上げている。

からかわれているところは多少あるのかもしれないけれど、たぶんいじめではない。大丈夫。


「おい、早く入れてやれよ。そろそろ先生来るぞ」


それに、こういうときはいつも水野君がやめさせてくれる。

だから大丈夫。

本来それは、学級委員長の私の役目なのかもしれないけれど、男子は私の言うことはあまり聞いてはくれない。でも、水野君が言うとどれだけ盛り上がっていてもピタリと収まってしまう。その人望が少し羨ましくも思うけれど、私にはきっと望んでも手に入れることは出来ない。

委員長だって、水野君がやってくれたら、このクラスの男子と女子ももう少し歩み寄れると思うのに……。


「秋山」

「あっ、はい!?」


そんな風に考えている時に、突然当人から声を掛けられて、私も慌ててしまった。


「な、なに…? 水野君…」

「委員長なんだから、注意しなきゃダメだよ?」

「あ…。ごめん…」

「べつに、謝ってほしいわけじゃないんだけど…」

「うん…。ごめん……」


水野君は「まぁ、いいけど」と言い、再び男子の輪の中に戻っていった。

私は少し水野君に頼りすぎていると思う。それは事実。

特に男子のことに関しては、直接お願いしたわけではないけれど水野君がほとんど面倒を見てくれている。でも、手伝ってくれるからと言ってそこまで仲が良いわけでもない。

一年生のときに同じクラスで、三年生になった今再び同じクラスになり、一年生の三学期に一度だけ席が隣同士になった、たぶんそれが一番近い距離。

友達と言うよりはクラスメイト。水野君から見ても私はきっとただのクラスメイト。

それでも私を助けてくれる水野君は、やっぱりとっても良い人。

だから男子からも女子からも人望が厚いんだろうなぁ……。


「ほーら。席に着けー!」


先生が教室に来てホームルームが始まる。

それとともに男子の輪も消え、私の妄想時間も終わりを告げられる。


「まだ、雨が降ってるからな。みんな気を付けて帰るように」

「はーい」

「あと、この後ちょっと二人くらい手伝いをして欲しいんだけど…。

 委員長と、あと誰か一人手の空いてる人いないか?」


私は強制なのか…。

まったく、こういう時の委員長は本当に損だ…。

委員長という役割上、私も断ることが出来なくて「はい」と答えるしかない。

でもまぁいっか…。

もう一人いれば帰りが一人にならなくて済むから…。


「あ、じゃあ俺やります」

「ん。じゃあ水野、頼むな」


ちょっと!?

何でっ!?


私はてっきり、親友の裕子が手を挙げてくれるとばかり思っていた。

だから思わず裕子の方を見てアイコンタクトを取ってみたけれど、裕子も水野君のあまりの即答ぶりにタイミングを逃してしまったようで、手を合わせてゴメンと言いたげな表情で私の方を見ていた。


「じゃあ、秋山と水野は終わったらこっち来て。日直、号令掛けて」


「起立!」


礼をして、みんなは散り散りになっていく。

私は水野君とともに先生の後に付いて職員室へと向かった。


「これを後ろの黒板の上、これは教室の掲示板、これは廊下に貼って」


先生の手伝いというのは、掲示物の張替えや授業で書いた作品の掲示だった。


「終わったらそのまま帰っていいからね」

「はい」

「じゃあ、よろしく」


職員室を出た私達は、両手にいっぱいの掲示物を抱えて三階の教室へと戻る。すでに教室には誰も居らず、さっきまであんなに賑やかだったその空間はとても寂しく見えた。


「もうみんな帰ったみたいだね」

「うん。なんか静かだね」

「誰もいないほうが、俺は良かったかな…」


国語の時間に書いた習字の作品を名前順に並べ替えながら、水野君はポツリと言った。

「何で?」と聞き返してみたけれど、答えは無かった。

無視されたわけではなくて、答えに困って、言葉が出てこなかった感じ。

だから余計になぜなのかが気になったけれど、たぶん聞いてはいけないことなんだと思い、私もそれ以上は聞かなかった。


「秋山って…男子のこと苦手なの?」


しばらく無言のまま作業を続けていると、水野君のほうからそんなことを聞いてきた。


「そんなことないけど…」

「けど?」

「私が言っても、あんまり聞いてもらえないし……」

「そんな風に思ってるから、みんなも秋山のことが分からないんだよ」


怒られた…?

同級生のクラスメイトの男の子に怒られるなんて思ってもいなかったから、私は目を丸くしてしまった。


「あ、いや…そういうつもりじゃないんだけど……」

「うん…。でも、私、水野君に色々と頼っちゃって任せちゃってる…」

「いいんだよ、そんなの。俺が勝手にやってるだけだから…」


水野君は手を止めて、少し俯き加減に「そうじゃなくて…」と何度か呟いた。

でも私には、何がそうで何がそうじゃないのかは分からない…。

とにかく何か困らせてしまったのなら謝りたいし、こうやってまた手伝わせてしまっていることも申し訳なかった。


「ごめんね。裕子に言えば手伝ってくれたと思うんだけど、手伝ってもらっちゃってて…」

「また謝った。それやめなよ」

「うん。でも頼ってばっかりだし、今日も用事とかあったんじゃない?」

「こんな台風の日に用事なんか無いよ。それに、俺が自分から手を挙げたんだし。

 秋山は何も悪いことしてないし…。とにかく、謝るの禁止な!」


「うん」と返事はしてみたものの、じゃあ何と言えばいいんだろう…。

悪いなと思ってる私の心の中には、ごめんなさい以外にそれに当てはまる言葉はない。

でも、それを言ってしまうと、さらに水野君を困らせて迷惑を掛けてしまう。

じゃあ私はどうすれば…。

モヤモヤとした気持ちのまま、私は黙々と掲示物を張り替えていった。

二人でないと出来ない作業はもう無かったから、私は教室内、水野君は廊下と手分けをして作業を進め、すべてが終わった頃には雨も上がり、雲の切れ間からは橙色の夕日が力強くその輝きを私達に届けていた。


「あーっ、疲れたっ…!」

「水野君が手伝ってくれてよかった。…ありがとう」


ニコッと「どういたしまして」と返してくれた水野君に、私は何かを見つけたような気がした。

憧れていたのはこの優しさ。羨ましかったのはこの笑顔。

夕日に染められた教室と私達。心がその橙で満たされると自然と体が温かくなっていくのを感じる。


「帰ろっか」

「えっ!? あっ……うん」


熱を帯びた橙は、次第に赤へと変わり始めるのだった。



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