【第6話:綴られた再会、月下の奇跡】
屋敷の書庫で、私はセバスチャンさんからアルフレッド様の過去を聞かされた。
若くして家督を継いだ彼は、最愛の母を早くに亡くし、それ以来、心を氷のように閉ざして生きてきたのだという。
(あの、私への熱すぎる溺愛っぷりからは想像もできないけど……。この広いお屋敷で、ずっと一人で耐えてきたんだ)
胸が締め付けられるような思いで、私は新しく手に入れた羽ペンを握った。
名前と共に授かったスキル、【綴る者】。
私は、吸い込まれるような白紙のノートに、溢れる想いを書き殴った。
『冷たい月夜、孤独な伯爵の前に、一筋の光が舞い降りる。それはかつての慈愛。触れることはできずとも、魂を包み込む温かな再会――』
妄想じゃない。これは、私の心からの願い。
書き終えた瞬間、ノートから柔らかな光が溢れ出し、窓の外へと吸い込まれていった。
「ラルム? こんなところで何を……」
背後からアルフレッド様がやってきた。その時、ふわりと。
あり得ないはずの香りが、廊下に漂った。
「……っ、この香りは。……母上が好きだった、リリー・オブ・ザ・バレー(スズラン)の?」
アルフレッド様が目を見開く。
庭園の隅、月明かりが差し込む場所に、ぼんやりと光の粒子が集まっていく。それは、彼を優しく見守るような、女性のシルエットを描き出した。
「母上……? なぜ……」
アルフレッド様がふらふらと歩み寄る。光の像は、愛おしそうに彼の頬を撫でる仕草を見せ、一言だけ、声なき声で「愛しています」と告げた。
それはほんの数十秒の、幻想のような奇跡。
光が霧散したあと、そこには涙を流したまま立ち尽くすアルフレッド様がいた。
「……ラルム、君がやってくれたのか?」
振り返った彼の瞳には、これまでの執着とは違う、もっと深い、魂からの感謝と敬愛が宿っていた。
「……ああ、やはり君は私の『主人公』だ。君がいなければ、私の世界は凍りついたままだった」
アルフレッド様は私を壊れ物を扱うように抱き寄せ、その肩に深く顔を埋めた。
彼の震える肩を感じながら、私は確信した。
(私の『妄想』……いえ、『綴る力』は、この世界を救うためにあるのかもしれない)
でも……。
「ラルム、決めたぞ。君を一生、私の瞳の中に閉じ込めておく。もう誰にも、指一本触れさせない……!」
(あぁぁ、感動の直後に溺愛の重さが三倍くらいになって帰ってきたぁぁぁ!?)
私のスキルが発動するたび、伯爵様の「重さ」もレベルアップしていく。
嬉しいけど、ちょっと、いや、かなり命の危険(キュン死的な意味で)を感じる今日この頃です。




