【第十一話:魔王、全巻読破! 貢ぎ物と「続き」の催促】
数日後。私が徹夜で書き上げた「勇者と魔王がうっかり入れ替わっちゃうラブコメ」を、例の黒鴉に託してからというもの、王宮は異様な緊張感に包まれていた。
「魔王を満足させられなかったら、軍勢が攻めてくるのでは……」
「聖女ラルム様は、この国のために命を懸けて筆を執られたのだ……!」
そんな悲壮な空気の中、再びあの鴉が飛来した。
だが、その姿を見て、立ち会っていたアルフレッド様とカイル王子が絶句した。
鴉の足には、手紙だけでなく、手のひらサイズの「異空間収納袋」が結びつけられていたのだ。中を改めると、まばゆいばかりの魔界の宝石、そして見たこともないほど豪華な、魔界直送の絶品スイーツの山が溢れ出した。
「な……なんだ、この財宝の山は……!?」
アルフレッド様が、それらを汚物でも見るかのような目で睨みつける。
震える手で添えられた手紙を開くと、そこには、これまでの威厳が霧散したような、力強い筆致でこう書かれていた。
『……素晴らしい。何だこの「入れ替わり」という概念は! 勇者の身体で戸惑う魔王の健気さに、我が心は震えたぞ!
特に、宿敵同士が恋に落ちる予感の第8章……! ラルム、続きはまだか!? 続きを寄越せ!
とりあえず、執筆の糧に魔界の国宝級スイーツを送る。足りなければ魔界の領土半分でもくれてやる。だから、早く、次を、綴れ!!』
「……魔王様、全巻読破しちゃったみたいですね」
私がポツリと呟くと、広間はしんと静まり返った。
あの世界の脅威が、私の書いたラノベにドはまりして、今や「続き」を求めてのたうち回っている。
「……ふざけるなッ!!」
アルフレッド様の怒声が響いた。彼は魔界の宝石を床に叩きつけようとして、セバスチャンに冷静に止められた。
「魔王め、貢ぎ物でラルムを釣るつもりか!? ラルム、あんな甘い菓子に騙されてはいけない! 続きなど書かなくていい、あいつには完結編を永遠に見せず、生殺しにしてやるんだ!」
「いやいやアルフレッド、それは執筆者(作者)に対して一番やっちゃいけない残酷なことだよ?」
カイル王子が、ちゃっかり魔界のスイーツを一つ摘まみ食いしながら笑う。
「でも驚いたな。ラルムちゃんの『綴る力』は、魔族の破壊衝動すら『読書意欲』に書き換えてしまったわけだ。……これは、剣で戦うよりずっと最強の武器だね」
王宮中に、安堵と、それ以上の困惑が広がっていく。
「聖女様が、物語の力で魔王を籠絡(オタク化)した」という噂は、この日、伝説として確定した。
(まさか、魔王様が「重課金ファン」になっちゃうなんて……。でも、続きを待ってる読者がいるなら、書くしかないわよね!)
作家魂に火がついた私と、魔王への嫉妬で完全に理性を失いつつある伯爵様。
私の異世界生活は、世界の平和と引き換えに、ますますカオスな溺愛修羅場へと突入していくのでした。




