食いものに貴賎なし
一応、オリジナルです。
思いつきで書いたものです。
( `・ω・´)ノヨロシクお願いします
燃える、燃える、村が燃えて行く。
農作業の手伝いをして手に入れたお小遣いを手に通った雑貨屋も、村一番大きな村長の家も、小さいながらもそこを思い出すとほっとする気持ちになった我が家も、みんな、みんな燃えて行く。
こんな小さな村では抗いようの無い、天災としか言いようのない破滅を齎した生き物の叫び声。
ドラゴンと呼ばれるその生き物。
その種族の中では小さく、若い個体だろうが、普通の人間には立ち向かうことすら思いつかぬほど強い。
家族を逃がすために農具を手に立ち向かった男が、尾のひと振りで吹っ飛んでいき、口から血を吐いて動かなくなる。
建物の下敷きになった親から離れられず、ただ泣き叫ぶ子供の声も聞こえる。
昨日まで「平凡な農村」を絵に描いたようであった、退屈すら感じさせるほど平和な村が、赤と黒に染め上げられ「地獄」という全く違った顔を見せている。
退屈で、おんなじ毎日にうんざりしてたけど、こんなのってないでしょ?
嘆き、動く事も出来ずへたり込んだままの少女。
しかし、赤と黒の地獄の中、全く異なる色彩に目を奪われる。
白と金。
真っ白な金糸の刺繍を施された神官衣。
さらさらとそこだけ時間の流れがゆっくりになったように揺れる金色の髪。
王都の神殿の女神像がそのまま写されたような美しい顔立ち。
しかし、その顔には傍目にも分かる「怒り」が浮かんでいる。
「女神さま・・・?」
眼差しは恐れもなくドラゴンを貫き、その動きを止めているように見える。
まるで神話かおとぎ話のような光景。
しかし、美しい唇が、怒りを乗せた言葉を発した時、少女の幻想は砕け散った。
「たかが食材の分際でデカイつらしてんじゃねーぞ、トカゲモドキが! しかもお前、メスもゲット出来ねーひ弱なオスだろ! 脂も乗って無くて大して美味くもねー癖に! 生け作りにしてやろーか!? それとも生きたまま下半身だけ、から揚げにして欲しいか!? せっかく、わざわざ、この俺様が、ここの特産品のネギを買い付けに来たっていうのに、畑ごと丸焼きにしやがって! 『食い物を粗末にする奴には最大の苦痛を!』と我が女神様もおっしゃっている。よって、最大限の苦痛を与えた上で死刑だ! なーに死ねばなんでも『尊い食材』だ、安心して死んどけ!」
ビシッ! という感じでドラゴンに指先を突きつけ、口上を叩きつけた神官は、そのままの勢いで神官衣の前を開く。
ズラリ・・・としか言いようのない、お店でも見ることがないほどの大量の包丁が、その裏側のポケットに収納されている。
殺生や流血を避け、刃物を嫌う神官が多い中、刃物を平気で振り回し、流血を大量に生み出す事を是とする女神。
「美食の女神ラルシオネ様の神官さま?」
「いえーす! その通り!」
ニコッというよりニカッ! という擬音が相応しい笑みを浮かべ、神官はその両手に包丁を握る。
熟練の冒険者の剣すらはじくドラゴンの体に、神官が包丁を振るう度に赤い線が走って行く。
「包丁を入れる場所さえ間違えなければ、簡単に捌けるもんなんだよ、娘さん。結婚して自分で料理作る時、覚えておくと包丁を無駄に欠けさせたりせずに済むから覚えておくといい。」
ドラゴンを相手にしているというのに、まるで町の料理教室で奥様方を相手に料理のコツを教えているように気楽に語る。
怒りと苦痛から、憎い相手へと振り回されたドラゴンの尾を、あっさりと地面に柳刃で縫い付けると、そのまま付け根から尾を切り落とす。
ビッタン、ビッタンと動く尾を無視して、流れるようにそのまま左の後ろ肢も斬り落とす。
退治というより、解体作業、いや、食材を捌いているというに相応しい動き。
誰がまな板の上の魚を警戒するだろうか?
この神官に取ってみれば、ドラゴンであっても、小魚であっても同等なのだろう。
さっきまでの恐怖の対象が、たった一人の神官の存在で全く別のものへと変わっていく。
少女だけでなく、近くに居る生き残った他の村人にも共通する感情。
それは・・・。
「ドラゴンってけっこうおいしそう(涎)。」
・・・であった。
羽根も手足も失ったドラゴンが、ここまでみっともない物だとは思わなかった。
もはや、恐怖の対象たり得ないその姿。
まだ蛇の方がかっこいい。
その光景を見た少年はそう思った。
神官に簡単に蹴り転がされ、白い腹にその包丁が入って行く。
内臓が引きずり出され、その内臓が切り分けられていく。
もはや暴れる力も、気力も、術もなくしたドラゴン。
憐みすら感じさせる光景だが、捌きながら神官が作り始めたシチューの食欲をそそる匂いに、村人たちの憐みはあっという間に吹っ飛び、食欲へと上書きされていく。
その首を切り落とされた時、ドラゴンの目にほっとした色が浮かんでいた。
村人たちは後々までそう語り継いだという。
神官は傷を負った村人たちを治療すると、捌いたばかりのドラゴンを使って料理を作って振る舞い、加工した内臓と燻製肉を大きな袋に入れて担ぐと、あっさりと村から立ち去っていった。
残されたものは、美食の女神の神官の手による、二度と食べられないほどのドラゴンを使った極上の料理と、料理しきれなかったドラゴンの肉。
そして、村を数十回再建してもお釣りが来るほどの価値を持った、ドラゴンの骨、皮、鱗などであった。
その後、再建された村には不釣り合いなほど立派な、美食の女神の神殿が建てられたという。
ご読了ありがとうございました。
一応、シリーズ化可能な話ではありますが、他に連載を複数抱えた上に、そっちの更新が進んでない状況ですんで、短編とさせていただきました。
ちなみに美食の女神には信者の食べた美食が届けられる事になってまして
・美味い物を食べ過ぎても、食べ過ぎた分は女神の所に行くので太らない
(「美」食で醜く太るのは許せない、と女神様は仰っています)
・生きてく為の食事の分は女神のトコにはいかないので、飢え死にしそうなのに女神に食い物を持ってかれて死ぬということはない
・食いものの独り占めや、不味い料理を作ったり人に強制する事は人を殺すよりも重い罪(料理教室や料理本の執筆、食材の探究が神官の仕事です。花嫁修業で放り込まれる人間も)
・女神に仕える者は料理でお金を儲けてはならない。ただし神殿への寄付は可
・神と人以外は何でも食う(毒ですら「美味しく食べられる適量があるはず!」って考えです)
・美食の女神の神官が殺された土地(および殺す指示を出した者の居る土地)の食いものは不味くなる呪いがかけられる(かつて軍事力で世界を制圧しようとした帝国がこの呪いにひっかかって、国内の食いものすべてがゲロマズになったあげく滅亡した事例があります)。なもんで神官は政治やその土地での信仰勢力図に関係なしにアンタッチャブルです
なんて決まり事や設定も一応あります^^;