【第十話:魔王からの挑戦状と、絶望の(?)執筆依頼】
魔王が王宮に現れ、嵐のように去っていった翌朝。
王宮の私の部屋の窓辺に、見たこともない漆黒の鴉が止まっていた。その足に結びつけられていたのは、禍々しい魔力を放つ一通の書状。
「ラルム、触れてはいけない! 呪いがかかっているかもしれん!」
「大丈夫ですよ、アルフレッド様。なんだか……この手紙、すごくいい匂いがしますし」
私が封を切ると、そこには美しい文字でこう記されていた。
『愛しき「綴る者」ラルムへ。
昨日の王宮の茶番劇、実に愉快だった。
貴様の紡ぐ物語は、この退屈な世界にどのような彩りを与えるのか。
我もまた、貴様の「読者」になりたい。
もし我が満足する物語を綴ってみせれば、貴様が望む「世界の真実」を教えてやろう。
期限は次の満月の夜。楽しみにしているぞ』
「なっ……! あの野郎、ラルムを「愛しき」だと!? 殺す、今すぐ魔界に乗り込んであいつの首をはねてくる!」
アルフレッド様が、文字通り目が血走った状態で剣を抜こうとする。
「落ち着けよ、アルフレッド。それより気になるのは『世界の真実』の方だろ?」
いつの間にか部屋に侵入していたカイル王子が、手紙をひょいと覗き込む。
「ラルムちゃん。君がこの世界に来た理由や、名前を失った理由……魔王なら何か知っているかもしれないね」
王子の言葉に、私はハッとした。
(そうだ。魔王なら、私がどうしてここに来たのか、どうすれば帰れるのかを知っているかも……!)
「……私、書きます。魔王を満足させる物語を」
私が決意を口にした瞬間、部屋の空気が二重の意味で凍りついた。
「だめだ! ラルム、あんな奴のために指一本動かす必要はない! もし真実が知りたいなら、私が全知全能の神でも何でも捕まえてきて君に吐かせてみせる!」
(アルフレッド様、それはもう神話の領域ですよ……!)
結局、アルフレッド様とカイル王子という「人類最強の二人のイケメン」が監視(という名の付き添い)をする中、私は魔王に捧げるための物語を執筆することになった。
私はペンを握り、スキル【綴る者】を発動させる。
(魔王が満足する話……。やっぱりここは、現実世界のラノベ知識をフル活用した「勇者と魔王がうっかり入れ替わっちゃうラブコメ」とかでいいのかな!?)
私の妄想力が、今度は魔界の王すらも混乱の渦に叩き込もうとしていた。




