【第九話:魔王、見参? 王宮は修羅場と化す】
アルフレッド様とカイル王子による、私を巡る「略奪バトル」は、王宮の大広間で一触即発の状況だった。
「離せ、カイル! 私のラルムだ!」
「いやいや、僕の王妃になるんだから、もう僕のラルムだろ?」
左右から腕を掴まれ、私は右往左往するしかない。
(やめてぇぇ! このお姫様ドレス、破けちゃう!)
周囲の貴族たちは、国王陛下すら呆れ顔で頭を抱えるこの状況に、ひそひそと囁きあっている。
そんな、これ以上ないほど混沌とした広間に、突如、冷たい風が吹き抜けた。
「ほう。ここが人間どもの王宮か。……ふむ、なかなか騒がしいな」
低く、けれど広間全体に響き渡るような声。
全員の視線が、大広間の大扉へと向かう。
そこに立っていたのは、漆黒のローブを纏い、顔の半分を仮面で覆った謎の人物だった。
その身から放たれる、凍えるような圧倒的な魔力。
誰もが息を呑み、金縛りにあったように動けない。
「ま……まさか……魔王!?」
国王の顔から血の気が引く。
(えっ!? 魔王!? 私まだ魔王討伐編の準備とかしてないんですけど!? 『お約束』スキル、発動中!?)
魔王と名乗る人物は、一切の動揺を見せず、広間をゆっくりと見渡す。
そして、その視線は……私と、私を両側から掴んでいるアルフレッド様とカイル王子に釘付けになった。
「ほう。奇妙な光を放つ娘がいるな。……それに、その娘を巡って争っている愚かな人間ども」
魔王の目が、私を捕らえた。
その瞳は、底知れない闇の色をしていたが、どこか楽しげな光を宿しているようにも見えた。
「これは面白そうだ。まさか人間どもの王宮で、これほどの『物語』が繰り広げられているとはな」
魔王は、不敵な笑みを浮かべた。
すると、アルフレッド様が、私を庇うように一歩前へ出た。その手には、先ほど鞘に収めたはずの剣が、再び抜き放たれている。
「魔王であろうと関係ない! 私のラルムに、指一本触れさせるものか!!」
「はっ、アルフレッドが魔王にすら嫉妬か? 面白い」
カイル王子も、剣こそ抜かないものの、私を離そうとしない。
(いやいやいや! 相手は魔王ですよ!? 人間同士で争ってる場合じゃないでしょ!?)
「ふむ……。なるほど、面白い人間だ。いいだろう。その娘、しばらく観察させてもらおうか」
魔王はそう言い残すと、煙のように姿を消した。
後に残されたのは、凍りついた国王と貴族たち、そして私を庇って剣を構えたアルフレッド様と、不敵な笑みを崩さないカイル王子。
「ラルム……無事か!? 怖かっただろう。もう誰にも君を奪わせない。魔王であろうと、国王であろうと!」
アルフレッド様の瞳は、魔王の出現でさらに狂気にも似た執着を帯びていた。
(魔王にまで狙われちゃったんですけどぉぉぉ!?)
私の異世界生活は、どうやら国家間の争いどころか、人間と魔族をも巻き込む、壮大な『物語』へと発展してしまったようです。




