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【追加エピソード:失われた名前と代償】


「……ところで、お嬢様。お名前を伺ってもよろしいですかな?」

セバスチャンさんの優しい問いかけに、私は「あ、そういえば」と口を開こうとした。

けれど。

「え……っと。私の、名前……?」

思い出せない。

ついさっきまで女子高生をやっていたはずなのに。出席番号だって、テストの答案用紙に書いていたはずの名前だって、霧がかかったみたいに真っ白で。

(私……名前、なんだっけ?)

焦る私の脳裏に、突然、無機質な声が直接響いた。

『――貴女の「名前」をいけにえ(代償)に、固有スキルを獲得しました』

(……えっ!?)

『このスキルは、貴女がこの異世界で死なないための絶対守護。そのあまりに強力な因果をねじ曲げる対価として、貴女はこの世界から「元の名前」を没収されました』

「うそ、でしょ……?」

愕然とした。

最強のラッキー(お約束)と引き換えに、私は自分自身を証明する一番大切なものを失ってしまったのだ。

「どうした? 顔色が悪いぞ」

アルフレッド様が心配そうに私の顔を覗き込む。

私は震える声で、今の状況を正直に話した。

名前を思い出せないこと。それがスキルの代償だったらしいこと。

「そうか……名前を。……すまない、私が君をこんな危険な世界へ招いてしまったせいかもしれない」

伯爵様は悲しげに目を伏せると、私の手を取って、誓うように熱い視線を向けた。

「だが、案ずるな。名前がないのなら、私が新しい名前を贈ろう。……いや、私と同じ『姓』を名乗るのが一番早いか」

(……はい? さりげなくプロポーズに持っていこうとしてません!?)

「よし、今日から君は私の妻――」

「早すぎますぞ、旦那様」

セバスチャンさんの冷静なツッコミが飛ぶ。

名前を失ったというシリアスな展開を、伯爵様が秒速で「溺愛ルート」に変換しようとして、私の感動がどこかへ吹き飛んでしまった。

(名前を失ったのはショックだけど……とりあえず、この『お約束スキル』を駆使して、生き残るしかなさそうね!)

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